覚え書:「時流底流 国民管理に危惧 白石孝 プライバシー・アクション代表」、『毎日新聞』2012年3月17日(土)付。







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時流底流 国民管理に危惧
白石孝 プライバシー・アクション代表

外国人を含めた日本国内に居住する全員に割り当てる「マイナンバー(個人識別番号)法案」が国会に提出された。法案をみると、個人番号の利用が、社会保障や税など限られた分野でなく、政府が自分たちの都合に併せて幅広く活用できることに道を開いていることは見逃せない。法案は個人番号などの利用を「制令で定める公益上の必要がるとき」と明記した(17条1項11号)。住民基本台帳ネットワークシステムの導入に伴う住民票コードの利用事務は、法律で一つ一つ明記したが、個人番号については事実上のフリーハンドを与えている。安易な利用拡大に対する歯止め措置など全くないに等しい。
 個人番号の発行は市町村とされているが、業務は「法定受託事務」といい本来は国の事務だ。住民票コードの発行は同じ市町村でも「自治事務」と呼ばれる固有の事務とは大きく異なる。個人番号は国家による番号の割り当てで、これこそ「国民総背番号」と呼ばれるにふさわしい。福島県矢祭町は今も住基ネットから離脱している。国はその反省に基づき法律上の解釈の余地のないようにしたかったに違いない。
 ICカードの住民基本台帳カードも「個人番号カード」に切り替わるが、普及しなかった住基カードと違って法案は、本人確認のための番号カードの提示を盛り込んだ(12条)。発行は本人申請に基づく発行が建前だ(56条)。しかし、民間を含む多くの事務で提示を求められれば、カードを常に携行せざるを得ない状況が生まれるだろう。米国の社会保障番号も申請主義だが、番号なしの生活は不可能だ。
 番号とカードで国民を管理できる強い国家の基盤ができることになる。この利用に謙抑的な政権もあるかもしれないが、少なくともその条件は整うことになるわけだ。40年前に官僚が立てた構想を、脱官僚と政治主導を目指した民主党政権が実現しようというのだからあきれるほかない。
    −−「時流底流 国民管理に危惧 白石孝 プライバシー・アクション代表」、『毎日新聞』2012年3月17日(土)付。

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覚え書:「急接近:ウィリアム・スウィングさん 震災で見えた日本の外国人政策の課題とは?」、『毎日新聞』2012年3月17日(土)付。

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急接近:ウィリアム・スウィングさん 震災で見えた日本の外国人政策の課題とは?

 <KEY PERSON INTERVIEW>

 東日本大震災から1年にあたり、国際移住機関(IOM)は外務省、明治大学と共催で日本の外国人政策を考える会議を開いた。日本はどう対応すべきか。IOMのウィリアム・レイシー・スウィング事務局長に聞いた。【聞き手・福島良典、写真・尾籠章裕】

 ◇制度整え広く人材募れ−−国際移住機関事務局長、ウィリアム・スウィングさん(77)
 −−日本には現在、約200万人の外国人が暮らしています。東日本大震災が在留外国人にどのような影響を及ぼしたと思いますか。

 ◆ 日本語を話せない外国人の場合、問題は意思疎通が困難になることだ。何が起きているのか、身の安全を守るには何をすればいいのか、どこに避難すればいいのか−−。きちんとした情報を得られなくなる。日本に限らず、大規模な自然災害は在留外国人の社会統合をより進めなければならないという課題を浮き彫りにするものだ。

 一方、これまで日本国内で見えにくかった在留外国人の状況が分かるようになった。会議に参加した佐々木アメリアさん=宮城県南三陸町=は震災後、在日フィリピン人向けの日本語教育と就労支援の取り組みを始めた。話を聞いて分かったのは、日本社会に対する「貢献者」であるということだ。

 −−現代は「移民の時代」とも呼ばれます。これまで日本は移民の受け入れを制限してきましたが、いずれ「移民国家」になると思われますか。

 ◆ 世界人口70億人のうち10億人が移民・移住の状態にある。7人に1人の割合だ。国家は人口減少、人手不足を自国内では補えない状況に対応しなければならない。一方、南北の経済・社会格差は広がり、途上国で爆発的に増えている若年層は雇用のある先進国に向かう。この現実を受け入れるなら、自分たちの国にとって望ましい対応を自問しなければならない。

 日本でも「将来は移民が必要になる」との認識が深まっていると思う。2年前にはタイに逃れたミャンマー難民を受け入れる第三国定住制度が始まった。これが恒常的なものになるかが注目される。日系ブラジル人・ペルー人等の外国とつながりのある子どもに日本語教育を提供する「虹の架け橋教室」の期間延長も決まり、タイの洪水では下請け労働者が日本に一時的に入国して本社で働くことが認められた。こうした取り組みの上に長期的な政策を打ち立てられるかが焦点だ。

 −−日本政府は今年、高度な資質と能力を持つ外国人を「高度人材」と位置づけ、入国手続きや在留期間で優遇する「ポイント制」を導入します。どのように評価しますか。

 ◆ ポイント制には長所と短所がある。長所としては(外国人政策の)透明性、一貫性、効率性が高まる。だが、雇用契約と連動していないため、例えば、外国人技術者がやって来ても仕事に就けず、能力を発揮し切れない可能性もある。高度人材に限定している点も短所だ。日本の人口減少を考えると、中度・低度の外国人人材も確保しなければ、将来の人手不足を埋めることはできない。高度人材政策だけでは成功しない。

 (さまざまなレベルで外国人を移民として受け入れる)複合的なモデルが必要だと思う。オーストラリアは複合型のモデルを持っており、スウェーデンもその方向に向かっている。カナダは多文化・多民族的な取り組みを進め、定住資格や市民権を取得しやすいようにしている。受け入れ側と移民にとって互いにプラスとなるような日本の制度を整えるべきだと思う。

 ◇「社会への貢献」理解を
 −−しかし、移民の本格的な受け入れには日本国内で反対意見が根強くあります。

 ◆ 歴史的、世界的に見て移民は受け入れ国に好ましい影響を及ぼす。米国の応用研究の49%は外国人留学生によるものだ。ハイチからの移民は米フロリダに着くと祖国に送金を始める。移民はやる気を持ち、起業家精神に富み、社会に新風を吹き込む。また、「成功したい」という野心があるので、受け入れ国の慣習や法律を守る傾向がある。私は来年2月、世界26カ国の外国在留国民担当相を集めて、移民の存在が社会にもたらす貢献について話し合う国際閣僚会議を開く予定だ。

 (欧州などの)伝統的な移民国家でも反移民的な見方が出ているのは事実だ。自分たちのアイデンティティー(社会への帰属意識)が脅かされるという懸念と関係がある。移民がもたらす恩恵について国民の理解を深める取り組みと、非正規移民の流入を防ぐ努力が必要だ。日本が直面する課題は大きいだろう。報道機関も人身売買などの悪い側面だけでなく、移民の肯定的な側面も伝えてほしい。

 移民自身も日本社会に適応する努力をしなければならない。言葉を学び、文化や伝統を尊重し、社会に参加する。受け入れ社会も移民を受容する必要がある。移民と受け入れ社会による双方向の取り組みが重要だ。

 −−今後、日本政府とどのような協力が可能ですか。

 ◆ 移民・移住についてIOMは60年間の経験を蓄積している。この経験を共有し、日本とオーストラリア、スウェーデン、カナダなどとの比較分析を提供することができる。また、ミャンマー難民の第三国定住にあたりタイで実施しているような言語・文化教育などの分野でも協力ができると考えている。

ことば ◇国際移住機関(IOM)
 移住を巡る問題で移民や送り出し国・受け入れ国などを支援する専門の国際機関。欧州から中南米への移住を支援した欧州移住政府間委員会(ICEM)が前身。スイス・ジュネーブに本部があり、146カ国が加盟。93年に加盟した日本は主要な資金拠出国。

人物略歴 ◇William Lacy Swing
 米ノースカロライナ州レキシントン生まれ。米国の南アフリカ、ナイジェリア大使などを歴任後、03〜08年、国連事務総長特別代表としてコンゴ民主共和国(旧ザイール)で国連平和維持活動(PKO)を指揮した。08年10月から現職。
    −−「急接近:ウィリアム・スウィングさん 震災で見えた日本の外国人政策の課題とは?」、『毎日新聞』2012年3月17日(土)付。

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http://mainichi.jp/select/opinion/approach/news/20120317ddm004070133000c.html




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