しごとをめぐる事業・メモ



私のしごと館館長からのメッセージ」:

 私のしごと館においては、若い人たちが早い時期から職業に親しみ、自らの職業生活を設計し、将来にわたって充実した職業生活を送ることができるよう、様々な職業に関する体験の機会や情報を提供するとともに、必要な相談・援助等を行うこととしています。

私は実際に行ってみましたが、信じられないほどに空疎で、建設意図が理解できませんでした(参照)。 「建設費が580億円、年間の赤字が20億円」「人形一体が300万円以上」などの情報をTV番組でも目にしましたが、ほとんどシュールなまでの数字です。
こういう施設が存在できてしまうという社会の体質こそが「しごと」をできなくしているという側面はいっさい考えず、まるでみずから自身が社会を(その社会でなされる仕事を)再考させるための素材であるかのような施設。
一つひとつの展示より、「この施設のいきさつ」をこそ、授業や研究の素材にするべきだと思います。(お時間のある方は、ぜひ今のうちに見学されることをお勧めします。)




■「私のしごと館概要説明資料」(PDF厚生労働省、平成20年3月6日):

   運営費交付金*1支出額: 14.8億円(平成18年度)
   自己収入額: 1.4億円(平成18年度)

これまでにあちこちで見た情報では、「20億円の赤字」となっていましたが…(参照1)(参照2)。




■「580億円ハコモノと厚労省“天下り法人”」(日刊ゲンダイ2008年8月19日掲載)

 「福田自民には独立行政法人への予算投入を推し進めてきた議員が多い。実際、『しごと館』のある『けいはんな学研都市』の建設促進議員連盟には、伊吹財務相と谷垣国交相の2人が名を連ねていました。伊吹大臣は特別委の副委員長、谷垣大臣は連盟の幹事を務めた。彼らが開発利権の盾になって反対する可能性もあります。さらに厚労省職業能力開発局長として『しごと館』建設の指揮をとった坂本由紀子氏は現在、古賀派に所属する参院議員です」(若林亜紀氏)

独立行政法人雇用・能力開発機構」について:

 「名簿に記載されていない“役員待遇”の職員も大勢います。『しごと館』の館長もそのひとりで、天下り役員と同様、出勤は月1回程度で月給80万円の高給をむさぼっていた。 機構のデタラメは、450億円で造って8億円で売った『スパウザ小田原』など枚挙にいとまがないが、敷地面積7万3000坪の『職業能力開発総合大学校』もムダの本丸*2機構への年間予算6000億円がドブに捨てられています」(若林亜紀氏)

若林亜紀氏は、かつて「特殊法人 日本労働研究機構」(現・独立行政法人 労働政策研究・研修機構)に所属し、『ホージンノススメ―特殊法人職員の優雅で怠惰な生活日誌』の著者。
実際の受益者(就労にかかわる当事者)の意向を無視した巨大な事業が、どうしてここまで進んでしまうのでしょうか。 「職員は社会参加できているからそれでいい」とは、とても言えない。 権力をもって《参加=所属》することは、自分自身への批評的取り組みと同時でなければ*3
意思決定権をもった側に、当事者意識が感じられない*4。 「弱者=告発主体」としての当事者性ではなく、「力関係に巻き込まれた強者である」という意味での当事者性が、なかったことにされている*5。 当事者意識を持たずに、単に迎合的に順応を続けていれば、いくらでもグロテスクな展開になり得る・・・。





■「「私のしごと館」の包括的民間委託に係る入札公告について」(厚生労働省、平成20年6月16日)

 独立行政法人雇用・能力開発機構が運営する「私のしごと館」については、「独立行政法人整理合理化計画」(平成19年12月24日閣議決定)において、「運営を包括的に民間に委託し、第三者委員会による外部評価を実施し、その結果を踏まえて、1年以内に存廃を含めその在り方について検討を行う。」とされています。
 これを踏まえ、「私のしごと館」について、存廃を含めた在り方に関すること等を検討するため、経済界、教育界等の有識者からなる「私のしごと館のあり方検討会」(座長:加藤丈夫富士電機ホールディングス相談役)を開催しています。
 本年3月以降、私のしごと館及びキッザニア東京の視察を踏まえて熱心に議論を行っていただき、「私のしごと館」の包括的民間委託に当たっての視点・考え方の取りまとめがなされたところです。

第3回私のしごと館のあり方検討会・資料」というのが出ています。





■「私のしごと館:19億円で民間委託 雇用・能力開発機構」(毎日新聞、2008年7月26日)

 独立行政法人雇用・能力開発機構」は25日、巨額の赤字が問題化している職業訓練施設「私のしごと館」(京都府精華町木津川市)の運営を、コンベンション業界大手のコングレ(本社・大阪市)に民間委託することを決めた*6。 契約期間は9月1日から2年間。事業内容として必須の職業体験のほか、就職フェアや採用面接などに活用し、収支改善を図る。コングレの落札額は18億9912万円(税抜き)。

現状では2年間で30億円ちかい運営費がかかるところを、民間委託で19億円に減らした、ということでしょうか。 しかし、それでも巨額の赤字になります。 「公共事業は赤字で当然」という方もいますが、かけた費用の大きさに対して、今のままでは公共的意義への疑問が大きすぎます。





【参照】: 黒字運営を続ける民間事業「キッザニア

 キッザニアには、消防士、キャビンアテンダント、モデル、医師など、 80種類以上のお仕事や習い事がこども達を待っています。各パビリオンでは、こども達の年齢や興味に合わせて、さまざまな種類、難しさのアクティビティ(具体的な仕事や体験)が用意されています。

「キッザニア甲子園」、来年3月に西宮市でオープン」(2008年07月03日):

 キッザニア甲子園では、阪神電気鉄道が「世界初」(同社)の電車パビリオンを出展するほか、東京にはない大学、大使館、ホテル、音楽スタジオ、寿司屋、発掘現場などのパビリオンを予定している。現時点で出展を表明している企業は35社だが、最終的なパビリオン数は約50になる見通し。

【利用料金】

   『私のしごと館』: 小学生200円、中・高校生300円、学生500円、一般700円
   『キッザニア』: 幼児(2〜3歳)1575円、こども(4〜15歳)3150円、大人(16歳〜)2100円

キッザニア』の子ども料金は、『私のしごと館』の10〜15倍。 にもかかわらず黒字。
【参照:「キッザニアの予約状況」】





*1:参照:「運営費交付金について」(あずさ監査法人

*2:参照:「職業能力開発総合大学校の廃校を含む公共職業訓練切捨てに反対し、その再生を進める全国共同緊急アピール(案)」(2008年8月21日〜)

*3:そうした批判的検証は、臨床的な意義をも持つ――というのが、私の要点です。

*4:若林氏は、感情的と感じることもありますが、逆に言うとそのことまで含めて強く「当事者的」に見えます。

*5:つまり私はここで、分析的な当事者意識をこそ「公共性」に結び付けています

*6:株式会社コングレ「会社案内NEWS」(2008年7月25日): 「コングレは、「私のしごと館」の包括的民間委託(管理・運営業務)担当会社に決定いたしました。」