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2016-01-30 チーム・ブライアン ブライアン・オーサー 著

[]チーム・ブライアン ブライアン・オーサー

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キム・ヨナさんと羽生結弦さんがオリンピックで金メダルをとったときのコーチの本です。

そんなに文字数は多くないけれど、濃い内容です。羽生さんが練習依存的なストイックさから抜け出ていく様子や、キム・ヨナさんの「007」(←名作!)の背景も知れて、すごくおもしろかった。

わたしはスケートを見ると、あとで自分でも同じ動きを平地でやってみたりします。足首を内側から持つのと外側から持つのでどれくらい難易度が変わるとか、胸椎のこの部分をここまで反らせるとスピードが大きく落ちるであろうなどの見かたをするのですが、キム・ヨナさんがコントロールしている「目線」はほんとうにすごいなと思います。

同時に「胸を開けない心身の動き」も感じていたので、多くの仮説をためて読んだわたしには、キム・ヨナさん、つらかっただろうな…、跳びたかっただろうな…、と、涙なしには読めませんでした。ヨナさんの2章は号泣モノです。

と、身体的な話はさておき。


この本は行動心理学、メンタルコントロール、身体のピークのコントロール(ピーキング)だけでなく、国民性や思考の背景まで含め、かなり読みどころが多いです。羽生さんの話が読みたくてこの本を手にする人も、スペインのハビエル・フェルナンデスさんのファンになってしまいそう。ヨーロッパの(なかでも、ローマに近いあのへんの)諦念的寛容さが、日本・韓国の儒教体質との対比で沁みる。

わたしはこのコーチの選手時代を知らなかったので、勝手にサッカーのモウリーニョ監督のような「選手としてはそうでもなかったけど監督としてすごい」というタイプの人かと想像していました。でも読んでみたら、ぜんぜん違った。二度銀メダルをとったあとも長い間プロスケーターを続け、44歳でも3回転を跳べていて、「スケートが好きで、中年になっても跳んでた俺」というスタンスなのです。

メディアに苦しめられたことも、親が頑張ってお金の工面をする中で練習したことも、すべて「あのときの俺」の感覚記憶をきれいに保存していて、いまの選手の成長に役立てている。


英語の諺から引用した説明で「壊れていないものをいじる必要はない」というフレーズが2回出てくるのですが、修正することが仕事だとまったく思っていない。それは、このブライアンさんの先生(タグ先生)にあたる人から受け継がれたものだったようです。

 ダグの教え方は、科学的で、物理的でした。たとえば、身体の仕組みを理解すること、自分の身体の動き方を知ること、そして物理学的にどのようにしてスピードが起きるのか、飛躍が起きるのか、回転が起きるのかを理解することなどです。どうやったら重力に逆らった動きができるのか。カーブ、パワー、氷と接触する角度、筋力やいろいろなもののコンビネーションで動きが生まれるので、それを頭で理解することが大事でした。

(58ページ)

すごく要件が多いなかで芸術性を競うものだからこそ、ロジックでいけるところは頭でカバーし、ほかのことに意識を割こうという考え方のようです。



メンタルについては、以下のように書かれていました。

 スポーツ・サイコロジストと行った対策のひとつが、メディアのコントロールでした。

 まずオフの間にすべての取材を終わらせておく必要があります。そのため1987年7月にインタビュー週間のようなものをもうけて、一気にジャーナリストの取材を受けました。早い時期にきっちり対応しておけば、彼らも困りませんし、私も困らない。

(71ページ)

相手も自分も負荷を最小限にできるエネルギーのやり取りを考えてる。「相手も」ってのがポイントですよね。



以下も、よくあることなのだけど、読むと「ほんとうに!」となる。

精神的にいつもとちがうときは、いつもとちがう行動をしているものです。

(165ページ)

コーチ自身が競技者に自身の心の動きを見せない配慮も細かく、演技の前後の態度について考えたことも多く語られています。



コーチとしてはできるだけ平等を心がけるけど、どうしてもそうはいかないのが、選手それぞれが抱えている資金事情。そこもふまえてマネージメントをしなければならないのは、さぞかし大変だろうと思います。そのことについても、以下のように語られていました。

私の父も、スケートにかかる費用のために多くの犠牲を払わなくてはなりませんでした。父は2つも3つも仕事をかけもちして忙しく働いていましたし、母も共働きしながらリンクの送り迎えと家事をしていました。両親が一生懸命に働く姿を見て、私は感謝の気持ちでスケートを練習したものです。

スケートはたしかにお金がかかるスポーツですが、だからといって裕福であればいいというものではないでしょう。選手の経済面に気を配り、スケートを続けられるようにするのは、コーチのマネージングの仕事です。

(215ページ)

読んでいて、胃が痛くなりそう。素直に感動して読んでろ、って話なのですが。



この本は、以下も見逃せない読みどころ。

私が現役だった頃は、トップを本当に優れた2〜3人のスケーターが占めていて不動でした。いまではトップ約12人がいつでも表彰台に乗る可能性があり、優勝することもあります。旧ルールのように「技術点」「芸術点」だけではなく、ジャンプやスピン、滑りなど何十項目ものチェックがあり、それによって点数が決まるからです。国籍や出自と関係ない、とてもオープンな採点です。だからこそ、新採点法になってからステファン・ランビエールのようなスイス出身の世界チャンピオンが生まれ、日本や韓国からオリンピック・チャンピオンが誕生し、スペイン人が世界選手権のメダリストになったのです。

(226ページ)

美談の流れで書かれている文章ですが、冷静に読むとかなりぶっちゃけてませんかこれ。


「ルールが変わったから、こう攻める。というのはあたり前に重要なことだけど、あからさまにやると潰されるよ〜」ということまで知り尽くし、韓国や日本の選手の背景にある儒教的忠誠心のようなモチベーションも理解したうえで、全力で愛する。すごいコーチです。

楽しいこともつらいことも、身体感覚や印象を鮮明に保存できるって、やっぱり人の役に立つことにつながるんだな。指導者の視点、ナショナリズム、さまざまな面で思うことの多い本でした。コーチの「いまの選手はネットやソーシャルメディアもあって大変、かわいそう」みたいな視点はたいへん現代的だし、羽生さん自身の語る将来に対する自覚もさらに現代的。「のびのびと」なんてきれいごとだけではないのに、読ませる。おもしろい本です。


▼紙の本・Kindle版両方あります

チーム・ブライアン
チーム・ブライアン
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ブライアン・オーサー
講談社



▼当時は安心してみていられる風格がハンパなかったけど、この本を読んでから観るとまた号泣〜(とくに最初のフリー演技)

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▼王子様だけどあんだけ跳ぶわけなので、さすがの太腿。後屈もすごいけど、前屈時の頭の入れかたのほうがすごいと思うの

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