力学の問題です。

「最近ブログ更新してないね」と昨日催促されたので、久しぶりに更新します。
この前書いたスタブのうちの1つを書いても良いんですが、やっぱり文字に起こすのが面倒くさくなってきたので、別の話題で。



今日は、ひとつ問題を出します。高校で物理を習ってる人も読んで欲しいですし、大学生/院生さんも真面目に考えてみてください。


問題:

剛体球が速度vで転がって、角度\thetaの斜面に入射する。空気抵抗や摩擦力によるエネルギー損失が無いとき、球の到達する最大の高さhを求めなさい。



恐らく、一定の割合の読者はこう答えるでしょう:


球の初期の運動エネルギー\frac{1}{2}mv^2位置エネルギーmghに変換されるのだから、両者を等号で結んで、h=v^2/2gである。


その答えは実は間違いです。今の状況設定では剛体球は転がっているので、回転エネルギーも持っています。最高地点に到達するときには回転エネルギーも位置エネルギーへと変換されるので、これも左辺に加える必要があります。


剛体球の半径をa、質量をm、慣性モーメントをI、角振動数を\omega、回転エネルギーをE_rとする。
ここで、E_r = \frac{1}{2} I \omega ^2 I = \frac{2ma^2}{5} (初等的な計算より)
また、「摩擦力によるエネルギー損失が無い」ということは、滑らずに転がっているはず (ここはきちんと問題文に明示すべきですが、自然な仮定です) なので、v=a\omega
これらを代入すると E_r = \frac{mv^2}{5} となるので、先の問題に対する答えは h=\frac{7v^2}{10g} となります。


ここで見たように、回転エネルギーは最終結果に対して有限の寄与をするのです!*1



通常は、物理の試験でこのような問題が出されたら、物体を「質点」として扱うので、「滑らずに転がる」場合であろうと「摩擦なく滑る」場合であろうと、回転エネルギーは考慮せずに問題を解く人が多いかと思います。でも、どれだけ小さくて質点と近似できる物体であっても、(上の E_r の表式には球の半径 a が含まれていないので)物体が滑らずに回転しているか否かを確かめずに、回転エネルギーを無視するのは問題視すべきだと思っています。


高校の理科実験では、台車を用いる*2ことが多いせいか、あまり意識されないですが、回転エネルギーを考慮せずに計算した結果は、実際にボールを転がした結果とは異なることは把握しておくべきだと思います。もっとも、実際にボールを転がしたら、摩擦や空気抵抗が大きすぎて、力学的エネルギー保存則の検証に耐えないですが・・・。

*1:さらに言うと、球ではなくて円柱(タイヤなど)の場合は、最終結果は 3v^2/4g となります。導出は割愛しますが、球の場合と同様に計算できます。

*2:台車を用いる場合は、タイヤのみが回転するため、慣性モーメントがここで計算した値よりずっと少なくなり、結果的に回転エネルギーは無視できます。