覚え書:「書評:阿蘭陀西鶴(おらんださいかく) 朝井 まかて 著」、『東京新聞』2014年10月12日(日)付。
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阿蘭陀西鶴(おらんださいかく) 朝井 まかて 著
2014年10月12日
◆娘を通し実像に迫る
[評者]木村行伸=文芸評論家
本書は、明治の歌人・中島歌子の波乱の生涯を描いた『恋歌(れんか)』で今年、直木賞を受賞した朝井まかての受賞第一作にあたる。江戸前期に俳諧師・浮世草子作者として活躍した井原西鶴の実像に迫るため、作者は、盲目の娘おあいの心象風景を通して彼を描くという画期的な構成に挑んでいる。
西鶴は西山宗因に師事しながらも、異端の詩風から阿蘭陀西鶴と称された。前衛的な作風で、連句と即吟による「大矢数俳諧(おおやかずはいかい)」を敢行し、また遊里を舞台にした前代未聞の小説『好色一代男』を生みだした。さらに、封建社会の恋愛を題材にした『好色五人女』や、市井の経済事情を巧みに導入した『日本永代蔵』『世間胸算用』など、革新的な作品を次々と発表していく。
この父を支えるおあいは、決して弱者ではない。九歳で死別した母みずゑから、盲目でも憂き世を生きられるよう「音と匂いと手触り」で生活する術(すべ)を教えこまれたのだ。故に、料理も繕いも、花を愛(め)でることもできる、西鶴の良き理解者として描かれているのである。作者は、おあいと西鶴とを、虚実を交えながら同列に著すことで、彼の文学的偉業の背後に、母−娘−父と連なる親子愛の存在を示唆したのだ。そして、この家族の絆が、読者の心を明るくし、人生と芸術の強い親和性を感受させるのである。
(講談社・1728円)
あさい・まかて 1959年生まれ。作家。著書『すかたん』『先生のお庭番』など。
◆もう1冊
井原西鶴『好色一代男』(岩波文庫)。七歳にして性に目覚めた世之介を主人公とする好色浮世草子。西鶴の代表作。
−−「書評:阿蘭陀西鶴(おらんださいかく) 朝井 まかて 著」、『東京新聞』2014年10月12日(日)付。
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