「さんかれあ」のキャラクターの名前は、ゾンビ愛に溢れているオブ・ザ・デッド

 

<はっとりみつるさんかれあ」第一巻 (講談社) P.100>
 
"Rom Zom Com"なゾンビラブコメ漫画さんかれあ。アニメ版も、大変におもしろい出来になっておりますが、この作品、アチコチに新旧のゾンビ映画の引用がなされているのもゾンビファン的には堪りません。
 
■「さんかれあ」の元ネタ「サンゲリア」について語ってみたいオブ・ザ・デッド
 
例えば、タイトルでありヒロインの名前である「さんかれあ」は、イタリアのゾンビ映画サンゲリア」。そして、主人公の降谷千紘の名前は、その「サンゲリア」を撮ったルシオ・フルチから、といった具合に。
 
勿論、これだけではなく、他の登場人物達にも、ゾンビ映画へのオマージュと愛がタップリと。そんなわけで、今回のエントリでは「さんかれあ」とゾンビ映画についてアレやコレやと!
 
 

■「ゾンビ」にまつわる登場人物たち

さんかれあ」の主人公。ゾンビのコンビである降谷千紘と散華礼弥の二人は、「サンゲリア」から名前を頂戴しているわけですが、彼らを取り巻く他の登場人物たちは、その「サンゲリア」に多大な影響を与えたジョージ・A・ロメロゾンビ映画から名前を取られているようです。
 

<第二巻 P.16>
 
例えば、千紘の妹である降谷萌路(メロ)の名前は、まさしくロメロから。
 
死に装束着ようとキュートな妹。そんな彼女のネーミングもやっぱり、ゾンビ。ジョージ・A・ロメロといえば、ゾンビ映画のパイオニアであり、オリジネーター。恐らく、作者のはっとりみつる先生もロメロにメロメロ。ロメロが監督をしたゾンビ映画にまつわるキーワードからも、登場人物の名前が数多くとられています。
  

<第二巻 P.20>
 
千紘の父、呶恩(どおん)は、ロメロの監督作であるDawn of the Dead(邦題「ゾンビ」)からでしょうね。
 

 
Dawn of the Dead」は、突如として死人が甦り世界中がパニックになる中で、ショッピングモールに立て籠もる男女の運命を描いたゾンビ映画のクラシックであり、傑作としてホラー映画史にその名を刻むゾンビ界のマイルストーン
安全で物質的には恵まれた環境にいても、周囲をゾンビに取り囲まれ、閉塞的な状況の中で徐々に徐々に絶望へと追いやられる主人公たち。そして、そこへ現れる暴走族の乱入と、そこから始まる大殺戮劇。血飛沫と内臓飛び散る、エグいなショッピングモール。こんなん見せられる、コッチの背筋はショッキング凍る。
 
Dawn of the Dead」…「ゾンビ」は、スプラッターホラーをメインに、ロメロの物質社会への批判やシニカルな人間観をも描き切った作品。また、本作のヒットを受けて、数多くのゾンビ映画が作られていくわけで、ここから「さんかれあ」のキャラクター達の名前が生まれてきたというのも、ゾンビ好きとしてはなかなかに趣深いものが感じられます。
 
 

■「Dawn of the Dead」とロメロとアルジェント


<第三巻 P.49>
 
他にも「Dawn of the Dead」ネタはあって、降谷家に居候することになる女の娘、来宮・ダリン・アーシェントは、「Dawn of the Dead」のプロデューサーであり、「サスぺリア」や「インフェルノ」といったこれまたホラー映画の歴史にその名を残す名作を数多く撮ったイタリアの映画監督、ダリオ・アルジェントから。
 
余談ではありますが、ダリオ・アルジェントの娘さんであるアーシア・アルジェントは、現在女優として銀幕の世界で活躍中。「トリプルX」のようなアクション大作から、ガス・ヴァン・サントNIRVANAカート・コバーンをモデルにして製作した映画「ラストデイズ」、ソフィア・コッポラの「マリー・アントワネット」といった所謂ミニ・シアター系の映画やアート系の作品まで、その出演作は多岐に渡りますが、彼女のフィルモグラフィーの中には、父親のダリオ・アルジェントのサスペンスホラー「トラウマ/鮮血の叫び」やロメロのゾンビ映画ランド・オブ・ザ・デッド」といったホラー作品も含まれています。
 
父親が「ゾンビ」の製作者ということもあり、ゾンビ映画との繋がりも強い女優さん。そういえば、ハイスクールD×Dにも、アーシア・アルジェントというキャラクターがいました。様々な作品に出ているハズなんですが、やっぱり、ホラー映画のキーワードになっているんでしょう。"アーシア・アルジェント"という名詞は。
 


 
余談の余談ですが、「トラウマ/鮮血の叫び」にはアーシア・アルジェントのヌード・シーン(当時は、確か成人前)もあります。娘の裸を撮る父親って…。
 
ダリオ・アルジェントやってることが礼弥の親父の団一郎とまんま一緒ですね。
 

<第一巻 P.31>
 
お父さん…。
 
「サスぺリア」のWikipedia、見ればそこにアルジェントの名前があるけれど、そんなダリオ・アルジェントが娘を主人公にして撮った「トラウマ/鮮血の叫び」は、やたらと生首が出てきたり、サスペンスなのにどう考えてもストーリーが破綻していて意味不明だったり、ホラー映画なのにエンディングが何故かレゲエだったり(真剣に謎)と、色んな意味で凄い作品。そして、それ以上に娘のシャワーシーンを嬉々として撮影する親父の存在が何より怖いという非常に稀有な映画です。ダリオ・アルジェントはサイコで最高。興味がある方は、「さんかれあ」と一緒にコチラも是非!
 
 

■まだまだあるぞ、ゾンビネタ!

更に、千紘の家族にまつわるゾンビネタは続きます。降谷家のペットであり、ゾンビラブコメ物語のスタートにもなった飼い猫の「ばーぶ」は、ロメロの「Day of the Dead」(邦題「死霊のえじき」)に登場するゾンビ「バブ」が元ネタでしょう。
 

<第一巻 P.20>
 
このバブ、オリジナルの映画ではどういうキャラクターだったかというと、人間に飼いならされ、道具を使ったり、髭剃りなどの簡単な日常の動作も行える知能を持ったゾンビとして登場をしています。また、感情や意志を有していると思われる描写もあるなど、他のゾンビとは一線を画すスペシャルな存在として描かれている。また、「死霊のえじき」のTシャツやDVDのジャケットの数多くに、このバブはプリントされており、云わば本作のマスコット的なキャラクター(という程、ビジュアルは可愛くありませんが…)でもあります。
 

 
Dawn of the Dead」後の世界を舞台にした「Day of the Dead」は、地上がゾンビに埋め尽くされる中、地下基地に立て籠もる民間人と軍人の孤独な戦いを描いた作品。とはいえ、出てくるのは威圧的な軍人やゾンビを研究する若干マッドなサイエンティストなどなど、かなりの曲者揃い。地下基地ん中、粛々と籠城。けど、マジキチばっか続々と登場。ストーリーも「ゾンビ」以上にひたすら暗い、暗い…展開の連続なんですが、この映画の中で、唯一癒しともいえる存在になってくれているのが、このバブ。
 
そんなゾンビを飼い猫の名前に付けた、はっとりみつる先生の気持ち、同じゾンビ映画好きとして非常に良く分かります。単純に、映画にまつわるキーワードを引用するだけではなくて、映画の中でのキャラクターの立ち位置なんかも作品内にフィードバックされているんです。
 
 

■ダブル・ミーニングでゾンビネタな御爺ちゃん

そんなゾンビ愛に満ちたキャラクターの名前で、一番凝っているのが、この人かなぁと。
 

<第三巻 P.28>
 
御爺ちゃんの降谷茹五郎(じょごろう)。
 
この人も、ジョージ・A・ロメロを文字った名前になっているんですが(恐らく、ジョージ・A・ロメロの名前をローマ字読みして、崩してあるのかなぁ、と)、「茹」という漢字が名前に入っていることから、劇中ではダリンに「ボイル教授」と呼ばれている。で、このボイルっていうのは、英国の映画監督ダニー・ボイルに掛けてあるのではないかと思うんです。
 
ロック、テクノの名曲たちを絡めながら、薬物中毒の若者たちの破滅的な青春を描いた「トレインスポッティング」や、アカデミー賞を受賞した「スラムドッグ$ミリオネア」のヒットで知られるダニー・ボイル。そんなダニー・ボイル28日後...というゾンビ映画を撮っており、ゾンビ映画ファンから愛されている映画監督の一人。
 
<28 Days Later / Trailer>

 
28日後...」は、多くのゾンビ映画がそうであるように死者が突然甦り…という内容ではなく、未知のウィルスによって凶暴化した感染者が人間が襲うという、どちらかというとパンデミックなSFやパニックホラー寄りの設定なんですが、やや変則的な設定を用いつつも、脳のリミッターが外れ、全速力で襲い掛かってくる感染者の恐ろしさや、その感染者に噛まれると自身もウィルスに感染し、凶暴化してしまうという内容は、まさにゾンビ映画のそれ。HELLO!
更に、そこにダニー・ボイルらしいスタイリッシュな映像も加わり、21世紀の新しいゾンビ映画、ニュー・スタンダードとして映画ファンに愛されている作品です。
 
ジョージ・A・ロメロダニー・ボイルという新旧のゾンビ映画監督の名前を頂戴している降谷茹五郎。ゾンビのダブルミーニング、ダブルピースの御爺ちゃん。
 
何ていうか、こういうキャラクターの一人一人の名前を見るだけでも、千紘の礼弥への想い同様に、ゾンビへの愛に満ち溢れているなぁ、と思います。
 
 

■まとめ

バタリアン・リターンズ」やギターウルフ主演の「ワイルド・ゼロ」のようにゾンビ映画界に先達はあれど、それでもかなり特殊なゾンビが出てくる恋愛ものを描いている「さんかれあ」。で、そのドラマ性っていうのは、決して飛び道具的なものではなくて、登場人物たちの名前を見ても分かるように、作者であるはっとりみつる先生のゾンビ愛によって支えられているのではないかと思います。
 
いいですよね、ゾンビ!