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こましゃくれ白兵

2014-07-18

語りえぬことはたしかに語りえることを語ることでその辺縁を浮かび上がらせることができるかもしれない。しかしながら、語られる意志を持たないために結果的に語られないままになってしまうことは、語りえることを語ることで浮かび上がることはない。哀れなるというべきかどうかは分からないけれど、この"語られぬ"ことたちが語られぬことに対して、しかもそれがそのこと自身のせいにされながら、語りの連環から廃嫡されていることに対して、僕は語りえぬ違和感を感じている。

2014-03-29

出会いと別れ

昔から人と別れるのが嫌いだった。

いや、もう少し正確に言う必要がある。自分が家に帰るために人と別れるのは別に構わなかったのに、他人が家に帰って、自分がこの自分自身の世界に残されることが嫌いだった。それは切ないものだった。

それは僕自身の世界が退屈で凡庸で自分にとって耐え難かったからじゃない。そこから逃げ出したかったからじゃない。むしろぼくは自分の周りの小さな世界を愛していた。

自分の前にふと見せられた新たな物語が、そこに自分が没入しかかっていた世界が、ぱっと消えてなくなってしまうからだ。胸が締め付けられるような喪失感。そんなことをするなら、もうぼくに新たな物語を見せてくれるな、と思ったこともあった。

他の物語が自分の物語に入り込んでくるとき、ぼくは自然とその物語を歓待していた。私という物語で少しでも楽しんでもらえるように自分勝手に気を配った。多少の気に入らないところがあっても目をつぶり、意識的に努力してその物語を受け入れようとした。それが訪問者への礼儀だと思っていた。いきおいその訪問が長く続くと、その外部の物語はいつしか自分の物語と不可分な、いや、私にとって、欠かせないものになってしまいがちだった。

しかし訪問者はもちろんあくまで訪問者でしかなかった。
そしてぼくも、他の物語を訪問するとき、やはり訪問者でしかいれなかった。


飛行機から見る都会の夜景は、ぼくに妙な高揚感を与える。

それはぼくが訪問者たる資格で、他を訪問し、そして別れを告げる、その記憶と結びついている。ぼくはいつか自分が訪問され別れられたときの心満たされぬ苦痛を、他のみんなも感じるだろうと思っていた耐え難い寂寞を、自分が訪問者となり他に与えることで、ある種の復讐をしているつもりだったのかもしれない。

2014-03-23

何でもよいから、少しでも自分のことばで文章を書くことが、何らかのリハビリになるのだという話をどこかで見たような気がする。そういうささやかな記憶を動機にして、ぼくはこの文章を綴り始めることにする。

好きであるというのは結構微妙なもので、生暖かい気流が空の向こうに上がっていくような場面もあれば、一面に広がる緑とからっと晴れた太陽が提供してくれる風景みたいなときもある。ぼくは割にことばを適当な定義で使ってしまうことがあると思うし、でも一方でことばを使うときにはちゃんとその意味するところを自分ではっきり自覚して、共有したいと思う。だからこのことばは本当はなかなか使いづらい。

とはいえ、そういうことを抜きにして。

好きなことをするとき、それはぼくが本当にそれをしたくてするのか、あるいはそうじゃなくて、何かしたくないことがあって、それから逃げるためによりよい選択肢としてそれをするんじゃないか、なんてことを考える。考えてはみた。例えばそれは「そのこと」に対する敬意を欠いているのではないかと。でもそれはぼくたちがみんな母なるミトコンドリアに対する敬意を欠いているようなものだ。

それでは次のニュース。

ぼくはクールでありたいと思う。思春期の名残かもしれない。ぼくは何かのことが嫌いかもしれない。現にセロリのことが嫌いだ。それはそれでいい。それは<ぼく>の問題であるかもしれないが、ぼくの問題ではない。ましてや君の問題など、どうでもいい。

とはいえ、ぼくは君が雨に打たれているときに見過ごすことはできない。

大したことはできないくせに、とぼくは言う。でもクールであることは何も言わないこととはちがう。何もしないことともちがう。

2013-12-03

思いつき

ぼくはもしかしたら、何かを別のものに変えることが好きなのかもしれない、
そういう行為をなんと言えばしっくりくるのか、分からないけれど。
例えば料理だったり、翻訳、治療、栽培、紙をなにかで埋めること。

言葉とか文法とか音ゲーとかも好きだけど、これはそういうのには当てはまらない、
むしろ規則と名辞があるという安心感を好いているんだと思う。

悪いものを良いものに、良いものを悪いものに。
小さいものを大きいものに、大きいものを小さいものに。
ある言葉を別の言葉に、別の言葉を自分の言葉に。

あるいは魔法使いみたいに。
魔法使いはすごく好きだった。スヌーピーと同じぐらい。

無から有を作るのは、あんまりやる気が起きない...
マクゴナガル先生も言っていた、無から有を作ることは魔法使いには出来ないと。
たぶん。

2013-04-20

ある女の子の話

しばらく会っていなかった女の子に、久しぶりに会った。ある本屋さんに、ある作家の本を探しに行ったのだ。ぼくがその作家の本が並んでいる棚に行くと、彼女はその棚の前にいた。あら久しぶりと彼女のほうがぼくに声をかけ、彼女はぼくに、君もこの作家好きなの、と尋ねた。そうだ、と答えると、○○は読んだ、と尋ねるので、読んだ、とても面白かったと答えた。彼女とぼくは親密な微笑みを交わした。彼女は□□を買いに来たの、君は、と尋ねるので、ぼくはそれじゃなくて、うーん、どこにあるのかな、と答え、本棚の下の方を探すために体を屈めた。その本棚にはその作家の本が上から下までぎっしり並んでいて、しかも奥行きの広い本棚に小さな文庫本が奥に寄せられて並んでいたので、屈まなければ下の本が見えなかったのだ。そこでぼくが下の方に屈むと、やおら彼女は棚に顔を突っ込んだぼくの下顎を靴で持ち上げ、棚にぼくの頭を押し付けた。しばらく何が起こったのかよく分からなかったので、とりあえず目的の本を探し続けていたが、結局見つからずぼくの思考は彼女の靴と本棚の板に挟まれた自分の頭のことに移った。しかしやっぱり何が起こっているのか分からなくて混乱し始めていたところで、彼女の靴はぼくを離れて、ぼくは立ち上がることが出来た。なかった、とぼくは答え、そう、と彼女はにっこり微笑んだ。