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2016-11-21

覚え書:「耕論 ヘイト対策法2カ月 安田浩一さん、小谷順子さん、鈴木江理子さん」、『朝日新聞』2016年08月11日(木)付。

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耕論 ヘイト対策法2カ月 安田浩一さん、小谷順子さん、鈴木江理子さん

2016年8月11日

ヘイトスピーチ対策法(骨子)

 少数者への差別を扇動するヘイトスピーチ。「対策法」が施行され、2カ月が過ぎた。多様な人々の共生に、法をどういかすか。現場はどう変わったのだろうか。

 ■デモ対処、まだ試行錯誤 安田浩一さん(ルポライター)

 ヘイトスピーチ対策法が6月に施行された直後、神奈川県川崎市でのヘイトデモが、中止されました。デモに反対するカウンターと呼ばれる市民が路上で抗議し、警察も主催者を説得しました。対策法ができる前の警察は、ヘイトデモの実施を優先させ、カウンターの人たちをためらいなく力ずくで排除していた。対応は明らかに変わりました。

 対策法をふまえ、警察庁都道府県警に対しヘイトスピーチにかかわる違法行為に厳正に対処するよう通達を出した影響は小さくないでしょう。法施行後、全国的にデモの数も減っています。もっとも、警察の対応は地域でばらつきがあり、まだ試行錯誤しているように見えます。

 対策法自体に問題があることを、指摘しなければなりません。法律は「不当な差別的言動は許されない」と宣言しますが、ヘイトスピーチに関し「違法」「禁止する」とは明記していません。

 また、適用の対象を「適法に居住する在日外国人とその子孫」に限定しています。不法滞在状態になった外国人労働者難民申請者も現実にはいるが、条文からは対象に含まれないように読めます。アイヌ民族沖縄の人たちへの差別的言動にも目を向けるべきですし、ネット上の書き込みも野放しのままです。

 法律に罰則規定を入れるかどうかは慎重に判断しなければなりませんが、この法律ではやはり不十分で、包括的な人種差別禁止法が必要です。

 これまで、北海道から沖縄までヘイトスピーチの現場に数え切れないほど足を運んできました。在日コリアンが、路上で暴言を浴び、ぼうぜんとしている姿を見て、深刻な被害の存在に気づきました。

 「表現を仕事にする者が、ヘイトスピーチを規制する、などと軽々しく主張すべきではない。市民社会の力で対抗すべきだ」と言う弁護士もいます。でも私たちマジョリティーが、マイノリティーに「これも表現の自由。目を閉じて耳をふさいで、少し我慢して」というのは横暴です。被害者は「存在を否定され、本当に殺される」と、恐怖におびえています。

 差別の言葉やデマが街で堂々と叫ばれると、「この程度なら言っても構わない」と人々の感覚をまひさせる。「在日には特権がある」というデマを少なくない人たちが信じてしまう。ヘイトスピーチは人間や社会を壊すのです。

 先月の東京都知事選では外国人排斥を訴える候補が、悪質なヘイトスピーチをまき散らしました。公職選挙法選挙自由が保障されており、有効な対策を打ち出せないという課題も出てきました。

 対策法を最大限生かし、改善もしていかねばなりません。地域の実情に応じて条例制定も検討すべきでしょう。

 (聞き手・桜井泉)

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 やすだこういち 64年生まれ。外国人労働者問題などを取材してきた。著書に「ネットと愛国」「ヘイトスピーチ」など。

 ■法律以外の対策を先に 小谷順子さん(静岡大学教授)

 第2次世界大戦以降、国際社会では人種や民族に基づく差別を許さないという意識が広まりました。

 1948年に国連で採択された世界人権宣言は、人種・皮膚の色に基づく差別からの保護をうたっています。65年採択の人種差別撤廃条約は、人種・民族などに基づくヘイトスピーチの規制を各国に要請しました。

 今では多くの国が人種的ヘイトスピーチ法律で規制しています。世界の主要国で法規制がないのは、米国韓国ぐらいです。

 国際法上の要請や日本国憲法が保障する人権保護の要請を考えると、人種的ヘイトスピーチ禁止を法制化することも正当化できそうです。が、それでも法規制はできるだけ避けるべきだと私は考えます。時の政府にとって好ましくない表現はいくらでもあり、それらを規制する入り口になりかねないからです。

 特定の表現を規制できるとすれば、単に時の政府が規制を望むからという理由ではなく、より普遍的かつ非常に強い理由が必要です。ヘイトスピーチ規制について言えば、国際規範に従った規制として正当化できるかもしれませんが、今回の対策法は、付帯決議で国際規範に言及しているものの、法そのものを見るかぎり、そうした経緯が読み取れません。

 対策法で許されないとする「不当な差別的言動」の定義は独特で限定的であり、該当するデモや集会はきわめて限られるでしょう。しかし、憲法が保障する表現の自由を制約する以上、定義を満たす表現以外に制約が及ぶことはあってはならず、拡大解釈は許されないのです。

 差別思想とどのように向き合うかを考える時、表現規制より先にやるべきことはたくさんあるはずです。例えば政府が「差別を許さない」というメッセージを繰り返し、教育を通じて浸透させていくこともできます。

 米国には表現の自由の保障を絶対視する伝統があり、連邦最高裁は「ヘイトスピーチ規制は憲法違反」と判断しています。だからといってヘイトスピーチが許容されているということはありません。

 たとえばサンフランシスコ市交通当局は、特定の人種・民族にとって差別的な表現を含む政治広告の掲示申請を受けた際、拒否はできないけれども、すみやかに差別に反対する声明を発表し、対抗広告をすぐ横に掲示するという対策をとりました。その時の広告収入は、市の人権委員会に寄付されました。

 日本でもヘイトスピーチ拡散を目的とする団体が公共施設使用を申請した時、自治体は許可はするけれども、「対抗言論」として「差別は許されない」と宣言するといった対策をとれるのではないでしょうか。

 (聞き手・吉沢龍彦)

     *

 こたにじゅんこ 72年生まれ。表現の自由を中心とする憲法学が専門。2013年から1年半、米国を拠点に米憲法を研究。

 ■差別意識変える教育を 鈴木江理子さん(国士舘大学教授)

 外国人が抱える問題に現場で取り組んできた立場から、ヘイトスピーチ対策法が非正規(不法)滞在者を枠外に置いたことは残念です。

 とはいえ、自分たちに向けられた暴言と闘ってきた在日コリアンらは、法律の成立を大きな一歩ととらえています。日本政府は従来、「立法措置を検討しなければならないほどではない」として、問題に正面から向き合おうとしなかったのですから。これを機会に政府自治体は、外国人と共に生きる社会に向けた政策を急ぐべきです。

 ヘイトスピーチの根底にある差別の問題を考えるとき、大切なのは教育です。対策法は、国や自治体に、不当な差別的言動を解消するための教育活動を求めています。

 最近の学生はインターネットで情報を集めます。韓国中国在日コリアンなどに関し根拠のないデマを信じ込んでいる学生が少なからずいます。歴史教育はもちろん、人権尊重の大切さ、差別は許されないということをきちんと教えるべきです。どの課程や教科でいかに教えるか。文部科学省教育委員会は、現場の教員や弁護士差別を受けた当事者らの意見も採り入れ、法律を実効あるものにしてほしい。市民、なかでも教員、公務員、警察官らの研修も必要です。

 グローバル化が進み、国内の外国人が増えています。非正規雇用が拡大し格差が広がるなか、「生活や社会が悪化しているのは外国人のせいだ」と思い込む人も出てくるかもしれません。先進国では、排外主義が勢いを増しているようです。外国人犯罪を過剰に報道し不安をあおるメディアにも責任があります。

 日本は少子高齢化で人口が減っていきます。持続可能な社会をつくるためには、定住型外国人、すなわち移民の受け入れを検討せざるを得ない。そのとき、国民が外国人に対してネガティブな考えや差別意識を持っていては、建設的な議論が進まず、摩擦や衝突が生じる可能性もあります。意識を変えるには、息の長い働きかけが必要です。

 日本は、植民地支配をした朝鮮半島からはもちろん、戦後も中国残留の日本人や家族、インドシナ難民日系ブラジル人らを受け入れてきました。しかし、様々な制度の壁や差別からそうした人々の能力を十分、発揮させることができず、貧困に追い込んだ例も少なくありません。失敗を繰り返してはなりません。

 外国人の受け入れには、日本語学習や就労支援、子どもの教育などの基盤整備が欠かせません。現在の技能実習生のように単身者を低コストで受け入れ、人手不足をしのぐやり方は問題の先送りに過ぎません。ヘイトスピーチ対策は手始めでしかない。包括的な外国人政策が必要です。

 (聞き手・桜井泉)

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 すずきえりこ 65年生まれ。社会学外国人労働者移民政策に詳しい。編著書に「東日本大震災と外国人移住者たち」。

    −−「耕論 ヘイト対策法2カ月 安田浩一さん、小谷順子さん、鈴木江理子さん」、『朝日新聞2016年08月11日(木)付。

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