ウチそと研通信71 −写真集「日々」のことなど−

写真集「日々」が刊行されたのは1971年のことであった。牛腸茂雄さんと関口正夫さんの二人の写真が集められた、いまでは有名になっている写真集である。写真集では関口さん、牛腸さんの順序で編集され、冒頭には大辻清司氏のテキストが付されている。このそれほど大部ではない清潔な写真集は、いま見返してもいろいろな思いがふつふつと沸き起こってくる。写真集発行当時、カメラ雑誌「カメラ毎日」の短信欄では浅井慎平氏と宝田久人氏らの写真集と並べて新しい自費出版写真集の高まりという局面で紹介がなされていた。
この写真集はほぼリアルタイムに入手しているが、その頃はまだお二人と直接の面識はなく、カメラ雑誌、とくに「カメラ毎日」に登場するいわゆるコンポラ写真の撮り手として強い関心と憧れを持っていた。そしてこの写真集が発行された1971年には、コンポラといわれていた写真の流れのうねりがカメラ雑誌などのメディアではひとつ山を越し、同時代また後続の世代の一部に様々な形で影響を残しつつ凪の状態に向かっている。私には「日々」の刊行は当時コンポラと呼ばれていた写真の群れのひとつのまとめとも思われた。
「日々」の著者の一人、牛腸さんとはその後数度お目にかかる機会があった。当時の国電有楽町駅のプラットフォームで偶然に顔をあわせたりしたこともある。こんなときには知り合いに囲まれて会うときとは別の面が仄見えるようでいつもどきどきする。さらに1977年に九段のイタリア文化会館で開かれた「11人のイタリア写真家と11人の日本写真家―目・カメラ・現実―」と題する写真展示の際に、お目にかかっている。5月の晴天の中庭で、児玉房子さんが撮影してくださった集合写真がどこかに残っているはずである。この時には昨年亡くなられた「沖縄島」の下津隆之さんに文化会館入り口の階段で久しぶりにお目にかかり、立ち話ながら近況をうかがったりしたことを思い出す。そのときには、撮影したネガのほとんどを処分されたと話をされてとても印象深い。
さて、2003年に「日々」のもう一人の著者、関口さんが2冊目の写真集を刊行している。「こと」と題された写真集である。以前にもこの写真集には少し触れているが、「日々」以来30数年ぶりに関口さんがまとめられた写真集だ。判型は「日々」よりやや大きいが、「日々」と同じように暗色系のクロス装の本体を、白のシンプルな紙カバーでくるんだ「こと」は、「日々」と並べてみるとその密接なつながりであることが容易に理解される。さらに興味深いのは、「こと」にはどうやら、「日々」の「全体」に繰り返されているようなテーマがふたたび溶け込んでいるようにあからさまに感じられることだろう。「こと」をみることで、「日々」にもまた別な光が微妙にあてられてくるように思われる。二つの写真集の間の30数年は、繰り返される「日々」の「こと」に関する写真の行為というものなのか、じつに関口さんの作業は名付けがたく、不思議な謎に満ちている。