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2017-05-21

覚え書:「インタビュー 乱気流のトランプ時代 歴史家、ジョージ・ナッシュさん」、『朝日新聞』2017年02月08日(水)付。

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インタビュー 乱気流のトランプ時代 歴史家、ジョージ・ナッシュさん

2017年2月8日

「トランプ氏はレーガン氏のユーモアと、世界を旅したフーバー氏に学んで欲しい」=東京都内、金居達朗撮影

写真・図版

 トランプ政権はなぜ誕生し、世界はこれからどこへ向かうのか。戦後の米国保守思想系譜を解き明かし、第31代のフーバー大統領の公式伝記作者でもある米歴史家ジョージ・ナッシュ氏は、トランプ大統領の誕生を「完全な嵐(パーフェクトストーム)」だったと位置づける。歴史的視点でトランプ氏をどう位置づけ、その行方をどう考えるのか聞いた。

 ――歴史家として、トランプ大統領をどう受け止めましたか。

 「昨年11月8日の大統領選の投票日の朝、予想よりもずっと僅差(きんさ)の選挙になるのではないかという思いが頭に浮かびました。選挙戦を通じ、保守層のさまざまな人々と話していて、トランプ氏と距離を置いているけれども、フェンスの向こう側には行っていない人たちが大勢いることに気づいていたからです。トランプ氏の支持者には『熱烈な支持者』と『説得可能な支持者』の2種類がいました」

 「だから頭では、僅差の大統領選になりうる、と考えました。でも心では『トランプ氏が、勝利に必要な州を全部勝つなんて無理だろう。ほとんどの州はクリントン氏優位なのだから』と思っていました。(トランプ氏の勝利には)すべてのドミノが同じ方向に倒れる必要があったからです」

 「8日夜の開票結果は、最初は予想通りでした。ところが、トランプ氏がフロリダ州などで優位になり、オハイオ州でも勝利し形勢が逆転しました。私は自分の知性の部分では可能性を予見していましたが、それが起きるとは思えませんでした。しかし、それがだんだんと起こっていく。まるでスローモーションを見ているようで、ただあぜんとしました」

 ――なぜドミノ倒しが起きたのでしょう。

 「1960年代以降の米国の政治においては、ラリー(集会)を開いたり、通りに出てデモをしたりするのは、左寄りの人の動きでした。右寄りの人たち、中間層や労働者層は、集会に加わったりデモをしたり、プラカードを持ったりすることはあまりしなかった。しかし、今回トランプ氏の集会ではみなその行動をとっていた。そこに一つの手がかりがあります」

 「トランプ氏への支持は、一種宗教的現象だったのではないかとみています。彼本人への一種信仰のようなものではないかと。生活が脅かされていると感じたり、(自分が)取るに足らない存在だとみなされたりするおそれから来たものなのではないかと」

 「また、米国では『昨年2月に死去したスカリア・米最高裁判事がもしまだ生きていたら、トランプ氏は当選しなかっただろう』という見方があり、私もそう思います。(欠員になった最高裁判事の後任にだれをあてるかが今後の米国最高裁の方向性を左右するだけに)多くの保守層は『トランプに投票しなければならない。彼は完全ではないだろうが、彼が選ぶ判事は、別の人が選ぶよりはましだろう』と考えたのです」

 「だからこそ、トランプ氏にとってすべてがうまく働く『完全な嵐』が起こったのです」

     ■     ■

 ――「完全な嵐」は、米国保守政治においてなぜ起こったのでしょうか。保守思想史のなかでトランプ氏をどう位置づけますか。

 「まず第2次世界大戦後の米国保守主義について、思想史のレンズから説明させてください。米国保守主義は一枚岩であったことはなく、常にいろいろな相反する潮流の連合体でした。戦後直後にあったのは三つの潮流でした。一つは、フリードリヒ・ハイエクミルトン・フリードマンに代表されるリバタリアンと呼ばれる自由至上主義者で、ニューディール政策以降の米国社会主義化に反対していました。二つ目は、伝統的な宗教倫理に戻ろうとする伝統主義者たちでした。三つ目は、冷戦に入ったことで現れた熱狂的な反共産主義者たちでした」

 「50年代後半から60年代にかけて、この三つの動きを結びつけたのが、保守系雑誌『ナショナル・レビュー』を創設したウィリアム・バックリーでした。バックリーは、対立しがちなリバタリアンと伝統主義者の共通項を見つけるため、誰もが共有できた反共産主義を使いました。ソ連という外部の危険な敵を前にすれば、自由道徳信仰も不可欠だと訴え、一体的な保守運動にしたのです」

 「これに『ネオコン』と、70年代に草の根的に発生した『宗教右派』が加わり、レーガン大統領の2期目には、これら五つの動きを取り込んだものになった。しかし、89年に欧州共産主義が崩れ、レーガン大統領が『悪の帝国』と呼んだものが終わりを迎えるとこうした大連合の各派の間に緊張が生じるようになりました」

 ――トランプ氏はそうした保守運動の延長線上にあるのですか。

 「そうは言えません。彼に反対する人の大きな懸念の一つは、彼は一貫して『何か』であったことがない点です。トランプ氏はもともとは民主党支持者でした」

 「2015年夏、トランピズムという、新たな、怒りに満ちたポピュリズム噴火が起こりました。トランピズムは、レーガン時代の連合のあらゆる部分に対する挑戦です。彼は政府支出の拡大やインフラ支出の拡大に関心を持っています。リバタリアンはその動きをかなり懐疑的にみています」

 「伝統的な保守主義者たちに対し、彼は型通りのことを行っているだけのように見えます。ただ、彼は(保守派が喜ぶゴーサッチ氏という)最高裁判事指名し、彼らに受けるものを与えました」

 「レーガン氏は、保守派であり、(世界に目を向ける)国際派だったのに対し、トランプ氏は、ナショナリスト(内向き)であり、ポピュリスト大衆迎合主義者)と位置づけられます」

     ■     ■

 ――そんなトランプ氏がなぜ共和党で候補になり、大統領にまでなったのでしょうか。ポピュリズムのせいということですか。

 「左にも右にもポピュリズムがありますが、右翼ポピュリズムは、政府のエリートを攻撃する傾向がありました。92年と96年の大統領選共和党から立候補したパット・ブキャナン氏がそうでしたし、同様に独立系として立候補した実業家のロス・ペロー氏がそうでした。ブキャナン氏は多すぎる移民批判し、ペロー氏は北米自由貿易協定(NAFTA)を攻撃していました。トランプ氏は、ブキャナン氏とペロー氏をブレンドしたように見えます」

 「そして2008年の大統領選共和党副大統領候補だったサラ・ペイリン氏。彼女は労働者層を代表し、知性派ぶらず、大統領候補だったマケイン氏以上に保守層を熱狂させました。これも予兆です。トランプ氏はペイリン氏と仲がいい。そして09年には保守派草の根運動『茶会(ティーパーティー)』がありました。問題は、なぜ彼らは失敗し、トランプ氏は成功したのか、です」

 ――なぜでしょう?

 「一つの要因は経済だと思います。1968年には経済状況はまだ良かった。90年代にペロー氏とブキャナン氏の訴えが注目を集めたときは、90年代はじめの景気後退のあとでした。2008年には(金融危機という)経済台風に見舞われた。それはオバマ氏に有利に働きました。16年までのオバマ政権の8年間では、いくらかの景気回復はあったものの、まだら模様でした。多くの人にとって、心理的には景気が回復しているとは感じられず、それが経済面で、トランプ氏がブレークスルーを果たす状況をつくったのです」

     ■     ■

 ――トランプ氏は今後、どう米国を運営していくのでしょうか。

 「内向きで大衆迎合主義の方向性は非常に強いと思います。私がいま関心があるのは、トランプ氏が自身の思想をどうやって身につけたのかです。本を読んだり、歴史に学んだりしたわけではないのかも知れませんが、左右のエリートを巧みに攻撃して権力を握りました。いまその耳になっているのは、大統領上級顧問で国家安全保障会議(NSC)にも座るバノン氏でしょう。彼も、レーガン流の保守連合からは排除されていた過激な流れの一員です」

 「一つのカギは、彼は非常に主権国家を重視し、国際機関グローバリズムに反発します。外交に関して、国連や多国間主義を遠ざけ、重要なことは二国間で決めようとするのではないでしょうか」

 ――トランプ政権と共に日本や世界はどこへ向かうでしょうか。

 「私は彼に良い結果を残して欲しいと思っています。ただ、私は、自分自身は保守的な知識層の一人だと思っており、過激主義とは距離をおいています」

 「米国民、多くのトランプ支持者たちは、前政権がイスラム過激派のテロリストたちに無頓着だったと考えています。トランプ氏はより力強く対応するでしょう」

 「私はロシアプーチン大統領との関係をトランプ氏がどうするのかを警戒心を持ってみつめています。またトランプ氏は中国を警戒しています。南シナ海で具体的な紛争が起こるおそれもあるでしょう。数多くの不確実性があります。我々はタービュラント(乱気流の)時代に入っているのです」

 (聞き手・池田伸壹)

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 George H.Nash 1945年生まれ。76年に「1945年以降の米国保守思想運動」(未邦訳)を出版し、米保守論壇に大きな影響を与えた。現在はラッセルカークセンターのシニアフェロー。

    −−「インタビュー 乱気流のトランプ時代 歴史家、ジョージ・ナッシュさん」、『朝日新聞2017年02月08日(水)付。

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(インタビュー)乱気流のトランプ時代 歴史家、ジョージ・ナッシュさん:朝日新聞デジタル





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