マリー・アントワネットの植物誌 ヴェルサイユ宮殿秘密の花園

マリー・アントワネットの植物誌: ヴェルサイユ宮殿 秘密の花園

マリー・アントワネットの植物誌: ヴェルサイユ宮殿 秘密の花園

知らぬ人はいないほど著名なマリー・アントワネットを彼女が愛してやまなかった植物という切り口で紹介する。
断頭台に上がるには、あまりにも素朴な人だった気がしてくる。
ルイ16世から妻であるマリー・アントワネットに「花を愛する君に、この花束を送る」と共に贈られたのが、離宮プチ・トリアノン宮だとか。
この離宮は、アントワネットが鬱陶しいしきたりや窮屈なドレスから逃れるための聖域。
庭園は、フランス式庭園、イギリス式庭園、展望台、孤独の木立、王妃の村里、愛の神殿の6つのブロックになっており、彼女自身が造園の指揮をし、植える植物を決めている。
王妃の村里には、田舎家・藁ぶき屋根の家、酪農小屋、風車、鳩小屋、農地、家畜、湖があり、各家々には自家菜園も。
ミニチュアの趣味などには留まらない規模。

アントワネットは、カツラを脱いで、白いシャツと麦わら帽子で園芸にいそしみ、植物を愛でていたそうな。
世界中からも取り寄せており、株数も1種が2000本だったりもものすごい。
日本ツバキもあるんだって。「寒さに動じない冬のバラ」だって。

この本には、ブロック毎に植えられていた植物を美しく分かりやすいスケッチで紹介。

とはいえ、科学的な内容は図鑑に近く、しかもアントワネットや関係者との関わりやエピソードを交えていたり、ギリシャ神話、医学薬学、歴史、文化、風俗等広い知識が満載。
ハーブ活用書として活用できそう。
美術鑑賞にこの本を携えていたら、描かれた植物の意味が分かり、感じるものも変わってくるかもしれないね。
著者はヴェルサイユの調香師で、監修はヴェルサイユ宮殿の主任造園師アラン・バラトン。
信頼できる内容だね。



当時の植物の知識は、女性の趣味に留まらず、男性も含めて一般教養や知性の象徴として存在していたんだね。
薬としても様々なものが使われてたみたい。
偏頭痛のためにホットチョコレートにラベンダーを入れる、物忘れ防止にライラック、オオカミよけにジンチョウゲの実。
悪意や噂話で落ち込むと、神経の鎮静にオレンジフラワーウォーター。
香水や精油では、ささやかな香も使い分ける。


アントワネットの化粧用手袋の香り付けの逸話なんて、すごいよ。
彼女を喜ばせるためなら、最高の努力を惜しまない側近や担当者たち。
アントワネットの調香師ファージョンは、乾燥した日の明け方から1時間以内、もしくは日没1時間前に摘んだ深紅のカーネーションなどを摘み、花弁がすりあわないようにし、香りを濁らせないためにガクを完全に取る。
その花に手袋を挟むこと8日間。
匂いがしっかりついたら、白蝋、スウィートアーモンド油、ローズウォーターで被膜し、更に新鮮なムスクローズの上に置いて香りづけ。
この手袋をして眠ると、手を柔らかくクールに保てる。
乗馬の時も馬具から手を守ってくれるのだそうだ。
ちょっと試してみたいな。

ブドウも食べるだけじゃない。
樹液で洗顔、果汁や房は日焼け除去の化粧品に。

トチの実で手の洗浄。
粉にして、くしゃみを誘発させ、目眩や片頭痛の治療に。
ろうそくの原料にしたり、子どもたちが種子に絵を彫ったり。

アントワネットの大のお気に入りで、大流行させたスミレ。
なんだか意外。
甘く、かつクールな芳香。
香水はもちろん、化粧クリームにしたり、ジャムにしたり、バターの香り付けにしたり、サラダに飾ったり。