3D・無重力人間ドラマ映画ゼロ・グラビティ』はここが凄い!

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■あらすじ『地上600kmの上空で地球を周回しているスペースシャトル。今回が初めてのミッションとなる女性エンジニアライアンストーン博士サンドラ・ブロック)は、ベテラン宇宙飛行士コワルスキー(ジョージ・クルーニー)のサポートを受けながら船外での修理作業に当たっていた。その時、ロシアが自国衛星を爆破したことが原因で大量の破片が軌道上に散乱し、猛烈なスピードでスペースシャトルを襲う。衝撃で漆黒宇宙へと放り出された2人は互いを繋ぐ1本のロープを頼りに、絶望的な状況の中、奇跡の帰還を信じて決死サバイバルを繰り広げることになってしまった。果たして彼らの運命は…!「ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」や「トゥモロー・ワールド」のアルフォンソ・キュアロン監督が無重力(ゼロ・グラビティ)の宇宙空間舞台に贈るSFサバイバル・アドベンチャー!』


※この記事にはネタバレがあります。映画を観てない方はご注意ください。


今年10月に全米で公開されるやいなや週末の2日間だけで1700万ドルを叩き出し、第1週の興行成績は5560万ドル、更に全世界での収益が6億ドルにも達した超話題作『ゼロ・グラビティ』。観客、批評家双方から演技・演出脚本映像美といった作品のあらゆる面を称賛され、中でも主役を務めたサンドラ・ブロックの演技は高く評価されているという。先日13日からはついに日本でも公開され、初日から3日間で3億7326万7800円を稼ぎ出すなど、相変わらずぶっちぎりの大ヒットを記録しているようだ。

ただし、本作は決して派手な映画ではない。登場人物はたったの二人しかいないし、舞台は(宇宙船以外は)何も無い真っ暗闇の宇宙空間。そして上映時間はわずか91分という、シンプル極まりない映画である。にもかかわらず、そこで繰り広げられる”生と死”のドラマはとてつもなくリアルで恐ろしく、そして感動的なほど美しい。何よりも際立っているのは、従来の”立体映画”の概念を根底から覆すほどの、圧倒的に見事な”3D映像表現”だ。

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実を言うと、僕はあまり3D映画が好きではない。それは、3Dメガネをかけることによって画面が暗くなったり、あるいはメガネ自体がわずらわしいといった”物理的な不満点”以外に、「そもそも3Dの必要性を感じない映画が多すぎる」という理由が1番でかいと思う。

評判になった『アバター』にしても、”奥行き感”や”飛び出し感”は確かに凄かったが、キャラクターの動きやストーリー運び自体は従来通りの方法論で作られているため、「3Dでなければならない必然性」に欠けていた。その他の3D映画も同じく、あくまでも”映像表現の一つ”として使われているだけであり、「3Dを効果的に見せるためにストーリーやカット割が考えられた作品はほとんどない」と言っていいだろう。

しかし『ゼロ・グラビティ』は違う。映画冒頭、宇宙船外で黙々と修理作業を行っている主人公たちの姿を1台のカメラが延々撮り続け、途中で1度もカットを割らないのだ。なんと13分間にも及ぶ前代未聞の長回し撮影!元々アルフォンソ・キュアロン監督は「ワンカットを長時間掛けて撮る作劇」が有名で、前作『トゥモロー・ワールド』でも、6分以上もカメラを回し続けて多くの映画ファンの度肝を抜くなど、独特の技法を駆使してきた。

このキュアロン監督の”得意技”が、今回の3D映像において絶大な効果を発揮している。従来通りの、普通にカットを割ってストーリーを進行する3D映画の場合、「せっかく画面に投入している観客の意識がカットを割る度に途切れてしまう」という欠点存在していた。3Dに上手く意識を集中していれば、そこをスクリーンではなく”空間”として認識できるが、カットが変わるとアングル風景も変わるため、その瞬間にまた意識が”スクリーン”へと戻ってしまうからだ。

ところが、キュアロン監督のように”長回し”を多用することで、観客の意識を同一の画面内に繋ぎ止めておくことが可能になる。つまり、3Dの映像が投影されている”スクリーン”を、3Dの”空間”としていつまでも認識し続けることが出来るようになったのだ。

うおおお!これだよ!これこそが3D映画の正しいスタイルだよ!しかもキュアロン監督はカメラを不必要に動かしたりしないから、3Dで観ても目が疲れない。もちろん、スペースデブリの衝突場面などでは大胆に動くんだけど、そんな場面でさえ長回しを止めないというこだわりが凄い!

『ゼロ・グラビティ』を観ると、細かくカット割ったりカメラを激しく動かしたりする昨今の映画が、いかに3Dに向いていないかが良く分かる(たぶん、ポール・グリーングラス監督の作品などは最も3Dとの相性が悪いんじゃないだろうか)。僕は常々”動きの激しいアクション映画”を3D化する事に疑問を感じていたのだが、やはり3D映画は「できるだけカットを割らない撮影法」がベストだったのだ。

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また、舞台を宇宙に設定したことも、間違いなく3D効果の向上に貢献していると考えていいだろう。従来の3D映画の場合、どんなに奥行きを強調しても、一番奥には”背景”が存在していた。本物の風景には”背景”なんて存在しないのに、3Dで作られた奥行きには本来有り得ないはずの”背景”が見えてしまい、「そこが一番端っこだ」という印象を観る者に感じさせてしまう。

すなわち、3DCGの最大の弱点は無限遠が無いことなのだ。望遠レンズを使った時の無限遠が表現できないから、オープンになるとどうしても箱庭的な映像になってしまう。だから『アバター』では、空中に鳥を飛ばすなどの工夫を施し、できるだけ無限遠を作らないようにしていた(つまり演出で逃げていたのだ)。ところが、宇宙空間には「一番奥」など存在しない。どこまで行っても果てしない空間が広がるのみで、ついに文字通りの”無限遠”が表現可能になったのである。素晴らしい!

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更に、本作を観て驚いたのが”無重力の表現”だ。もちろん、過去のSF映画にも無重力の場面は存在していて、例えば、『2001年宇宙の旅』では、縦方向に設置したセットの中に宇宙服を着た俳優をワイヤーで吊り下げ、カメラを下側から撮影することによって、上下左右にフワフワと移動する不思議な映像を作り出している(『2001年宇宙の旅』のメイキング解説コチラ)。

また『アポロ13』では、大型航空機の機内に宇宙船コクピット見立てたセットを作り、急降下時に発生する無重力状態を利用して映画を撮影していた(つまり本物の無重力。『アポロ13』のメイキング解説はコチラ)。だが、『ゼロ・グラビティ』はそのような方法だけでは説明がつかない、まさに「どうやって撮影したんだ?」と驚くようなシーンの連続なのだ。

特にびっくりしたのは、サンドラ・ブロックが船内で宇宙服を脱ぐシーン。空中をフワフワと漂いながらヘルメットを外し、ゴツい宇宙服を脱いでサンドラ・ブロックの肌が露出していく場面のナチュラルさは本当に凄い。どうやら、グリーンバックで周囲を覆ったスタジオにCG製のバーチャルセットを合成し、遠隔操作が可能な12本のハイテク・ワイヤーシステムに吊るされたサンドラ・ブロックを、大勢スタッフが上下左右に動かしながら撮影したようだが、リアリティの精度が尋常ではない。

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その他、人間の顔が映らないシーンでは宇宙飛行士や宇宙船などを全て3DCGで作製したり、デブリの衝突で宇宙空間に吹き飛ばされるシーンでは登場人物たちが浮遊している姿を表現するために、様々な速度・角度で回転したり傾けたりする「ティルト・プラス・システム」という特殊な装置に俳優の体を固定して撮影したらしい(装置はCGで消去され、逆に体の一部はCGで描き足されている)。

更に、狭い宇宙ステーションの中を移動するシーンでは、カメラアングルや照明の具合をコンピュータ制御し、4096個ものLEDと196枚のパネルで構成された「特製ライトボックス」を使用するなど、この映画のために最先端テクノロジーが大量に導入されたそうだ(機材の開発に4年も掛かったとのこと)。これら最新技術によって生み出された驚異のビジュアル・エフェクトは、観客に物凄くリアルな宇宙飛行を疑似体験させてくれる。

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だが、本作は単に映像的・技術的に優れているだけの映画ではない。『ゼロ・グラビティ』の真の素晴らしさは、人間の生きざまをしっかりと描いている点なのだ。宇宙空間に単身放り出され、地球へ帰還できる可能性が限りなくゼロに近くなった時、主人公は一旦”死”を覚悟する。その時、死んだはずの仲間が現れ、彼女に”生”の可能性を託すのだ。そして主人公は決断する。「絶対に生きて地球に還る!」と。

どんな逆境に追い詰められても、諦めさえしなけば必ず可能性は生まれてくる。主人公のライアン・ストーンはとことん知恵を絞り、今の自分にできる最善を尽くすことで、自ら”生き延びる活路”を切り開いていく。最悪の事態に直面しても決して生きることを諦めない不屈の精神。その揺るぎない決意と行動に思わず目頭が熱くなった。彼女が奇跡の生還を果たし、自らの足で大地を踏みしめ、全身で地球の重力(グラビティ)を感じたその瞬間、きっと心から喝采を送りたくなるだろう。まさにこの映画は、逆境をはねのける力強さを描いた「生と死の物語であり、SFの意匠を借りた人間賛歌なのだ!


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