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2009-08-13

鳥居みゆきの「ショートショート」の文才

読売新聞 8 月 12 日(水)発行の夕刊に、鳥居みゆきの「妄想月報」が掲載されています。

タイトルどおり月イチで小説を連載しているらしいです。

これ、たまたま読んでたら、おったまげました。

鳥居みゆきには「ショートショート小説」書きとしての才があるらしい。

まるっきり全文転載はさすがに気が引けるのですが、なるべく文意を損なわないように、4 分割という見せ方でおおよそ抜き書きします。


鳥居みゆきの妄想月報『ま、まて、早まるな』


1.

「畜生、生きてやる」

「ま、まて、早まるな」

「とめないでくれ、これ以上死んでもいいことなんて何もないんだよ」

「ばかやろう、軽々しく言うな、生きる気になったら何でも出来るぞ、生きる気で死ねばいいじゃないか」

「へんっ、こわくも何ともないさ、もう生かして楽にさせてくれ」

「生きるのが楽なもんか、生きるということはつまり魂を持つ『有』になるということ、これからの記憶が全て残るということなんだぞ」


2.

「そういうお前だって、前までは生きたい生きたいなんていって、生きた魚のような眼をしていたじゃないか」

「ああ、でも生きてる自分の姿を想像しただけで恐ろしくなったよ、大体お前天国の何がそんなに気に入らないんだ、腹もすかない、金もいらない、何もない天国のなにが」

「天国が嫌になった訳じゃない、こんな右をみても左をみても争いのない世界、退屈でうんざりなんだ」


3.

「わかった、俺はもう何も言わない、ただお前は本当に生きたいなんて思っちゃいないよ、お前のバカな頭でよく考えるんだな」

「俺はバカじゃない俺はバカじゃ…俺はバカだ、バカかもしれない、そうだ、退屈しのぎに生きたいなんて、死にたくても生きてしまう奴等も沢山いるのに、死んでる事に感謝もしないで、よし、もうちょっとこのまま死の世界で頑張ってみるよ」


「お、お前!」


抜け落ちた大量の羽根を見て俺は愕然とした。羽根に寿命が来ていた事に気付きもしなかった。

「ああ、なんて事だ」

俺は生きる事への恐怖で泣きじゃくった。


4.


「オギャーオギャー」


あら、こんな顔くしゃくしゃにして泣いてるわ。よっぽど生まれて来るのが嬉しかったのねえ。しっかり生きるのよ、私達の可愛い天使ちゃん。



少ない文字数で起承転結。そしてまさかのオチ。

ショートショートの基本というべき掌編だと思いました。


一行目から続いてきた「生きてやる」「早まるな」という内容の会話は、すべて生まれる寸前の赤ちゃんとそれを引き留める「天使」同士が、天国で繰り広げたものだった。

生まれてくる赤ちゃんが泣きじゃくるのは、天国で「死んでいた」はずの天使が「生きる」事に恐怖しているから。

「可愛い天使ちゃん」の誕生をお母さんが無邪気に喜ぶわけですが、その天使ちゃんが「生」へのとてつもない恐怖を抱えていることを、お母さんは知らない…。


全体的に「生」と「死」の概念を完全に逆転して置き換えています。「生こそが死であり、死こそが生である」。突飛な、それでいて案外真理のような死生観が垣間見えます。

「生きる気になったら何でも出来るぞ」「生きた魚のような眼」

などは常套句を大胆にもじったネタ的な言葉遊びで、これは鳥居みゆきが普段テレビでやってるようなセンスが滲み出ている。


もしかしたら物語として同じような作品は既に世に出ているのかも知れません。「生と死」「天国」「赤ちゃん」などは古典的な題材ともいえそうです。

ただ、オリジナルにしろ剽窃にしろ、どのみち鳥居みゆきがショートショートの骨格をかっちり自分のものにしている事は、よくわかりました。


夜にはずっと深い夜を
鳥居みゆき
幻冬舎
売り上げランキング: 230
おすすめ度の平均: 5.0
5 完璧。
5 枕元に一冊
5 夜はみんなに
5 飾り気の無い処女作
4 初めてみせる鳥居みゆきの体温


鳥居みゆきの処女書き下ろし小説集「夜にはずっと深い夜を」が幻冬舎から 8 月 6 日に刊行されています。

テレビで表層的に見るかぎりラリパッパな人ですが、ストーリーテリングの素養は備わっているんでしょうね。


ちなみに余談ですけど、今回の更新の引用文中、「赤ちゃん」にかけてその赤ちゃんのセリフにはすべて「赤」の色づけをしてみたんですよ。フッフー。

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