覚え書:「18 私たちも投票します:参院選の持つ意味は? AKBと考える」、『朝日新聞』2016年04月10日(日)付。

Resize1710

        • -

18 私たちも投票します:参院選の持つ意味は? AKBと考える
2016年4月10日

 ◆第3部・投票するために選挙の仕組みを知る

 第1回・衆議院参議院の違いは

 首相が解散できる衆院と3年ごとに選挙がある参院の役割を比べる

    ◇

 6月から選挙権を得るAKB48の3人が初の投票に向けて、政治や民主主義について考える連載「私たちも投票します」は今回から第3部に入ります。このシリーズでは、憲法学者の木村草太さんと、選挙制度や選挙運動の仕組みについて話し合います。初回は、国会と内閣の関係や衆議院参議院の違いがテーマです。

 ■首相や与党の中間テスト

 木村草太 今回は国会の仕組みから考えていきましょう。日本には衆議院参議院という二つの議会がありますが、ちょっと役割が違います。ポイントは衆院がいくつかの権限で「優越」していることです。特に国会議員の中から首相を選ぶ時は、参院での投票結果より衆院での投票が優先されます。このため衆院でより多くの議席をとることが、政党にとって重要になります。

 向井地美音(むかいちみおん) 参院にはどんな役割があるんでしょうか?

 木村 衆院議員の任期は4年、参院議員は6年。しかも衆院は首相の権限で「解散」できる制度になっているので、身分は不安定です。衆院議員の方が大臣など政府のポストに就く機会が多いですが、参院議員は任期が決まっているので、じっくり落ち着いて政治に取り組める。長期的な視点でものを見て、議論ができる面がありますね。

 加藤玲奈(かとうれな) 任期が違うなら、衆院参院では選挙も別々にやるんですか。

 木村 参院は3年ごとに議員の半数を選挙で選び直すので、普通は衆院の選挙と日程は重なりません。通常は、衆院選で最も多く議席を取ったグループ=与党から首相が選ばれます。このため、次に行われる参院選は首相や与党にとって、政治をうまく行っているかを国民に評価してもらう「中間テスト」のような意味を持ちます。

 茂木忍(もぎしのぶ) 学生で言えば、参院選は中間テストのようなものだと?

 木村 その時の政治に不満があれば、国民は選挙で懲らしめようとするので、参院選は与党に不利な結果が出やすいと言われています。もし衆院選参院選を同時にやると、どうなるでしょう。首相の成績が決まる期末テストと一緒に行うことになり、中間テストの意味がなくなります。1986年には、「衆参同日選挙」がありました。当時の朝日新聞の記事を見てみましょう。

 加藤 86年6月2日夕刊ですね。見出しに「衆院、異例の冒頭解散」と書かれています。

 木村 当時首相だった中曽根康弘さんは国会を開いて、その初日に衆院の解散を決めました。首相が解散を決めたら、すぐに選挙を行うのがルールです。衆院選は翌7月、参院議員の任期満了に合わせて予定されていた参院選と同じ日に行われました。

 向井地 結果は中曽根さんが率いる自民党が圧勝したんですね。

 木村 当時の紙面を見ると、「最高の300議席」とあります。これまでの衆院選で、自民党が単独で300議席を取ったのはこの時だけです。参院選での自民の獲得議席は72で、これもかなり勝った。衆参の同日選は選挙運動が盛り上がって、投票率が上がる傾向があります。当時の記事を見ると、中曽根さんが参院選だけで戦うより同日選の方が有利になると考え、解散したという見方が書かれています。実際、その通りの結果になりました。

 ■衆院、いつ解散する? 首相が時期や理由を決められる

 木村 首相は自分の判断で、衆院を解散して選挙ができる。では、もし首相が「いま選挙すれば、自分や与党に有利だから解散します」と言ったら、どう思いますか?

 茂木 それはさすがに、自分勝手な考えじゃないかなと思います。

 木村 そうですね。だから、どの首相も解散する時は、もっともな理由を言います。中曽根さんも、解散するのに理由をつけていました。当時の記事を見ると「違憲解消を目的 政府声明」とあります。

 当時、衆院は「一票の格差」が、憲法に違反していると最高裁に指摘されていました。一票の格差については次回に詳しく話し合いますが、中曽根さんは、有権者の一票の重みが地域によって違う状態を解消することを解散の理由にしたわけです。

 向井地 首相がどんな理由でいつ解散するのか、国会に相談をしないで決めてもいいんですか。

 木村 厳密に言うと、衆院を解散する権限は、首相が率いる内閣にあります。内閣のメンバーである大臣が1人でも反対すれば、解散はできません。でも首相は大臣を辞めさせることができるので、反対する大臣をクビにして解散することもできます。

 向井地 ちょっと怖い話ですね。

 木村 向井地さんが解散の理由について気になったのは、首相が自分に有利なタイミングで選挙を打つことに、違和感を覚えたからですか?

 向井地 そうですね。首相の力を使って、そういうことをしてもいいのかなって。

 加藤 選挙のタイミングと言えば、AKB48の総選挙もいつやるかは大切です。もし自分でタイミングを選べるなら、仕事が順調で元気にアピールできる時にあった方がいいと考えるでしょうね。

 木村 衆院の解散は本来、どんな時にやるべきものだと思いますか?

 向井地 国会がうまく回らなくなったとき。

 木村 国会がうまく回らないって、どういう状況なんでしょう?

 茂木 国会議員がきちんと働かなくなった時とかでしょうか。

 木村 例えば、AKB48の中でダンスの振り付けを考える時、誰かが提案をするとします。ところが、その案にはみんなが反対して、結局、決められないまま公演の当日を迎えたら?

 茂木 振り付けが決まっていなかったら、大変なことになってしまいます。

 木村 国の政治も同じです。首相が「ぜひこれをやりたい」と政策を提案したのに、国会が「だめだ」と反対し続ければ、いつまでたっても決まらない。国会の中での多数派と首相の意思が違う時は、衆院を解散し、どっちがいいのか選挙で国民に判断してもらった方がいい。それが解散をすることの意義です。

 =敬称略

 (構成・小林豪

 ■選ばれた国会の多数派が内閣を担う

 木村さんとAKB48による対談の第1部で学んだように、日本では、内閣を率いる首相は国民が直接選ぶのではなく、国会議員の投票で選ばれる。国民は国会議員を選挙で選び、国会で多数派となった議員のグループ=与党が中心となって内閣を担う仕組みだ。

 この制度を議院内閣制という。政府の中心となる内閣と国会の多数派の考え方が基本的に同じ方向になるので、政府が作った法案や税金の使い道を示した予算案は、国会で支持を得やすい。総額96.7兆円の2016年度政府予算も、政府の原案が国会で審議された後、与党などの賛成多数で可決、先月末に成立した。

 国会には衆議院参議院があり、内閣が政策を進めるために提出した法案も、両院で可決されなければ実行できない。ただし「衆院の優越」ルールがあり、衆院の可決後に参院で否決されても、衆院の再議決で出席議員の3分の2以上が賛成すれば法案は成立する。国会での首相指名や予算案の議決でも、衆院の議決が優先される。

 衆院は内閣に不満がある時は、内閣不信任案を提出、議決することができる。賛成多数で可決されると、内閣は10日以内に衆院を解散するか、総辞職しなければならない。

 衆院が解散されると総選挙(衆院選)が行われ、多数派となった党を中心に新たな内閣が作られる。内閣が総辞職した場合は、与党を中心に新たな首相が選ばれ、新内閣が発足することになる。

 ■衆参同日選、1980年代に2度あった

 任期は4年だが解散で不定期に行われることが多い衆院選と、3年ごとに半数が改選される参院選が同時に行われた例は、過去に2度しかない。1980年の大平正芳首相と、86年の中曽根康弘首相(いずれも当時)の時だ。

 大平内閣では、与党の自民党内で主流派と非主流派が激しく対立。首相に反発する非主流派の議員が、野党が提出した内閣不信任案を議決する衆院本会議を欠席したため、不信任案が可決され、想定外の衆院解散となった。

 「ハプニング解散」と呼ばれ、解散に伴う衆院選と元々予定されていた参院選が、戦後初めて同時に行われた。大平首相は選挙中に急死したが、投票率は74.57%まで上がり、自民党が勝利した。

 一方、首相が積極的に同日選を狙ったのが、中曽根首相の「死んだふり解散」と言われる解散だ。

 86年5月の通常国会の最終日、衆院の定数を是正する法律が成立し、国民に30日以上周知することになった。中曽根首相は当初、「解散は考えていない」と言っていた。だが、通常国会直後に臨時国会を召集し、周知期間後に同日選を行えるぎりぎりのタイミングで解散に踏み切った。

 国会は与野党が対立して本会議が開かれず、議長が応接室で解散詔書を読み上げる異例の事態に。本会議場で出席議員が行う恒例の万歳三唱も、その場にいた自民議員ら約10人だけがした。投票率は71.40%で、自民党が圧勝した。
    −−「18 私たちも投票します:参院選の持つ意味は? AKBと考える」、『朝日新聞』2016年04月10日(日)付。

        • -

http://www.asahi.com/articles/DA3S12303806.html


Resize1693


Resize1283