「酒のほそ道」で貧乏人は酒を飲め

好きなものは好きと言える気持ち抱きしめてたいんです。

でも好きなものは好きと言える気持ちをただキモティーと恍惚したまま抱擁しているままじゃ一切合切なにも形にならないわけで、どんどんリバースしていかないと気持ちごと腐っちまう。

酒のほそ道」という漫画に心酔してるのです。

単行本を買い始めて 3,4 年。mixiでこそ関連コミュに入ってますが当サイトで紹介したことは一度もありません。もしかしたらこのまま一生なにも触れないままかも・・・。

漫画とか小説とかの、日々ごく浅めに接している媒体に関してその視聴後の感想などをセンスと批評性に溢れたすてきな文章にまとめるだけのスキルがぼくにはない。

たとえ書いたとしても亀の歩みで遅々として進まず、結果的に公開に至るまでの踏ん切りがつかないことがとても多いのです。

でもそんな精神的な亀甲縛りからはぜひとも抜け出したい。

というわけで更新が滞りそうなところを自ら戒めるべく、ムダに力の入った長文で「酒のほそ道」を紹介しようと思います。一生書かないよりマシだもの。


さっそく上にリンク貼ったのは「酒のほそ道」単行本 19 巻の表紙なんですが、ここにきちんと画像データが表示されているとすれば、もうこれ以上この漫画に関する説明は一ミリも要らないんじゃないか、と思われるほどのパワーと説得力です。ビール飲んでプハー、うめー!


酒のほそ道」に関する客観的な説明はまずいつものようにwikipedia先生にして頂きますが、めずらしく分量的にかなり物足りないです。

酒のほそ道』(さけのほそみち)とは「週刊漫画ゴラク」に連載中の、ラズウェル細木が手がける漫画。主に酒やつまみ(肴)、場の雰囲気、季節料理などをとらえたテーマが主となっている。

一話で4 - 6ページ程度の短編のためか、単行本では漫画本編と同量程度、酒や肴に関する薀蓄やレシピ、取材記などのエッセイが追加されている。

主人公岩間宗達はとある企業のサラリーマン(営業担当)。仕事帰りの一杯がなによりも楽しみで、後輩や友達との酒盛り情景が多く描かれているが、独り酒もよく嗜む。また、飲兵衛の心得なる持論や、酒や肴の薀蓄を語る事が多い。

この説明だけ読むとあんまりおもしろそうな漫画に見えませんね。なんてこった。


酒のほそ道」が連載されている「週刊漫画ゴラク」は、男くさいエロ・グロ・バイオレンスに満ち溢れたテイストの漫画連載を売り物に、主におっさんから絶大の人気を博しているであろう週刊漫画誌です。偏見を含みますが、しかしいたって真実でしょう。風俗情報も満載だョ!

そんな殺伐とした紙面の中で、ほとんど唯一といっていいほどのオアシスといえるのが「酒のほそ道」なんです。基本的に一話完結のあっさり読み切りフィクション漫画で、お笑いセンスが軽妙に弾けており、お気楽具合が超パない。巻頭カラーや巻中カラーでなごませてくれます。


主人公は岩間宗達(いわまそうたつ)という営業職の独身サラリーマン男性。死ぬほど酒好きという設定です。この漫画の周辺ではいわゆる「呑兵衛」という言葉が好んで使われてます。

酒好き、やや自分勝手、女性にはちょっと奥手、など、主人公に一応のキャラクタ設定はありますが、たとえば「美味しんぼ」のような長大なストーリー性は「酒のほそ道」には皆無です。連載開始以来せいぜい新しい登場人物がちょびちょび増えたくらいで、岩間宗達の身辺にはたいした変化も起きていない。

で、この独身サラリーマン男性が、あるときは月見酒をひとり風雅に愉しみ、あるときは「こんな居酒屋はイヤだ!」なんて昔の仲間と共に悪態をつき、あるときは美味しいつまみのつくり方に寝る間も惜しんでひとり自宅で工夫をこらし・・・

と、もう春夏秋冬四六時中、仕事上のつきあいからプライベートまで、宿酔いの朝のむかえ酒から夜中のナイトキャップまで、もうありとあらゆる森羅万象の「酒にまつわるエピソード」に絡んでいっては、最終的にうまいこと的確なオチに着地する、という漫画なんです。


酒のほそ道」の追いかけている究極的な本題は「いかにして美味く酒を飲むか?」であるような気が個人的にはしています。限りなく「正解」に近いひとつの答えとしては先ほど画像にもあげたような『真夏のクソ暑い日にキンキンに冷えた生ビールをジョッキで』というのがありますが、『そば屋の日本酒のぬる燗』も、『真冬のホットウィスキーの温もり』も、数え上げればきりがない。

その季節ごと、その酒の種類ごと、そのシチュエーションごと、そのつまみごと、酒の数だけ美味しさがあるんですよね。まだまだ酒のほそ道は先の道筋が見えないのです。


作品のジャンル的には「グルメマンガ」の範疇にないこともないので、むろんお決まりの「うんちく」みたいなのも挟まれます。しかしまったくドぎつくはなく、むしろ酒の席であれこれうんちくを垂れ流すことは無粋だ、という姿勢すら散見されます。

連載は 10 年以上続いており、単行本では 12 月 19 日に最新の 24 巻「酒のほそ道 24 (24) (ニチブンコミックス)」が発売されます。話の都合上 amazon へのリンクをゴリゴリ貼っていきますがそこはご容赦ください。

いつも単行本には作者ラズウェル細木が日本各地やときには海外にまで足を伸ばした酒にまつわる取材レポートコラムが収録されていて読み応えがあります。やたら批評眼に長けている漫画家の人なので、とにかく「まちがっていない」です。


去年から今年にかけて、出版界では「おつまみ横丁―すぐにおいしい酒の肴185」とその続編ともいうべき「もう一軒 おつまみ横丁―さらにおいしい酒の肴185」がバカ売れしました。この動向に伴って、書店内の POP では「おつまみ書籍バブル」のようなものが膨れあがっていて、その相乗効果で「酒のほそ道」が紹介される機会が増えたように思います。注目度がいくぶんか増した印象。

以前から知る人ぞ知る漫画だったでしょうが、今さら「風が吹いてきた」気もします。


絵柄こそ多少チマチマしてますが、実践的なお酒のたしなみ方も、物語的な「お酒あるある」も、分量的にはダイナミックに散りばめられていて、いくらでも再読に耐えます。

これ書いてるぼくは今ちょうど無職エンジョイ真っ最中なので自爆的に緊縮財政に追い込まれており、CD や DVD や書籍などは露骨に買い控えるようになりました。

それでもお酒だけは毎日のように飲んでます。もちろん高級なワインや幻の焼酎などに手を出してはいけない。ひたすら安酒と安いつまみ。複数のスーパーマーケットで価格を比べてリーズナブルにお買い上げです。前川つかさの「大東京ビンボー生活マニュアル」ではありませんが、むろんお値段など関係なく、考え方次第、シチュエーション次第でこれらは楽しくて仕方のない酒になる。

貧乏人には貧乏人なりの、金持ってるときは金持ってるときなりの酒のたしなみ方がある。むしろありまくる。そんなことを教えてくれている「酒のほそ道」は、おはようからおやすみまで暮らしを見つめてやまない、一生モノの漫画なんですよね、本当に。


そして今日もうまい棒発泡酒を飲むのです。プハー、しょっぱい!