覚え書:「インタビュー 『お言葉』から考える 東京大学名誉教授・三谷太一郎さん」、『朝日新聞』2016年08月18日(木)付。

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インタビュー 「お言葉」から考える 東京大学名誉教授・三谷太一郎さん
2016年8月18日

 天皇陛下が「象徴としてのお務め」についての考えを示した「お言葉」を、主権者である国民はどう受け止めるのか。戦後民主主義における象徴天皇の役割とは何だろうか。歴史学者として明治以来の政治と天皇制の関係に詳しく、宮内庁参与(2006〜15年)として天皇家の相談役を務めた三谷太一郎東大名誉教授に聞いた。

 ――「お言葉」をどう読まれましたか。

 「深く印象づけられたのは、『行動者』としての象徴天皇というか、象徴天皇の『能動性』が強く出ていたことです。天皇は『国旗』のような単に静的な『国の象徴』ではなく、動的な『国民統合の象徴』でもある、ということに力点が置かれている。ただ存在するだけの消極的な存在ではなく、国民統合の象徴であることを、日々の行動によって実証しなければならない、という緊張感、責任感が感じられました」

 「とくに、現在の日本国だけでなく、戦没者が眠る旧日本帝国を含めた日本国の周辺部にも、自らの思いを寄せなければいけないという自覚が、慰霊の旅に触れた部分に鮮明に出ていると思います。沖縄問題に対する天皇の関心の強さもその表れであり、この問題への国民的関心を共有することは国民統合の象徴としての任務と不可分だ、と思っておられるからではないでしょうか」

 ――そのような思いがあるため、退位の願いがにじむ表現になったのでしょうか。

 「退位せず摂政を置く選択肢もありますが、天皇ご自身は摂政に明確に否定的です。象徴天皇の任務に強い責任感があり、その任務を現に果たしているという自負があって、摂政では天皇は代行できない、天皇は積極的な行動者でなくてはならない、と考えておられるのでしょう。高齢化に伴い気力や体力が弱ったならば自らの意思で譲位する以外の選択肢はない、と考えておられると思います」

 「もちろん憲法上の制約があることは踏まえた上で、天皇は自由な意思と責任の主体である、という自覚が『お言葉』には強く出ていると思います。天皇ご自身の人間的尊厳の表明と言ってよいかもしれません」

 「これを読んで思い出したのは1946(昭和21)年1月1日、昭和天皇が、天皇の神格の否定などを織り込んで出した詔書です。『人間宣言』と呼ばれるこの詔書と今回の『お言葉』には共通性がある。字句の上でもそうです」

 「『人間宣言』では、天皇と国民との間の紐帯(ちゅうたい)は『終始相互ノ信頼ト敬愛トニ依リテ結バレ、単ナル神話ト伝説トニ依リテ生ゼルモノニ非ズ』とされていました」

 「『お言葉』では『天皇として大切な、国民を思い、国民のために祈るという務めを、人々への深い信頼と敬愛をもってなし得たことは、幸せなことでした』とある。全く同じ字句『信頼と敬愛』が使われています。今回の意思表明は、戦後の出発点となった昭和天皇の『人間宣言』を承継していると感じました」

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 ――「お言葉」の冒頭に「戦後七十年という大きな節目を過ぎ、二年後には、平成三十年を迎えます」とあります。

 「『平成三十年』というのは重要な意味を持っているのではないか、と思います。その前に天皇が代替わりをすると『平成三十年』はないわけですから、その年までは務めを果たす、という意思表示だと解釈できるのではないか」

 「もうひとつ大切なのは、『伝統の継承者』という言葉が出てきたことです。天皇として当然のことを述べたものですが、単なる古い伝統の継承者では足りない。『いかに伝統を現代に生かし、いきいきとして社会に内在し、人々の期待に応えていくかを考えつつ、今日に至っています』とある。新しい伝統をつくり、次の天皇に伝えたいという意思が感じられます」

 ――「新しい伝統」とは。

 「象徴天皇の大前提は、国民主権です。戦後、国民主権の下で、天皇はいかなる存在であるべきかという議論の中から、象徴天皇制が生まれてきた。国民主権と、長い伝統を持つ天皇というものを、どう接合させたらよいか」

 「現在の天皇は、即位した時からそういう問題意識を持っていた。今回の声明にも感じられます。国民統合の象徴としてその任務に全的責任を負う、その責任が果たせなくなったら自分の意思で退位する。それを『新しい伝統』としたい。摂政設置論に否定的な理由はそこにあると思います」

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 ――「お言葉」をうけて、政治の場で議論が始まります。天皇は政治的権能を持たないとする憲法の規定に反しませんか。

 「『お言葉』が、特定の立法措置に直接結びつくのは好ましくない。言うまでもないことです。しかし、これが天皇制についての自由な議論のきっかけになることは、大きな意味のあることです。天皇天皇制を支えるただ一人の存在です。天皇とは何か、自分の務めを通して真剣に考えた人は、今の日本に一人しかいないのです。その天皇の考えを聞くことは、重要ではないでしょうか」

 ――「お言葉」という形式をとったことはいかがでしょうか。

 「憲法によって非常に強く政治的に制約されている象徴天皇が、その意思をどういう形で、主権者である国民に伝えられるか。象徴天皇として生きる限り、国民との対話は不可欠ですが、どんな形で可能なのか。おそらくそのことに苦慮され、深く考えられた結果ではないでしょうか。ひとつの先例を示されたと思います」

 ――象徴天皇のあり方は、憲法で定められており、固定的なものだと考えていました。

 「憲法上の規定はありますが、象徴天皇はこういう存在でなければならない、という自明のイメージがあるわけではない。天皇に就いた人が、自ら形成していかねばならない側面があります。天皇自身が、憲法の枠内で、自由意思を持つ者として、どうしたら国民統合の象徴の務めを果たせるのか、考えていかねばならないのです」

 「象徴天皇は、非行動的な存在と受けとられているかもしれませんが、旧憲法下の天皇よりも強い能動性を持ちうる可能性がある。今の天皇は、その可能性を積極的に開いていこうとされている。それが、『日本国の象徴』というより、『日本国民統合の象徴』に力点を置かれている理由ではないか、と先ほどお話ししたことの意味です。積極的な象徴天皇像をお持ちだという印象を、私が接した限りでも受けてはいましたが、今回、そのお考えが非常にはっきり表れたと思います」

 ――天皇は存在するだけで尊いとする保守の意見もあります。

 「それは、旧憲法下の大日本帝国天皇のイメージが残っているからではないでしょうか。『神聖不可侵』とされた天皇は、『非行動者』としての天皇です。行動すれば、『神聖不可侵』を保つことはできません。『非行動者』が、本来の天皇の姿であり、それを踏み越えるのは、行きすぎだと考えているのかもしれません」

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 ――一方、憲法学者の間には、天皇の政治的影響力の拡大につながるのではとの懸念もあります。

 「私はちょっと違う考え方をしています。今回の声明は、国民統合の象徴としての役割を果たすには、能動的でなくてはならない、という天皇のお考えを、主権者である国民に対し、問題として提起されたのだと思います。どのような象徴天皇のあり方が望ましいか。これは非常に重い問いで、日本国の将来を左右するに足る大きな問題です」

 「象徴天皇のあり方について、私たちはまだ十分な議論を積み重ねてきていない。憲法学者政治学者も、象徴天皇の位置付けや任務について、あまり踏み込んだ議論をしてこなかった。それを考える重要な機会にすべきでしょう」

 ――そもそも、なぜ天皇制が必要なのかという議論もあります。

 「明治の思想家・福沢諭吉は、大日本帝国憲法が発布される7年前の1882(明治15)年に、日本における皇室のあり方を論じた『帝室論』を発表しました。福沢は、憲法実施後の国会で政治的対立が激化することを見越して、そういう権力闘争の外に天皇が存在することが、対立への『緩和力』となり、国民統合にとって有益だと考えた。この『帝室論』は、戦後、象徴天皇制が作られていく上で大きな影響力がありました」

 ――福沢の視点は、今も有効だとお考えですか。

 「現在の日本の政治は、懸案は多数で決めさえすればよいという多数決主義と、それに抵抗する少数者の意見を尊重すべきだという議論が非生産的に対立しています。しかし、多数・少数を超えた、憲法にいう『国民の総意』に基づく権威を欠いた、権力闘争だけでは、安定した政治秩序は作れない。日本の現状を見ると、そうした思いを禁じ得ません」

 「象徴天皇は、憲法によれば国民の総意に基づくわけですから、そもそもその総意とは何かを考えることが、象徴天皇のあり方を考えるために決定的に重要です」

 (聞き手 三浦俊章、石田祐樹

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 みたにたいちろう 1936年生まれ。専門は日本政治外交史。著書に「日本政党政治の形成」「近代日本の戦争と政治」「人は時代といかに向き合うか」など。
    −−「インタビュー 『お言葉』から考える 東京大学名誉教授・三谷太一郎さん」、『朝日新聞』2016年08月18日(木)付。

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http://www.asahi.com/articles/DA3S12516717.html


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覚え書:「ユーロから始まる世界経済の大崩壊―格差と混乱を生み出す通貨システムの破綻とその衝撃 [著]ジョセフ・E・スティグリッツ [評者]諸富徹(京都大学教授・経済学)」、『朝日新聞』2016年11月13日(日)付。

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ユーロから始まる世界経済の大崩壊―格差と混乱を生み出す通貨システムの破綻とその衝撃 [著]ジョセフ・E・スティグリッツ
[評者]諸富徹(京都大学教授・経済学)  [掲載]2016年11月13日   [ジャンル]政治 経済 国際 


■危機の国々を縛るトロイカ

 英国のEU離脱や大量の難民到来に揺れる欧州。だがその背後にある最大の問題は、低迷する欧州経済だ。いまや各国で反EU感情が広がり、極右政党が伸長する。そこでは、長く続く経済的苦境が影を落としている。
 ユーロ圏の実質GDP成長率(2007〜15年)は、非ユーロ圏8・1%に対し、0・6%にとどまった。1人あたり実質GDP成長率(同)でみても、米国3・4%、日本1・6%に対し、ユーロ圏はマイナス1・8%と対照的だ。
 スティグリッツは、これは単なる偶然ではなく、ユーロこそがその原因だと結論づける。彼は、統一通貨の試みが破綻(はたん)の危機に瀕(ひん)しており、欧州は「一層の欧州化」か、さもなくば「ユーロ解体」か、どちらかを選ばなければならないと警告する。
 通貨統合は、なぜ問題なのか。通貨を統合すれば、域内の為替変動リスクは消滅する。企業にとっては、独仏など欧州でもっとも好条件の中心諸国に集中立地するのが効率的になる。これが、域内格差を拡大させる原因だ。次に、ギリシャなど周縁諸国には、為替変動リスクを免れた投機マネーが流れ込んで不動産価格を押し上げ、見かけ上の好景気が演出される。だが、リーマン・ショックを機に資金は一斉に流出し、バブル崩壊金融危機が引き起こされた。
 もし各国が独自通貨をもっていれば、危機に瀕した国々は自国通貨を切り下げ、輸出回復を図ることもできる。しかしユーロ圏諸国は、金融政策と通貨政策の権限を放棄している。しかも彼らは、財政赤字を対GDP比3%以内に抑えるよう義務づけられており、財政拡張もできない「手足を縛られた」状態だ。
 欧州は、各国政府から経済政策の主権を奪う一方、EUにも十分な財源と権限を与えていない。ならば、ドイツをはじめとする中心諸国が欧州経済の運営責任をもつべきだが、彼らにもその意思はない。他方、欧州委員会欧州中央銀行IMFからなる「トロイカ」は、危機に直面した国々を救うどころか、借金返済を求め、緊縮財政と賃下げをのませた。結果、経済はさらに弱体化し、債務返済は遠のいた。
 国民経済を破壊してでも債権回収に励む「トロイカ」への怒りが、本書の原点だ。スティグリッツは、欧州統合の理念自体は否定していない。だが、欧州が連帯して経済を再建する意思がないなら、ユーロを解体して為替レートの調整能力を復活させ、各国の裁量拡大を図るべきだと説く。「国民が通貨ユーロの奴隷になるのではなく、通貨ユーロが国民福祉に奉仕する経済を築かねばならない」という経済思想で貫かれた本書、スティグリッツの面目躍如だ。
    ◇
 Joseph E. Stiglitz 43年米国生まれ。01年、ノーベル経済学賞を受賞。コロンビア大学教授。『世界を不幸にしたグローバリズムの正体』『世界に分断と対立を撒き散らす経済の罠』など。
    −−「ユーロから始まる世界経済の大崩壊―格差と混乱を生み出す通貨システムの破綻とその衝撃 [著]ジョセフ・E・スティグリッツ [評者]諸富徹(京都大学教授・経済学)」、『朝日新聞』2016年11月13日(日)付。

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危機の国々を縛るトロイカ|好書好日



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覚え書:「デスメタルインドネシア―世界2位のブルータルデスメタル大国 [著]小笠原和生 [評者]五十嵐太郎(建築批評家・東北大学教授)」、『朝日新聞』2016年11月13日(日)付。

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デスメタルインドネシア―世界2位のブルータルデスメタル大国 [著]小笠原和生
[評者]五十嵐太郎(建築批評家・東北大学教授)  [掲載]2016年11月13日   [ジャンル]アート・ファッション・芸能 国際 


 もう四半世紀前になるが、アジアをバックパッカー旅行したとき、ネパールでメタリカのTシャツを着た少年に会い、ヘヴィメタルの世界的な浸透を実感した。それよりさらに過激なデスメタルインドネシアにおける状況を紹介する本が刊行された。驚くことに、このジャンルのバンド数がアメリカに次いで2位だという。しかも演奏技術の水準も高い。紹介されているCDは日本で入手が難しいが、ほとんどの楽曲はYouTubeで確認できる。すなわち、ネットを併用しながら、読む/聴く本だ。
 実はこれ、もっとマニアックな企画『デスメタルアフリカ』に続く第2弾であり、多様な音楽受容に感心させられる。BABYMETALが海外でヒットしたのも、ワールドミュージックとしてのメタルの背景があるからだろう。日本で開催されるヘヴィメタル系のフェスは、いまだに西洋中心の信仰が根強いが、そうした既成概念を打破するシリーズ本だ。
    −−「デスメタルインドネシア―世界2位のブルータルデスメタル大国 [著]小笠原和生 [評者]五十嵐太郎(建築批評家・東北大学教授)」、『朝日新聞』2016年11月13日(日)付。

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メタル魂の意外な受容|好書好日








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覚え書:「分かれ道ノストラダムス [著]深緑野分 [評者]末國善己(文芸評論家)」、『朝日新聞』2016年11月13日(日)付。

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分かれ道ノストラダムス [著]深緑野分
[評者]末國善己(文芸評論家)  [掲載]2016年11月13日   [ジャンル]文芸 


 『戦場のコックたち』が高く評価された著者の新作は、ノストラダムスの大予言が注目を集めていた1999年の日本を舞台にした青春ミステリーである。
 高1のあさぎは、2年前に死んだ友人・基(もとき)の祖母から、日記を渡される。基は日記の中で、両親が事故死しなかった世界を夢想していた。あさぎも同級生の八女(やめ)の助けを借り、基の命を救う思考実験を始める。
 その頃、あさぎの周囲では、大予言を信じるカルトが騒動を起こし、八女の友人で熱帯魚ショップを営む久慈が失踪するなど、不可解な事件が連続していた。
 どんでん返しが連続し、無関係に思えたエピソードがつながる怒濤(どとう)の展開は圧倒的。その中に、派手な活劇や淡い恋なども織り込まれており、ページをくる手が止まらないだろう。
 人生の岐路は、誰にも訪れる。それだけに、事件に巻き込まれ様々な選択を迫られるあさぎが、迷いながらも進むべき道を決める終盤は、感動も深いはずだ。
    −−「分かれ道ノストラダムス [著]深緑野分 [評者]末國善己(文芸評論家)」、『朝日新聞』2016年11月13日(日)付。

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大予言の年の不可解な事件|好書好日


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覚え書:「笑いにのせて:3 「戦争いやだ」心にしみた 服飾評論家・ピーコさん」、『朝日新聞』2016年08月18日(木)付。

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笑いにのせて:3 「戦争いやだ」心にしみた 服飾評論家・ピーコさん
2016年8月18日


ピーコさん=山本和生撮影
 7月に亡くなった永六輔さんは、声高に言わないけど、立場の弱い人たちの側に立ってものをしゃべったり、見たりすることが大事だといつも語っていました。「沖縄からは東京が見えるけど、東京からは沖縄が見えないんだよ」って。

 沖縄の現状って、今も東京にいる人たちにはわかっていない。基地移転問題も、沖縄の民意はノーなのに、国は目を向けないわけでしょ?

 知り合ったのは40年前。シャンソン歌手の石井好子さんの紹介でした。トークショーのお仕事で私とおすぎ、永さんが年に3、4回、沖縄に通うようになって。ひめゆりの塔などの戦跡も一緒に回るようになったの。国内最大の地上戦があった場所でどんなことがあったのか。話し続けてくれました。私やおすぎにとって「師匠」。永さんがいなかったら、戦争がどんなものかも知らずに生きてきたと思うんです。

 ■目撃した人の力強さ

 大橋巨泉さんの週刊現代の連載「今週の遺言」もずっと読んでいました。2001年の参院選で当選したのに、半年でお辞めになった。自分が思う国や平和のかたち、戦争はダメだとか憲法9条を守るとかいうことを言っていきたいのに、1年生議員は国会で質問もさせてもらえない。とても失望したと言ってましたね。晩年は「安倍政権は危険だ」とはっきり書いてらしたし。きっと歯がゆかったんだと思います。

 戦争を目撃した人たちの話は力強い。私は1945年1月の生まれで、赤ん坊だったから何も見ていない。だから、空襲で焼け死んだ人たちの死体がずっとあって……と話す人が目の前にいるとその凄(すご)さに驚いたし、伝えてくれる人がもっといなきゃいけないんだと思ったんです。

 永さんは元々放送作家、巨泉さんも元ジャズ評論家で多趣味だったから、言葉や表現が上手で知識がすごい。一つの言葉から広がって色んな話につながっていく。

 だから、「戦争はいやだ」っていう話も、永さんや巨泉さんの口から出るとみんな聞いてくれる。昨年亡くなった野坂昭如さんと永さんのトークショーでも、やっぱり心にしみる言葉を話してらしたし。大きな財産を失っちゃったんだなと思う。私なんか、その人たちについて行っていればよかったわけですから。

 ■伝わらぬふがいなさ

 NHKの追悼番組に出て、「永さんは戦争が嫌だって思っている。戦争はしちゃいけないと。世の中がそっちのほうに向かっているので、それを言いたいんでしょうね」と言ったら、そこがばっさり抜かれていた。放送を見て力が抜けちゃって……。永さんが言いたいことを伝えられないふがいなさがありますね。付き合い始めのころ、こう言われたの。「ピーコとおすぎは炭鉱のカナリアになりなさい」って。

 私に力があるかわからないけど、しゃべり続けていけばいいと思う。永さんが言ってくれたように、笑いながら怒ったりしていればいいの。

 (聞き手・小峰健二)

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 1945年、横浜市生まれ。75年、双子の弟で映画評論家のおすぎさんと「おすぎとピーコ」でタレントとしてデビュー。
    −−「笑いにのせて:3 「戦争いやだ」心にしみた 服飾評論家・ピーコさん」、『朝日新聞』2016年08月18日(木)付。

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http://www.asahi.com/articles/DA3S12516723.html





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