「オペラ座の怪人」

††キャスト††


オペラ座の怪人 佐野正幸
クリスティーヌ・ダーエ 沼尾みゆき
ラウル・シャニュイ子爵 中井智彦
カルロッタ・ジュディチェルリ 種子島美樹
メグ・ジリー 松田未莉亜
マダム・ジリー 原田真理
ムッシュー・アンドレ 増田守人
ムッシュー・フィルマン 平良交一
ウバルド・ピアンジ 橋元聖地
ムッシュー・レイエ 斎藤譲
ムッシュー・ルフェーブル 川地啓友
ジョセフ・ブケー 佐藤圭一


男性アンサンブル
松永隆志/佐藤季敦/伊藤礼史/野村数幾/見付祐一/根本健一/瀧山久志


女性アンサンブル
河村彩/暁爽子/斎藤さやか/村瀬歩美/籏本千都/松元恵美/中里美喜/清水麻梨紗/山本紗衣/吉村晶子/野田彩恵子/小林貴美子



毎日放送の「ポテトの時間」を見て、やはり、もう一度行かねば!と思って前日予約をしようと決めたのが、木曜日。
金曜日、2時からの会員先行で電話を…と思っていたけど、全然時間が取れないっ。
ようやく、仕事がとぎれたのが5時前。
この時間からなら、無理して職場からかけなくてもいいか。
帰宅してから、ゆっくり座席表眺めながら電話しよう〜っと。
と、帰宅して、電話する…けど、話し中。
こりゃ、間が悪いね、と、時間をあけて、再度電話。
すると、録音テープが「営業時間は終了しました」


はい?
そういえば、フリーダイヤルの時間帯、変わるとか、あったような…。
調べてみると、6時営業終了ですか。
やられた感満載ですが、仕方ありません。
当日券情報をチェックすると、まだ、土曜日のチケットは残ってるようだし、これは、劇場行って買うか!


で、当日。
開場予定時間を少し前に、劇場到着。
でも、すでに入場は始まってるな…。


当日券引換券の窓口には、数名たむろっていらっしゃるけど、当日券売り場は誰もいない。
よっしゃー、と残ってる席を確認します。
1階席はA席のみ。2階席はS席の3列目以降。
うーーーん、これは悩み所ですよね。


後ろに人がいないことをいいことに、結構悩む。
窓口の人は、研修中の人で、やたらと2階S席の位置関係や、1階A席の見切れについて説明してくれるけど…。
正直、その情報は、なくても良い感じ。


京都は2階席が高いから、S席の最前列でも結構遠く感じるんだよね。
それなら、1階席で熱気を感じる方がいいかなあ…。
でも、1階席の最後列なんだよなあ…。


悩みに悩んで、1階席にしました。
実際、座ってみると、遠くは感じるものの、十分かな。
細かい演技は、オペラグラスに頼るとして、全体を見渡すのにはいい感じ。
上方が見切れるということだったけど、見切れたのはシャンデリアだけ。
それも、下の方は見えてるし、落ちるときもほぼ見えました。
名古屋の最後列(B席)はかなり落ちるまで見えなかったし、そこから比べると全然よしです。
(まあ、B席とA席の違いはそこなんでしょうけどw)


この日は、某学校法人さんのPTAの団体がお出でになってました。
そのためか…開演前のざわめきがなかなか凄い。
なのに、係りの人が、注意事項を言い始めると「しーん」
その落差にちょっとびっくりです。


さて、今回は、個別感想ではなく、舞台進行に沿って感想を書こうと思います。
主として、主要3名を中心にして。
かなり主観になりますが、よろしければお付き合い下さいませ。



■オークション
「ちょっと、君…」では、もちろんいつもラウルを見ていますが、この日は、その後も注目してみました。
そうすると「皆様も、あのオペラ座の怪人…」というあたりでも、なかなかに複雑な表情をしてるんですね。
まさに、当事者であったわけですから、当時のことを思い出しているのか。
「奇怪」と言われた事件の真相を、自分は知っているという思いなのか。



ハンニバル
動きを間違えて、下手に行ってしまった時のメグの「しまった!」感じ。
クリスティーヌはぼんやりしているから、メグにくっついていって、ミスをした感じ。
カルロッタの歌は、キンキン声ではあるけど、迫力がちょっと不足してるように感じました。
あと、カルロッタが鞭男さんと目配せしてる?って感じがわかりました。
この日のピアンジの「あたしにはとても言いにくくって」は、あまりオネエ系には聞こえませんでした。



■Think of Me
カルロッタは、かなり粘り気味。(特に伸ばす部分)
「どうずぉ〜おもいでぃえ〜お〜こ〜のむぅねぇ〜にぃ〜」て感じに聞こえます。
クリスは、やっぱり息漏れが気になりますが…。
前回は、ここのシーンでは気になったけど、他の場面ではあまり気になりませんでした。
でも、じっくり聞いていると、他のシーンでも、同じ音域あたりでは結構息漏れしてます。
おそらく、他のシーンでは、デュエットだったり、音楽がゴージャスだったりして気になりにくいのかな。
このシーンは、じっくり歌を聴くため、息漏れが目立つのかなーと思いました。
ラウルは、天真爛漫というか、お坊ちゃまらしい、天然の明るさ。
まさに太陽の下に生きている感じの青年で、ラウルらしさが感じられて良かったです。


ところで、このシーン、クリスに当たっているスポットライトが床に反射して、背景に映りこんでいます。
そこに、ファントムの影が映っているように思ったのですが…気のせい?
(別の場面と記憶が混同しているのかも…)



■楽屋
ここでもラウルは明るいです。
まっすぐ直球勝負。
鏡の中のファントムは、表情までは伺えず、ちょっと残念。



■The Music of the Night
その前の「POTO」の「わーたーしーはー」が時に声が割れるので、どきどきでしたが、この日はばっちり。
ちょっとほっとしました。
「心は空に高く」は声を抜くような感じで、細くなるのが、そういうものなのか、声が出ないからなのか、気になるところ。
あと、歌でどきどきなのは、「心の赴くままー」のロングトーンですが。
これは、やっぱり力業で、最後は絶叫系に。
喉に負担がかかりそうで、どきどきです。
でも、この日、歌で不安を感じたのはここだけ。
そして、歌以外では、クリスを幻惑する動きといい、演技といい、とっても魅惑的でした。



■隠れ家
仮面を奪われたファントムの、「呪われろ…」は怒りより、苦しみの方が強く感じられます。
這いずるようにクリスに近づく様は、なかなかに気持ち悪くて。
でも、逃げずにまっすぐ自分を見つめるクリスを見て、嬉しそうに(決して美しくはない)微笑みを浮かべ。
なんらかの期待を込めて、素顔を晒す。
息を呑むクリスに恥じ入るファントム。
でも、クリスは目を逸らさず。


仮面を受け取ってから、クリスに触れようと手を伸ばし、躊躇い、結局「行かなければ」と気持ちを切り替える。
でも、その前のクリスに触れようとしているところが、切なくて。
触れたいけれど、触れられない。
きっと、怖いんだろうなあ。
だから、「行かなければ」と誤魔化しているようにも感じます。



■支配人のオフィス
「天使か化け物か」は、もう、合わせる気がないのか!ってくらいにばらばらな動きです。
女性陣がちょっと弱い感じはしますが、ラウル、ピアンジ、フィルマン、アンドレ
男性陣の声はどなたも朗々としていて、聞き応えありでした。



■イル・ムート
殿様の歌が好きですw
シーツを伸ばすクリス、いまいち「ぴしっ」と伸ばしている感じがしません。
動きのせいかな?


関係ないけど、なぜ、このオペラではピアンジは出番ないのでしょう?
テノールが相手役じゃない舞台だから?



オペラ座の屋上
前回見たときは、ここのシーンから、クリスはとことんファントムが嫌いなんだなあと思ったんですが。
今回は、ちょっと違う感想を持ちました。


「哀しみに満ちあふれて 憧れを宿していた」


熱に浮かされたような言葉ではなくて、ファントムを理解して言ってない?
ファントムの魔力に囚われてではなくて。
恐ろしい仮面の下の、ファントムの哀しみを理解しているような。


そう思って見ると、「誰、今のは」と泣きそうな表情をするのも、「ただ自由に」と歌うのも、ファントムを嫌っての行動ではないような気がしたり。
クリスが怖れているのは、ファントムではなく、ファントムに惹かれている自分自身なのでは…?


でも、傍目からは、ファントムを怖れ、疎ましいと思っているようにしか見えないから、ラウルも安心というか。
ファントムにクリスを奪われる可能性なんて、全く感じていなくて、ただ、守ってあげようという意識。
ファントムも、とことん嫌われていると思っているから、「愛を与えた…」からのすすり泣くような歌声。


ところで、ここのファントムの登場シーン、格好良いですね。
ペガサスの翼をぐっと掴む両手がまず現れるんですが、その手に表情がちゃんとある。
一拍おいて、姿も現れ。
そこまでだと、おどろおどろしい感じで、怒りに震えているのかと思えるのに。
震える声で、裏切られた哀しみを歌う。
その声が、めちゃめちゃ可哀想で、でも、二度目の「クリスティーヌ」が怖いんですよね。
哀しみが、怒りに変わっていくのが伝わってきます。


「これほどの辱めを決して許しはすまいぞー」のロングトーンはたっぷりなんですが、伸ばしきったラストの音の揺れが、また怖いんです。
クリスに執着するファントムの執念深さのようなものが感じられて。


シャンデリアは、クリスが固まって動けなくて、ラウルも助けに来て、一瞬止まるから、見ていてちょっと怖い。
(これは、物理的に、怖い)
すぐ逃げてーっ。止まらんと、逃げてーっ。
大丈夫なはずとわかっていても、怖いです。


ここで、1幕終了ですが、PTAさんたち、固まってる感じ。
そういえば、前回、「ここで終わりって、よくわかるね」と言っていた人がいたっけ。
きっとPTAさんたちも、「え、ここで休憩?」って感じだったんだろうなあ。




■2幕オーヴァチュア
暗くならないと静かにならない客席…。
うーん、確かに録音だし、聞き入る感じじゃないけど。
オーヴァチュアは生オケじゃないと、やっぱり淋しいです。



■マスカレード
前回、リハ見で指導されていた「FACES」の1回目、やや粘りが足りないかもーと思い。
2回目の「のーめよ」のところでは、たまたま目に入った男性アンサンブルさんの適当な手の振りに、こりゃ佐野さんに指導されるぞーって思いました。
アゲハチョウのダンサーさんが、目立っていました。



■支配人のオフィス
この辺りで、ふと、ラウルが前回より格好良いような気がしてきました。
…というと、語弊があります。
前回、ラウルの立ち姿がなんとなく「もっさり」しているなあと思っていたのです。
ファントムのすっきりとした立ち姿(特に上半身)が綺麗なだけに、なんでだろうと思っていました。
若干太めなのかな?とか。
ラストのシャツになってるところは、そんなに太っているようには見えないんだけど…。
それが、今回、「もっさり」しているとはあまり感じなくて。
単に、遠いからかもしれませんが、それだけじゃない気もする。
それで、じっと見ていると、肩の位置が後ろになってる感じ?
背中が平になっているというか…。胸を張ってるというか。
そういえば、以前、代表が石丸さんの練習をつけるときに、ハンガーを背中に入れたって話を思い出しました。


演技に関して言うと、ファントムをやっつけるぞー的なラウルとはちょっと違う感じ。
大阪公演ではこのシーンで、「クリスのことなんか考えず、怪物やっつける男の子」ってイメージを持ちましたが、そういうのとは違うかな。



■墓場
すごく優しい声で、クリスを呼ぶファントムが素敵です。
ラウルが現れなければ、確実に、クリスはファントムの所に行っていたなーと思われる。
そして、この時のクリスは、ラウルを守るために墓場から去っていったように見えます。
ラウルの方は、クリスティーヌが自分だけを愛していると自信満々に見えます。



ドン・ファンの勝利
開演前に扉を閉めるときの「完了!」が京都劇場では3箇所くらいなのがちょっと残念。
大阪の時は、本当にそれぞれの扉が閉まった感じがあって、臨場感があったのですが。
それでも、ファントムの時は、いろんな所にスピーカーを仕込んでいて、音が多重的に聞こえるのが嬉しいです。


「PONR」は歌も迫力があって、素晴らしかったです。
クリスの手をぐっと握るところはドキドキします。
ファントムと気がついたクリスが、引きずられていくときの必死な感じがリアル。


フードを取ったときには、「ああ、やっぱり…」という表情。
そのあとの、ファントムの「ALL I ASK OF YOU」はこちらの魂まで震える感じ。
ファントムの気持ちが伝わってきて、胸が締め付けられます。



■隠れ家
「醜さは顔にはないわ…」と言われたときのファントム。
この前は、「何を言うか!」という感じに見えた表情が、この時は一瞬期待するかのように顔がゆるんだように感じました。


三重唱は、よかったなあ。
それぞれの緊張した感情が伝わってきて。
ラウルを守ろうと手を広げるクリスなど、無力な少女ではないところもよかった。


ファントムの「選べ!」が、言い捨てる感じではなく、どこかに弱さが感じられる。
ファントム自身、選ばれるはずがないとわかっていて、それでも、言ってるような。


その後の、「絶望に生きた…」からは、原作の影響もあるのでしょうが、ラウルのために「選んだ」ようには思えませんでした。
いや、ラウルのためなんですけど。
ラウルのために、犠牲になるのではなくて。
いやいやではなくて。


クリスの中に、確かにファントムを思う気持ちが存在していて、本気でここでファントムと暮らしていくことを選んだ。
闇に惹かれる気持ち。
それを怖れていたクリスティーヌが、ラウルのためというきっかけはあったにせよ、闇の中で生きていくことを選んだ。


最初のキスで、ラウルは、二人を凝視していますが、その表情は驚愕の表情。
クリスティーヌは自分の恋人だと信じていたのに、目の前で、ファントムへの想いを見せられてしまった。
自分のために済まない…という風には感じませんでした。
クリスティーヌは、ファントムを忌み嫌っていたのではなかったのか!
心の底では、惹かれあっていたのか!
そういう驚きに感じました。


二度目のキスで目を逸らすのは、その事実から目を逸らしたかったのだと感じます。


「ラ・アルプ」で冒頭シーンの「オルゴールこれだ」の曲がファントムのモチーフだというところに、ラウルもまたファントムの魔力に囚われているのではないかと感じる、と佐野さんが仰っていましたが。
もしそうであるならば、ラウルがファントムに捕まったのは、この時だったのだろうと、思います。


「行け!」と二人を去らせる時に、それがファントムの愛であることにラウルが気づいて、ファントムの愛も引き継いで、クリスティーヌを愛していく。
クリスが指輪を返しに来るのは、これも原作から、クリスからファントムへの愛であると思うと、去っていく辛そうな表情も納得がいきます。


ファントムは不器用だったから、クリスを連れ去ったり、感情のコントロールができなかったりしたけど、本当はわかっていたはず。
自分がクリスと寄り添って生きては行けないこと。
クリスのためには、ラウルと行った方がよいこと。


それでも、クリスティーヌが大好きだったんですよね。
彼女がいて、初めて生きる意味も見つけたのかも知れない。
彼女を失って、人ではなく、オペラ座の棲みつくゴーストになった、そんなラストだといつも思います。



佐野さんのファントムは、名古屋で見たときもそう思ったような気がしますが、エリックを感じさせます。
名も無き亡霊ではなくて、名前のある一人の人間。


以前、高井さんのファントムはエンジェル・オブ・ミュージック、村さんのファントムはパパ、と書いたことがあります。
そのとき、佐野さんのファントムに、ぴったりの表現が見つけられなかったのですが、今なら、名前を付けることができます。
佐野さんのファントムは、エリックです。


思い返せば思い返すほどに、エリックの哀しみに囚われていきます。
本当に素晴らしいファントムでした。


勿論、ラウルやクリスもよかったです。
念のためw