覚え書:「書評:佐野碩 人と仕事1905−1966 菅孝行 編」、『東京新聞』2016年03月27日(日)付。

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佐野碩 人と仕事1905−1966 菅孝行 編

2016年3月27日
 
◆国際政治と闘う演劇
「評者」川崎賢子=日本映画大教授
 佐野碩は一九二〇年代演劇の旗手だった。ファシズムスターリン治下の粛清とに世界が挟撃される時代に、旧ソ連、ドイツ、アメリカなどに移り住み、最後はメキシコで没した。壊されながらつくり、放浪した世界的な演劇人である。この時代の政治との相克が佐野碩に世界的であることを選び取らせた。
 本書は、佐野碩の世界各地における足跡についての論文集と、佐野自身の文章などをあわせた大部なものである。今後の発掘を待つモスクワの資料群を除く集大成という。彼の多面的な仕事、芸術と国際政治の複雑な相関は要約することを容易には許さない、そんな声が響いてくるような重量を備える。
 ただし、編者はこれを歴史資料として提出することに甘んじてはいない。現代的意義を創造しようとする。そのために批評的な方法を用いる。左翼の内部でのマルクス主義陣営による異質なるものとしてのアナーキズムの排除と、左翼芸術におけるアヴァンギャルド芸術の排除の担い手としての一九二〇年代の佐野は批判され、その功績は「身体の秩序」を変転させる活動の蓄積に尽きるとされる。
 左翼か右翼か、リアリズムか反リアリズムか、二項対立の間の価値選択ではなく、二項対立を載せている場の再審が求められる現在に、わたしたちは佐野碩を必要としている、しなければならない。
 (藤原書店・1万260円)
 菅孝行梅光学院大特任教授。ほかに藤田富士男、S・ウェインらが執筆。
◆もう1冊 
 岡村春彦著『自由人佐野碩の生涯』(岩波書店)。新劇の基礎を築いた国際的演出家の仕事と波乱の生涯を描いた評伝。
    −−「書評:佐野碩 人と仕事1905−1966 菅孝行 編」、『東京新聞』2016年03月27日(日)付。

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佐野碩 人と仕事 〔1905-1966〕

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