書評:師岡カリーマ・エルサムニー『変わるエジプト、変わらないエジプト』白水社、2012年。




師岡カリーマ・エルサムニー『変わるエジプト、変わらないエジプト』白水社、読了。11年の政変以来揺れ続けるエジプトについて私たちはどれだけのことを知っているのだろうか。ピラミッド? イスラーム? 最も歴史の長い地域のことを殆ど知らないのではないだろうか。そんな時手に取りたい一冊だ。 

日本とエジプトの血を受けた著者が「ふつうの人々のライフスタイルや芸能人、文学、風俗を通じてエジプトという国の真髄に迫ってみよう」とする試みだが、読み手の期待以上にエジプトの実像を伝えてくれる秀逸な一冊。

古い歴史とイスラームの伝統、そして独裁政権の連続。点と点ではみえないエジプトの姿を、著者は慈愛を込め、時には厳しく描き出す。「エジプト文化は花ではない」「ユーモラスで、楽しくて、人間臭い文化」である。

エジプトとは詩歌の国。アラビア語の美しいリズムと韻が庶民の生活に息吹くことを本書で初めて教えられた。タリハール広場で展開するデモ映像では伝えられない「ジョークの闘い」がエジプト人の闘いである。

キリスト教徒とムスリムがデリケートに共存する様子を描く「ハサンの十字架とモルモスの新月」の章は印象的。映画を素材に、現在の複雑な対立構造が一義的なこと、そしてコメディーで対立から融和へ導こうとする人がいること。

本書はエジプト社会の現在を過不足なく等身大の実像として描きだす秀逸な一冊。エジプトに関心のない人にも手にとって欲しい。百以上知る人間が十を丁寧に描く一冊。文章もユーモラスでテンポ良い。新年からいい本読みました。





変わるエジプト、変わらないエジプト - 白水社




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