覚え書:「売れてる本 感情類語辞典 [著]アンジェラ・アッカーマン、ベッカ・パグリッシ [訳]滝本杏奈 [文]武田砂鉄(ライター)」、『朝日新聞』2016年07月24日(日)付。

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売れてる本
感情類語辞典 [著]アンジェラ・アッカーマン、ベッカ・パグリッシ [訳]滝本杏奈
[文]武田砂鉄(ライター)  [掲載]2016年07月24日
 
■その気持ちを吐き出すために

 社会情勢を伝える新聞記事では「成り行きが注目される」「行方が注目される」といった帰結が常套句(じょうとうく)として使われてきた。書き手の意思を示さずに逃げるような筆致に戸惑いを覚える。
 新聞記事のみならず、より公的な文章になればなるほど、書き手の感情を抑えるべしと信じ込まれているが、感情を押し殺して書く、という作業自体がとても感情的な作業に思える。
 本書は、ヤングアダルト向けの作品を手がける小説家2人による、ひとつの感情を伝えるための表現のバリエーションを羅列した辞典だ。75の感情について類語が紹介されており、例えば「同情」という項目を開くと、「何も訊(き)かず、ティッシュの箱や紅茶を差しだす」や「遠くから見つめながら、状況が変わることを願う」といった記載が68例も並ぶ。
 単なる類語辞典ではない。代替可能な言葉に加え、感情を表すための所作や思索を提示する。小説家や脚本家など、キャラクターに命を吹き込む物書き向けに作られた本だが、そもそも「人は一度に二つ以上の感情を抱く」ものであり、感情表現のバリエーションを必要とするのはその手の職種だけではない。
 気持ちを伝えるためにはセリフだけではなく「非言語的な感情情報」が必要だと著者は言う。その情報を「外的なシグナル」「内的な感覚」「精神的な反応」の三つに分けて並べていく。
 「激怒」の項目からその三つを順番に拾うと、「極度の震え」「視界がぼやける」「復讐(ふくしゅう)したいという欲望」となる。「激怒した」よりも、その感情に輪郭が生まれるよう、血の通った表現を例示する。
 人間の感情、例えば喜怒哀楽って、それぞれが分断されているわけではなく、常に混じり合っているもの。だからこそ感情を言葉にするのは難しい。かといって、成り行きに注目して逃げてしまうのではなく、自分ならではの感情を思うがままに吐き出すべきだ。そのための豊かな選択肢を教えてくれる。
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 フィルムアート社・1728円=7刷3万部
 15年12月刊行。「ライトノベルの作者を中心に読まれている」と担当者。6月に『性格類語辞典』のポジティブ編とネガティブ編も出た。
    −−「売れてる本 感情類語辞典 [著]アンジェラ・アッカーマン、ベッカ・パグリッシ [訳]滝本杏奈 [文]武田砂鉄(ライター)」、『朝日新聞』2016年07月24日(日)付。

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