覚え書:「書評:若山牧水への旅 前山 光則 著」、『朝日新聞』2014年10月26日(日)付。

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若山牧水への旅 前山 光則 著

2014年10月26日

◆放浪の歌の水源探る
[評者]正津勉=詩人
 牧水は国民歌人だ。四十四歳で亡くなるまで総歌数は九千を超えるとか。「白鳥はかなしからずや空の青うみのあをにも染まずただよふ」など、人口に膾炙(かいしゃ)した名歌は数多い。牧水はまた旅の歌人だ。若い日には海に憧れて、年を経ては山に遊んだ。海の歌も宜(よろ)しく、山の歌も宜しい。なかで生涯にわたって愛したのが渓谷を訪ねる旅であった。代表的なのは、三十七歳の時、秋の利根川水源を探った『みなかみ紀行』である。
 牧水の生涯を描き作品を引きながら、本書の主題は牧水がなにゆえに渓谷を愛したか、その足跡をたどることにある。著者はそれには「ふるさと」が関わっているという。牧水は明治十八(一八八五)年、宮崎県日向市東郷町坪谷(つぼや)生まれ。「坪谷村は山と山の間に挟まれた細長い峡谷である」(『おもひでの記』)という。渓谷愛好の源に日向の渓の自然児をみるのだ。そこでどれほど牧水少年が楽しく感受性豊かに育ったことだろう。
 熊本県八代市在住の著者は一著をまとめるに牧水の作品や郷土資料にあたり、現地へ度々出向いて調査し続けた。その探索の旅は丹念を極める。『みなかみ紀行』を歩いて、「源流部へのあくがれ、それは己の原風景を旅することでもあった」と述べる。そんな「ふるさと」を想(おも)う旅から多くの名歌が生まれた。放浪の歌の水源をたどった評伝である。
 (弦書房・1944円)
 まえやま・みつのり 1947年生まれ。文筆家。著書『山頭火を読む』など。
◆もう1冊 
 伊藤一彦編『若山牧水歌集』(岩波文庫)。『海の声』『みなかみ』『渓谷集』などの十五歌集から約千七百首を選出。
    −−「書評:若山牧水への旅 前山 光則 著」、『朝日新聞』2014年10月26日(日)付。

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若山牧水への旅《ふるさとの鐘 》
前山 光則
弦書房
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