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2016-09-11

覚え書:「今こそ良寛:和歌にも書にも、自然な人となり」、『朝日新聞』2016年06月06日(月)付。

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今こそ良寛和歌にも書にも、自然な人となり

2016年6月6日

良寛托鉢像」(部分、遍澄画、良寛記念館蔵)

 大愚(たいぐ)の号を持つ僧が目指したのは、つつましく心豊かに生きるという姿だった。

 

 「名僧」といえば誰を思い浮かべるだろう。とんちで有名な一休さん? お大師さんこと空海さん? でも、昭和の中ごろまで一番親しみをもって語られていたのは「良寛さん」ではないだろうか。

 良寛は宝暦8(1758)年、現・新潟県出雲崎町で名主の子として生まれた。名主の見習いをしていた数え18歳で出家。その後、大忍(たいにん)国仙和尚から得度を受け、備中玉島(現在の岡山県)の円通寺で修行したのち諸国を行脚。越後に戻って庵(いおり)を結んだ。

 良寛のすごさは、自らについてほとんど語らなかった一方で、書き残した千数百といわれる和歌俳句漢詩などがいずれも後世極めて高い評価を受けていることにある。

 たとえば、歌は万葉調とされるが、歌人の伊藤左千夫は「秋の夜は長しといへどさすたけの君と語ればおもほへなくに」という歌などについて「趣向も詞も自然なるが故に、作者当時の感興を読者に伝ふるを得るなり」と絶賛。書も評価が高い。現存するのは2千点以上と言われるが、こだわらない、飾り気のない自然な書きぶりが特徴で、生前から人気があった。

 生涯から浮かんでくるのは、多くを求めず、友と交わり、無心に生きるという、自由な生き方だ。晩年には貞心尼という40歳も年の離れた尼僧と心を通わせた。寺を持たない乞食(こつじき)僧で、江戸期の寺院制度の枠外に生きた。暮らしもぎりぎりだったらしい。

 だが、詩歌からは、そんな暮らしぶりを楽しむさまが浮かぶ。たとえば「子供らと手たづさはりて春の野に若菜を摘めば楽しくあるかも」という歌からは草摘みの楽しさが、「一衲一鉢(いちのういっぱつ)、わずかに身に随(したが)う」という漢詩からは持ち物が一枚の衣と鉢一つだけという状況を淡々と受け入れている様子がうかがえる。

 こうした良寛の生き方や作品に傾倒した著名人は多い。

 良寛を敬愛した詩人の相馬御風(ぎょふう)は『大愚良寛』を著し、夏目漱石良寛にちなんだ漢詩を残し、坪内逍遥歌人会津八一に頼んで別荘に良寛風の門額を揮毫(きごう)してもらっている。一方、日本画家安田靫彦(ゆきひこ)は「良寛の書は同時に彼の生活にほかならぬ。すなわち彼の書は彼みずからの生活がもっていたものをもっていた。彼の書のよいところは、結局彼その人のよいところにほかならぬ」と評した。

 また、編集者の松岡正剛さんは、「あるとき五木寛之さんが言ったことだが、良寛に出会わなくて、どうして無事に晩年を過ごせる日本の知識人がいますかねえと、たしかに言いたくなるくらいなのだ」と書く。良寛とは、日本の近現代文化史に、それほど大きな影響を与えた巨人なのである。

 「ファン」も多い。良寛の遺徳を顕彰する個人と団体がつくる全国良寛会は会員約3千。「良寛さんは禅僧、歌人書家と様々な顔を持つ。その一つにでも興味を持つと、研究へのめり込む人が多いようです」と、良寛会副会長の柳本雄司さん(79)。

 良寛がなぜ、あのような生き方を選んだのかはよくわかっていない。しかし、「口腹(暮らし)の為の故に一生外辺(仏の教えから離れたところ)に心をはせる」といった漢詩を残していることから、当時の仏教界のあり方を批判するような思いがあったことは確かなようだ。

 この世に暮らす以上、何のしがらみにもとらわれずに生きることは難しい。だからこそ、無我・無私に、自然に生きようとした「良寛さん」に私たちは憧れるのだろう。(編集委員宮代栄一)

 

 <足あと> りょうかん 江戸時代後期の禅僧。幕府天領だった越後国出雲崎(現在の新潟県出雲崎町)の名主の長男として生まれる。号は大愚。数え18歳で剃髪(ていはつ)し、諸国行脚の後、越後に戻った。万葉集にも造詣(ぞうけい)が深く、多くの和歌俳句漢詩などを残した。74歳で死去。何ものにもとらわれない生き方で、多くの人に慕われた。

 <もっと学ぶ> 良寛を描いた作品は水上勉良寛』(中公文庫)など多い。『良寛の“心が豊かになる”生き方』(宝島社)は読みやすい1冊。書などの作品を見たいなら新潟県良寛記念館へ。

 <かく語りき> 「うらを見せおもてを見せて散るもみぢ」(辞世の句。よい所も悪い所も見せて生きてきたの意)「この里に手まりつきつつ子供らと遊ぶ春日はくれずともよし」(子供たちと遊んだ様子を詠んだ和歌

 ◆次回は20日、「エノケン」の愛称で知られた喜劇王榎本健一の予定です。

    −−「今こそ良寛和歌にも書にも、自然な人となり」、『朝日新聞2016年06月06日(月)付。

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