パンク、映画好きにオススメしたいエロ漫画−「ジョン・K・ペー太」大百科

 
今回も、またエロ漫画のお話です。
 
…と言っても、エロ漫画で描かれる性行為についてや、それにまつわるお話ではありません。
 
エロ漫画で、一番重要なのは勿論、エッチ描写なわけですが、それ以外の漫画を構成する要素も、実はとてもおもしろいんですよ。中でも、私が特に興味深く思っているのが、エロ漫画の中で描かれる、音楽や映画といった作者さんの趣味が顔を出す瞬間でして、以前にも以下の様なエントリ書かせていただいたんですが、
 
■睦「プラネタリウム」に見る、マニアックなセンスの表現の場としてのエロ漫画
 
漫画家さんってイマジネーションが豊富で、創作分野に秀でているからか、音楽や映画なんかに対しても、こだわりというか、独自の審美眼を持っていらっしゃる方が多いように思うんですね。それに加えて、エロ漫画って、漫画の中でもコアな存在なせいか、一般誌で連載されている漫画に比べて、よりマニアックな作品が出てくることが多いんですよ。
 
で、自分なんかはその辺の元ネタを探したり、そこから作者さんの背景を探っていくのが大好きでして…ほら、漫画やアニメを見ていて、自分の好きな映画のタイトルやバンド名が出てきたら嬉しいでしょ? アレです、アレ…エロ漫画で、一般誌ではなかなか相手にされないようなマニアックな表現分野のエッセンスを見つける度に一人で喜んでたんですよ。
 
で、そんなディープなエロ漫画の世界で、一際自身のマニアックなセンスを漫画で体現している作家さんがいらっしゃいます。…私の大好きな、ジョン・K・ペー太先生です!
 
 

ジョン・K・ペー太を考える

ジョン・K・ペー太先生の漫画を一度でも読んだことがある方なら、作品の持つその強烈なインパクトが脳裏にこびり付いて離れなくなっているかと思いますが、ご存じない方の為に簡単に説明をさせていただきますと、「女の子がエッチしてると白目剥いて嘔吐して失禁してお腹がボコーってなって断面描写を描いてしまう」(※単行本「轟け!! 悶絶スクリーマー」あとがきより抜粋)かなり特殊なエロ漫画家さんです。
 

う〜ん…ヒドい……。
 
一言で言ってメチャクチャ、女の子に対する破壊描写は、「クラッシャー」のあだ名を持つ元修斗世界王者、川尻達也選手ですら、泣きながら裸足で逃げ出しそうな激しさです。
 
単行本のあとがきでも自身の作品を「マニアックでマイノリティ」と評しているように、ものっそいハードコアな漫画を描く漫画家さんなのですが、ペー太先生の凄いところは、そういったグロテスクでエグくて暴力的な「マニアックでマイノリティ」なものをギャグタッチで描いてしまうこと。
 

 
結果的に、「鬼畜」や「猟奇」といった要素とは一線を画した、独特なハードコア描写を確立している、稀有な漫画家さんなんです。
 
で、そのペー太先生、PUNKやHRADCORE、ホラー映画なんかが大好きなようで、漫画の中でもそれらを扱った描写が度々登場します。
 
そもそも、漫画家としてのペンネームも、アメリカのホラー、SF映画界の鬼才監督「ジョン・カーペンター」からとっているように、自身の大好きなものを漫画の中に持ち込むことを、とても楽しんでいるようなのです。
恐怖の詩学 ジョン・カーペンター―人間は悪魔にも聖人にもなるんだ (映画作家が自身を語る)

恐怖の詩学 ジョン・カーペンター―人間は悪魔にも聖人にもなるんだ (映画作家が自身を語る)

で、そういった作者の趣味、嗜好っていうのが、ペー太先生の場合、描く作品の作風に凄く象徴的な意味を持ってくるんですよ。
 
ですので、今回はジョン・K・ペー太先生の漫画に出てきた、音楽や映画作品を自分なりにまとめてみました。
 

 
過去作品の再発もコアマガジンから行われているのですが、今回は、コアマガジン移籍以降の作品「プルプル悶絶ライセンス」「轟け!! 悶絶スクリーマー」「トキメキ悶絶バルカン!!」の三冊の単行本から、先生のバックボーンを探っていこうと思います。
 
 

■MISFITS


単行本「プルプル悶絶ライセンス」収録の「必殺桃尻バーニング!!」で、女の子が手にとっているアルバムは、米国のカルトホラー・パンクバンド「Misfits」の傑作アルバム「Static Age」!
Static Age

Static Age

Misfitsは、70年代末にニュージャージーで結成され、その激しくもポップなパンクサウンドと、SFやホラー映画の要素を取り入れた活動コンセプトにより、後のパンク、ハードコアシーンに多大な影響を与えた偉大なバンドです。
■Youtube - Misfits / Hybrid Moments
彼らのトレードマークであるドクロのキャラクター「クリムゾン・ゴースト」、永井豪の劇画「デビルマン」に影響を受けたと言われる「デビロック」という髪の中心だけを伸ばし前に垂らした独特な髪型など、その徹底したビジュアル・イメージは、パンクファンに絶大な人気を持ち、今でもTシャツなどの各種グッズが多数発売されています。
 

 
同じく「プルプル悶絶ライセンス」収録の「スーパー鬼畜パーク!!」では、デビロック・ヘアーをした不良が
 

 
「トキメキ悶絶バルカン!!」収録の「咲き乱れトレイン」では、女の子がバンドのロゴとクリムゾン・ゴーストがプリントされた、MisfitsのTシャツを着て登場します。
 
どうやら、ペー太先生、Misfitsが大のお気に入りの様です。
 
Misfitsの音楽は、パンク、ハードコアらしい激しさに満ちていますが、根底にはポップで明快なメロディーが流れており、また、独自のビジュアルイメージも、どことなく見るモノにユーモラスな印象を与えます。バンドは一度解散をし、90年代の半ばに新メンバーを迎えて再結成を果たすのですが、再結成後は更にそういったポップな傾向が強まっていきます。
■Youtube - Misfits(reunion) / American Psycho
この、「激しくて速いんだけどポップ」「怖いんだけど、怖すぎて逆に笑っちゃう」というMisfitsのイメージは、ジョン・K・ペー太先生の漫画にも通じるものがありますよね。
 
 

BLACK FLAG


「雪崩式サンダーロード」(轟け!! 悶絶スクリーマー)
女の子が着ているTシャツに、80年代のUS Hardcore Punkを象徴するバンド、BLACK FLAGの文字が!
Damaged

Damaged

BLACK FLAGは、カリフォルニアで結成されたハードコア・バンド。初期は、速度を重視したスピーディーなパンクロックですが、
■Youtube - BLACK FLAG / TV Party
中期〜後期は、ハードロックの世界でブラック・サバスが成し得たような、重さを追求したサウンドに徐々にシフトしていきます。結果的に、単純にハードコア、パンクとはカテゴライズできない、アンダーグラウンド特有の空気を孕んだ独特の音を出すバンドへと深化し、NIRVANAを代表とするグランジ/オルタナティヴ・ムーブメントの中で活躍をした多くのミュージシャンに多大な影響を与えることとなります。
■Youtube - BLACK FLAG / MY WAR
更に、バンドのギタリストでリーダーでもあったグレッグ・ジンはBLACK FLAGの活動と並行して、「SST」というインディーズ・レーベルを運営し、Sonic YouthDinosaur Jr.、SOUNDGARDENといった、先鋭的なバンドの音源を多数リリース。また、メンバーの出入りが激しく、脱退したメンバーが更にバンドを作り…といった具合に、BLACK FLAGの活動は、アメリカのアンダーグラウンド・ミュージックシーンのあちこちに深く根を張り巡らせました。
 
いかんせんUS HARDCOREというムーブメント自体がマニアックな為に、この辺の音楽って一般音楽誌からも無視されがちで、なかなか光があたらないジャンルなんですが…まさか、エロ漫画で「BLACK FLAG」なんてコアなバンド名がサラリと出てくるとは思いませんでした(笑)。
ロックやテクノ、メタル好きの漫画家さんは多く、色々な漫画作品の中で、それらのモチーフを見ることができるのですが、US HARDCOREとなると、ちょっと自分の中ではジョン・K・ペー太先生の漫画でしか見たことないですね〜。
 
 

■The Casualties


「必殺桃尻バーニング!!」(プルプル悶絶ライセンス)
 

「LOVE ROCK ファッキンライブ!!」(プルプル悶絶ライセンス)
ギターに貼ってあるステッカーや、部屋のポスターに登場しているのは、ニューヨークのパンクバンド、The Casualties!
On the Front Line

On the Front Line

ド派手な色に染めた髪の毛をツンツンにおっ立てたヘアースタイルをトレードマークに、ファンと一緒に大合唱できるストレートなパンク・ロックを「oi! oi!」言いながら、ひしゃげた声でがなり散らす「ストリート・パンク」と呼ばれるスタイルの代表的なバンドです。
■Youtube - The Casualties / Criminal Class
やっぱり、このバンドもMisfits同様、激しくて速いんだけど、どこかポップですよね。
ギターには、同じくストリート・パンクのバンド「The VIRUS」のステッカーも貼ってあります。
 
ところで、ペー太先生は、やっぱりギターを描くのがメチャクチャ上手いと思います。
 
 

■MELODIC HARDCORE

HARDCOREと言っても、速くて激しいものばかりではなく、90年代以降は明るくポップなメロディーを持つパンク=メロコアが登場します。GREEN DAYやOffspringといった商業的に大成功を収めるバンドも多数登場し、現在では一つのシーンとスタイルを確立しています。ペー太先生の漫画にも、そんなモダンなパンク・ミュージックのエッセンスが見え隠れします。
 

「オールナイトロング」(プルプル悶絶ライセンス)
女の子が頭に被っていのは、NOFXのキャップ。
Punk in Drublic

Punk in Drublic

90年代のメロコア・ブームを象徴するバンドが、このNOFXです。
それまでのアンダーグラウンドなパンク、ハードコアとは一線を画した、ポップでスピーディーなパンクサウンドは、日本でも大ブレイクし、90年代以降の新しいパンクの雛形を作り出しました
自堕落な体型で下品な言動を繰り返す、ベーシスト兼ヴォーカリストのファット・マイクの存在感は、新しい時代のパンク・ロックのアイコンとして、キッズから絶大な支持を受けました。
■Youtube - NOFX / Don't call me white
  

「欲情ジェット戦線!!」(トキメキ悶絶バルカン!!)
壁に貼ってあるポスターの絵柄は、RANCIDのアルバム「...And Out Come the Wolves」のジャケット。
...And Out Come The Wolves

...And Out Come The Wolves

文字が潰れて分かりづらくなってしまいましたが、左上にはRAMONESの文字も見えます。
RANCIDも、メロコアブームの代表的なバンドの一つ。The CLASHの影響を感じさせる、レゲエやスカを取り入れた軽快なパンクは世界中で旋風を巻き起こし、数多くのフォロワーを生み出しました。
■Youtube - RANCID / Time Bomb
 

「エキサイト第二彼女」(トキメキ悶絶バルカン!!)
そして90年代のメロコアブームの中、NOFXRANCIDの音源をリリースし大きな影響力を持ったアメリカのインディー・レーベルが「Epitaph Records」。ロゴの入ったTシャツが、ペー太先生の漫画にも登場します。
Punk-O-Rama 1

Punk-O-Rama 1

この「PUNK O RAMA」という当時の人気バンドの音源が入ったサンプラーは、低価格ということもあり大ヒット。
現在では、インディーというカテゴライズが無意味なほど、巨大なレーベルへと成長しています。
 
狂気や人間の暗部を、ヘヴィーなパンクサウンドに乗せて、社会に叩き付けたBLACK FLAGのようなマニアックなPUNK/HARDCOREだけでなく、90年代のモダンなパンクロックやメロコアすらも、自身の音楽嗜好の中で消化しているペー太先生。
やはり私はですね、この辺にも激しさとポップさが同居したペー太漫画との共通点を感じるんですよ。
 
本当に最近のバンドまでチェックされているみたいで、「トキメキ悶絶バルカン!!」収録の「アンダークラスヒーロー」というタイトルは、カナダのパンクバンド、SUM41のアルバムからとっているみたいです。
Underclass Hero

Underclass Hero

■Youtube - Sum 41 / Underclass Hero
メロコアサウンドに、ヒップホップやメタルの要素を無邪気に取り入れたヤンチャなサウンドで世界中で大ヒットしたSum 41。かなり新し目なバンドなんですが、狂った漫画の中にこうしたポップな要素が不意に顔を出すのが本当におもしろいな、と。
 
 

■London Punk

もちろん、新しいスタイルのパンクバンドだけでなく、70年代のロンドンで活躍をした、パンクロックのオリジネーター達もシッカリと漫画の中に登場します。
 

「オールナイトロング」(プルプル悶絶ライセンス)
背景に飾られた絵画はよく見ると、The CLASHのアルバム「Give 'em Enough Rope」(邦題:「動乱(獣を野に放て)」)のジャケットです。
GIVE 'EM ENOUGH ROPE

GIVE 'EM ENOUGH ROPE

The CLASHは、セックス・ピストルズと並んで、ロンドンパンクを代表するパンクのオリジネーターであり、音楽史の中でも最重要バンドの一つ。
初期は、ヴォーカル、ギターのジョー・ストラマーの政治的なメッセージをストレートに乗せたパンクロックでしたが、後に多種多様な音楽を取り入れたロックバンドへと進化。
ジョー・ストラマーは亡くなってしまいましたが、未だに熱狂的なファンを世界中に持つ偉大なバンドです。後世のパンクシーンへの影響も大きく、90年代にブレイクしたRANCIDなんかは特に影響大。
■Youtube - The CLASH / Tommy Gun
普通、The CLASHといえば、1stか3rdアルバムを持ってくるのが定石だと思うのですが、ペー太先生が漫画の中で描いた「Give 'em Enough Rope」は2ndアルバム。この辺のセレクトが、こだわりを感じさせます。
 

「必殺桃尻バーニング!!」(プルプル悶絶ライセンス)
そして、女の子が着ているTシャツには、「DAMNED」の文字が。
Damned Damned Damned

Damned Damned Damned

ロンドンで、クラッシュやセックス・ピストルズよりも早くレコード・デビューを果たしたパンクバンドが、このThe DAMNED
1stアルバム「Damned, Damned, Damned」(邦題:「地獄に堕ちた野郎ども」)では、当時としては強烈なスピード感のロックンロールを爆音でかき鳴らし、
■Youtube - The DAMEND / New Rose
音楽的な成熟度を増した3rdアルバム「Machine Gun Etiquette」では、ポップソングの要素すらも消化し、後のパンク、ハードコアバンドにとっての一つの指針を提示したバンドです。
 
 

■テクノ

パンクだけでなく、テクノバンドの名前も登場。
 

「サマーライアット'07」(轟け!! 悶絶スクリーマー)
壁に貼ってあるポスターが、ドイツのデジタルハードコア・バンド、ATARI TEENAGE RIOT。
60 Second Wipeout

60 Second Wipeout

常軌を逸した高速BPMと、ハードコアパンク直系の政治的なアティチュードが特徴のバンドです。
■Youtube - ATARI TEENAGE RIOT / Revolution Action
テクノ、電子音楽のバンドといっても、軟派なパンクバンドなんかよりも、よっぽどパンクな音楽とイデオロギーを持ったバンドです。
更に、「轟け!! 悶絶スクリーマー」収録作品には、ATARI以外にもパンクロック以外の音楽ネタがあります。
 

「ファイアースターター」(轟け!! 悶絶スクリーマー)
林間学校先のキャンプ地で優等生の女の子がヒドい目にあう「ファイアースターター」というエピソードで、男の子が着ているTシャツにProdigyのロゴが入っているんです。
Prodigyは、英国のテクノバンド。彼らが作り出す、ロック、ヒップホップ的なアプローチを取り入れたデジタルサウンドは、当時の音楽シーンでは「デジタル・ロック」と呼ばれ、ダンス・ミュージックとロック・ミュージックの架け橋的存在となりました。
特にその傾向が顕著な3rdアルバム「The Fat of the Land」は歴史的名盤!
The Fat of the Land

The Fat of the Land

ちなみにタイトルの「ファイアースターター」も、このアルバムに収録されている90年代クラブシーンのアンセム「Firestarter」からの引用と思われます。
■Youtube - Prodigy / Firestarter
 
ATARIやProdigyなど、テクノでもロックファン、パンクファンでも聴けるビートの強いバンドが、ペー太先生はお気に入りみたいです。
 
 

■ホラー映画

音楽ネタに続いて、次は映画ネタです。こちらも、かなりツボを押さえたセレクションで、映画好きの琴線をビンビン刺激してきます!
 
<ゾンビ>

「エンドレスなGでワルツ」(トキメキ悶絶バルカン!!)
 
<死霊のえじき>

「エキサイト第二彼女」(トキメキ悶絶バルカン!!)
「トキメキ悶絶バルカン!!」収録の「エンドレスなGでワルツ」では、主人公が着ているTシャツにジョージ・A・ロメロ監督の映画「DAWN OF THE DEAD」(邦題:「ゾンビ」)のロゴが、「エキサイト第二彼女」では壁に「DAY OF THE DEAD」(邦題:「死霊のえじき」)のポスターが貼られています。
スマイルBEST ゾンビ 米国劇場公開版 [DVD]

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死霊のえじき 完全版 [DVD]

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「ゾンビ」「死霊のえじき」共に、ゾンビ映画の父、ジョージ・A・ロメロによる作品で、後に大量生産されるゾンビ映画の原点であり、雛形となった作品です。
 
<バタリアン、デモンズ>

「夕暮れスナッピングタートル」(轟け!! 悶絶スクリーマー)
主人公の男女がホラー映画について話をするシーンがあり、会話の中で「バタリアン、デモンズ」という映画名が出てきます。
バタリアン [DVD]

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デモンズ [DVD]

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「バタリアン」はアメリカで、「デモンズ」はイタリアで製作されたゾンビ映画。
どちらも、ロメロのゾンビ映画のパロディ色が強く、コメディーちっくなホラー映画です。また、どちらの映画もパンクスが物語の中に登場し、サントラもパンクやメタルのバンドが多数参加していることから、パンクス必見の映画でもあります。
 
この辺は、ペー太先生が好きな音楽とも深く関わっているんですよ。いや〜、徹底してますね。
 
ちなみに、カップルの会話の中から、

「でさ その生き残った連中が ショッピングモールに逃げ込むんだけど…」
「それで屋上からバート・レイノルズにそっくりなゾンビを スナイパーライフルで…」

というセリフが出てくるため、この話題に出ている映画が、ジョージ・A・ロメロ「ゾンビ」のリメイク版である「ドーン・オブ・ザ・デッド」であることが分かります。

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大好きです、こういう元ネタが分かった時に、ちょっと嬉しくなる、オマケ要素。
 
 

■その他、洋画

<タクシードライバー>


「十戒のマッシブ!!」(轟け!! 悶絶スクリーマー)
女子バレー部での地獄のしごき風景を描いた「十戒のマッシブ!!」に出てくる学校の名前は「虎美巣(とらびす)学園」で、顧問の先生の風貌はマーティン・スコセッシの映画「タクシードライバー」に登場する、屈折した孤独なタクシー運転手、トラビス(演ずるは、ロバート・デ・ニーロ)にソックリ。
タクシードライバー コレクターズ・エディション [DVD]

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<映画秘宝>

「エキサイト第二彼女」(トキメキ悶絶バルカン!!)
会話に出てくる「ヒホー」は、ボンクラ映画ファン必見の映画雑誌、ムックである「映画秘宝」から。
ショック!残酷!切株映画の世界 (洋泉社MOOK 別冊映画秘宝)

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  • 作者: 高橋ヨシキ,DEVILPRESS MURDER TEAM,矢澤利弘,荒井倫太朗,柳下毅一郎,尾崎一男,木野雅之,ギンティ小林,小林真理,神武団四郎
  • 出版社/メーカー: 洋泉社
  • 発売日: 2008/02/21
  • メディア: ムック
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<ダイ・ハード>

「スニーキング爆裂ミッション!!」(轟け!! 悶絶スクリーマー)
通気溝に潜む盗撮魔の口から「マクレーン刑事」というセリフが。
ブルース・ウィリス主演の痛快アクション映画「ダイ・ハード」からの引用ですね。
ダイ・ハード [DVD]

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<ソドムの市>

「激烈!!エキサイティングストア」(轟け!! 悶絶スクリーマー)
エピソードに登場する100円ショップ(後書きによると、雑誌掲載時はコンビニの設定だったらしい)の名前が「ソドムの市」。
ファシズム批判にかこつけて、SM、同性愛、スカトロなどを物語の中で描いた、ピエル・パオロ・パゾリーニの超絶変態鬼畜映画「ソドムの市」からとっているのでしょう。
パゾリーニ・コレクション ソドムの市 (オリジナル全長版) [DVD]

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ジョン・K・ペー太先生の漫画に「ソドムの市」っていうキーワードが出てくると、何だか必要以上に物凄い説得力がありますが、果してこの世に「ソドムの市」なんて狂った名前を100円ショップにつける馬鹿が存在しているんでしょうか?
 
この辺の猟奇、鬼畜センスとギャグの絶妙なせめぎ合い具合が、ペー太漫画の真骨頂だと思います。
 
 

■その他、邦画

<座頭市>

「激烈!!エキサイティングストア」(轟け!! 悶絶スクリーマー)
女の子がハチマキで目を隠して、刀で戦うシーンは、勝新太郎主演の「座頭市」へのオマージュ。
座頭市全集 DVD-BOX 巻之壱

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ちなみに、ハチマキには「勝(ハート)新」の文字(笑)。好きだな〜、こういうセンス。
「ダイ・ハード」といい、メジャーどころの映画を持ってきても、映画オタクのボンクラ好みの映画ばかりになってしまうペー太先生の絶妙なチョイスが、個人的に凄くツボです。
 
<石井聰亙監督作品>

ジョン・K・ペー太先生の漫画では、タイトルに「爆裂」「狂い咲き」「サンダーロード」といった単語が頻繁に登場するのですが、これは恐らく石井聰亙の映画「爆裂都市」「狂い咲きサンダーロード」といった作品からの引用と思われます。
爆裂都市 BURST CITY [DVD]

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狂い咲きサンダーロード コレクターズ・エディション [DVD]

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石井聰亙監督は、福岡県出身の日本の映画監督。日本のハードコア・パンクバンド「GAUZE」を主演にした映画や、ドイツのアヴァンギャルドな芸術集団「アインシュテュルツェンデ・ノイバウテン」のドキュメンタリー作品を撮るなど、「PUNK」としか形容の仕様がない映画を作り続ける日本映画界の異端児です。
「爆裂都市」と「狂い咲きサンダーロード」は、その尖ったセンスが余すところなく発揮された代表作。
特に、陣内孝則のTh eROCKERS、大江慎也、池畑潤二(共に、ザ・ルースターズ)、遠藤ミチロウ率いるスターリン、町田町蔵といったパンクミュージシャンや、お笑いのコント赤信号、プロレスラーの上田馬之介、アングラ演劇の麿赤児、美術スタッフとして手塚眞ら、当時のアングラ、サブカル界で最も先鋭的な活動を行っていた豪華なメンバーが総出演した「爆裂都市」は、もんの凄いエネルギーと熱に満ちた映画でして、パンクや映画が好きな人なら、一度は目にする価値がある一本だと思います。
■Youtube - 映画「爆裂都市」より、スターリン演奏シーン
豚の臓物を投げながらの「何でもいいから、やっちまえ!!」という遠藤ミチロウのシャウトを聞く度に、興奮しすぎて涙が出そうになります…。
 
もうシッチャカメッチャカなんだけど、説明不能なエネルギーに満ちてる辺りが、ジョン・K・ペー太漫画に通じるところがあるな、なんて個人的に思っています。
 
 

■PUNK、ホラームーヴィー、エロ漫画!

ジョン・K・ペー太先生の漫画には、沢山の音楽や映画ネタが登場します。そして、それらの要素の一つ一つが、ペー太先生の漫画のイメージを形作るのに、とても有効に機能しているように思うんです。
 
漫画に登場した、パンクやホラー映画といったマニアックな表現文化を目にする度に、それらの作品が持つスピード感や、激しさのイメージが、ペー太漫画のエクストリームな作風を更に加速させ、アナーキーなイメージをより強固なものにします。
また、映画ネタをギャグに使ったり、「バタリアン」や「Misfits」みたいに激しさの中にもポップさを併せ持つアイテムを確信犯的に作中に登場させることによって、コメディーとしての要素を押し出す、という狙いもあるかもしれないですね。ジョン・K・ペー太先生の漫画って、猟奇や鬼畜モノと勘違いされることも多いので…。
 
そのマニアックなチョイス故に、一度でもペー太先生が漫画の中で描く「好きなもの」に共感を感じてしまったら最期、マイノリティな作品を愛するもの同士、あっという間に心理的な共犯関係が成立してしまいます。で、この作者との共犯意識がメチャクチャ気持ちいいんです!
 
一般誌ではなかなか目にすることが少ない「マニアックでマイノリティ」な作品をバックボーンとし、自身のハードコアな漫画表現にフィードバックをするジョン・K・ペー太先生。
 
もう、パンクや映画が好きで好きで堪らない! っていう気持ちが見ている側にも伝わってきて、パンクや映画が好きで好きでたまらない自分は、そんな先生の漫画の大ファンなんですよ。
 
今後も、パンク好き、映画好き、そして漫画好きの端くれとして、ジョン・K・ペー太先生のアナーコ・パンクばりの破壊力を持つ漫画作品を心待ちにさせてもらおうと思います。
 
 
<関連エントリ>
■漫画、アニメにおける、他文化からの引用について考える。
 
 

■おまけ

断面図や、おもしろ人体破壊描写ばかりが注目されがちなジョン・K・ペー太先生ですが、「ペー太の描く女の子は、実はとても可愛いんだぞ!」っていうのは、この場で主張しておきたいです。
 
特に、「スーパー鬼畜パーク!!」に出てきた空手少女が、メチャクチャ可愛い!

 
ギャグもお得意だからか、「karimikarimi」様にて論じられたトコロの「ゆるみ口」をコメディー描写の文脈で使用するのが、凄く上手いんですよね。


…まぁ、どんなに可愛くても、大概ゲロ吐くんだけどね!