覚え書:「街頭政治 SEALDsが残したもの)市民が争点作る、種まいた」、『朝日新聞』2016年08月17日(水)付。

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街頭政治 SEALDsが残したもの)市民が争点作る、種まいた
2016年8月17日

街頭政治の動き SEALDs誕生から解散まで
 昨年5月以来、安全保障関連法への反対や立憲主義の擁護などを訴えてきた学生団体「SEALDs(シールズ)」が解散した。国会前の抗議デモを他の市民団体らとともに主導し、国政の表舞台では野党共闘にも関わって若者の感覚を生かした選挙戦を繰り広げた。彼らが残した「街頭政治」のゆくえと課題を追う。▼オピニオン面=社説

 中心メンバーの奥田愛基(あき)さん(24)は16日、東京都内で開いた最後の記者会見でこう訴えた。「これまでの政治や社会運動は、伝える能力がものすごく取り残されていた。受け取る側を考えながら伝える想像力が今の政治には欠けている」

 シールズは昨年の憲法記念日に結成された。特定秘密保護法に反対する学生団体「SASPL(サスプル)」のメンバーが中心となり、安保関連法や憲法改正に反対する運動へと発展させた。正式名称は「自由と民主主義のための学生緊急行動」(Students Emergency Action for Liberal Democracy−s)とした。

 「民主主義って何だ」

 軽快なラップ音楽に合わせたかけ声や、デザインにこだわった広報物で若者を引きつけ、各地で街頭デモのうねりを生み出した。昨年9月の安保関連法の成立後は今夏の参院選に向けて野党共闘を呼びかけ、野党統一候補の陣営に飛び込んで支援した。

 シールズが選挙戦で目指したのは、普通の市民に伝えることを意識して、「選挙の光景を変える」ことだった。

 「後ろにいる皆さん、前に来て下さい。市民の力を全国に見せましょう」

 6月29日、松山市駅前民進党岡田克也代表や共産党志位和夫委員長らによる野党の合同演説会で、シールズの山本雅昭さん(27)は集まった聴衆を報道陣のカメラに映り込むよう前に移動させた。

 党首が立つステージの背後にひな壇を設け、市民らに「みんなのための政治を、いま。」と書かれたプラカードを持たせて並んでもらった。滞米中の米大統領選で、若者から圧倒的な支持を得た民主党バーニー・サンダース氏の陣営の選挙戦を間近に見た経験を導入した。

 山本さんは奥田さんとともに選挙マニュアルを作成した。演説会場の演出やプラカードの言葉、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を使った情報共有や拡散の仕方など指示は細かい。マニュアルを手に、シールズのメンバーが全国の野党統一候補の陣営を回り、市民が後押しするこうした光景は各地に広がった。

 16日の会見で、山本さんは「今までの選挙は政党や政治家がつくり、争点も政治家に決められていた。今回、市民が声を上げて生まれた争点があり、勝たせたい候補のために市民が動いた」と強調した。

 ■「同世代と隔たり」指摘も

 一方で、活動には限界もあった。

 奥田さんはこの日、「政治的な活動を担おうとする人がまだ少ない。若者が政治的にイエス、ノーと言うことがこんなに大変なのかと感じる」と吐露した。女性メンバーの一人も「自分の名前がネット上でネガティブな言葉に彩られて残っていくと思うと、将来が怖い」と話した。

 朝日新聞が7月の参院選時に行った出口調査では、若者の多くは与党を支持した。シールズの訴えが広く行き届いたとは言えない面もあった。政治心理に詳しい川上和久・国際医療福祉大学教授は「若者が政治のアクターとして表舞台に出たことの意義は大きい。ただ、安保反対や反安倍政権の部分がクローズアップされるほど、経済や社会保障など将来に不安を抱く多くの若者との間に隔たりが生じたように感じる」と指摘する。(石松恒、藤原慎一

 ■東アジアで先行、若者連携 台湾・ひまわり学生運動 香港・雨傘運動

 若者が路上から自由や民主主義を求める動きは東アジアで先行している。

 台湾では2014年3月、馬英九(マーインチウ)・前政権下での過度の対中接近に警戒心を強めた学生らが立法院(国会)議場に突入し、23日間にわたって占拠するという事件が起きた。

 後に「ひまわり学生運動」と呼ばれるようになった運動は大きな共感を集め、同年11月末の統一地方選での与党・国民党の惨敗を招いた。今年1月の総統選と立法委員選でも民進党への政権交代につながったほか、運動の流れをくむ新政党「時代力量」が5議席を得ている。

 香港では14年8月末、中国側が示した香港トップを決める行政長官選挙の制度改革案をめぐり、民主派市民が9月末から2カ月半にわたり繁華街の幹線道路を占拠した。催涙ガスでデモの鎮圧を図った警察に黄色い雨傘で対抗したことから「雨傘運動」と呼ばれた。

 デモを街頭演説などで引っ張ったのが中高生団体「学民思潮」(解散)のリーダー、黄之鋒さん(19)だ。今年4月に若者中心の政党「香港衆志」を仲間と立ち上げ、9月の立法会(議会)選挙で議員を送り込もうとしている。「デモで選挙制度は変えられなかったが、将来を自分たちで決めたいなら若者の政党をつくるべきだと思った」

 東アジアの潮流をシールズも意識していた。奥田さんと上智大4年の高野千春さん(23)は、今年4月にフィリピン・マニラで開かれた「東アジア若者会議」に参加。会議にはタイやベトナム、香港、台湾など約10カ国・地域で民主化運動を率いる若者が集った。会議では市民が政治を変えるには街頭デモからどう発展すべきかが話し合われた。

 シールズのメンバーは自らを「腐葉土」にたとえ、自分たちに続く市民の動きに期待をかける。奥田さんは言う。「香港だって台湾だって、実際に政治を動かすまで数年かかっている。日本の動きは始まったばかりだ」

 (台北=鵜飼啓、香港=延与光貞)

 〈+d〉デジタル版に会見動画

 ◇安保関連法などに反対してきた学生団体の誕生から解散までを追う連載「街頭政治 SEALDsが残したもの」を、18日から総合4面ではじめます。
    −−「街頭政治 SEALDsが残したもの)市民が争点作る、種まいた」、『朝日新聞』2016年08月17日(水)付。

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http://www.asahi.com/articles/DA3S12515150.html

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