日記:佐高信「松本人志と創価学会の親近性」批判





「松本人志と創価学会の親近性」批判 - Togetter




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覚え書:「書評:謀叛の児 宮崎滔天の「世界革命」 加藤直樹 著」、『東京新聞』2017年06月25日(日)付。

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謀叛の児 宮崎滔天の「世界革命」 加藤直樹 著

2017年6月25日
 
孫文を支え、追求した平等
[評者]浦辺登=文筆家
 表紙を飾る宮崎滔天(とうてん)は、中国革命の孫文を支援した人として知られる。自身の半生をつづった『三十三年の夢』は中国語に翻訳され、中国の革命家たちの愛読書となった。現代に至るも国内外での愛読者は多い。ただ、残念なことに、原典を読破するには解釈を必要とする。ゆえに、著者は底本に補記する形で本書を綴(つづ)った。
 滔天は明治新政府が誕生して間もなく、熊本の荒尾に生を享(う)けた。いわば維新という革命直後の日本を生きた人だった。しかし、器が新しくなっただけで、一向に世の中は良くならない。全ての人々が平等に生を享受し、権力に支配されることのない社会を生み出さなければならない。その理想を家訓として受け継いだのが滔天だった。
 なぜ、著者は本書を世に問うたのか。序章、終章を含め全十四章にもなる大部だが、書き綴らねばならないと衝(つ)き動かす要因は何だったのか。それは、かつて、滔天のような人物が日中間にいながら、現代日本には不在だからだ。政治的であり、打算的であり、歴史認識の乖離(かいり)であったりする関係を憂慮するからだった。見返りの無い、滔天のように純粋に理想を追求する生き方を再認識する必要があると考えたからである。
 理想と現実という二律背反の世界を滔天は煩悶(はんもん)した。それでも、もっとも理想としなければならないのは、社会の底辺で蠢(うごめ)く人々への平等な富の配分であり、権力に左右されない社会の実現だった。そのことは、孫文が墨書した「天下為公」が示している。これは滔天と孫文とを強く結びつける共通認識だった。
 中国革命は、少しずつ、周辺の国々に影響を及ぼし始めながら、孫文も滔天も、その中途において生を終えてしまった。しかし、両者の理想が世界に波及したことは事実である。それを著者は「世界革命としての中国革命」と表現したのだった。滔天の再評価到来を願うばかりである。
河出書房新社・3024円)
<かとう・なおき> 1967年生まれ。フリーライター。著書『九月、東京の路上で』。
◆もう1冊 
 榎本泰子著『宮崎滔天』(ミネルヴァ書房)。孫文との出会いと革命運動、浪曲師・著述家としての活動など波乱の生涯を描く評伝。
    −−「書評:謀叛の児 宮崎滔天の「世界革命」 加藤直樹 著」、『東京新聞』2017年06月25日(日)付。

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覚え書:「【書く人】内面を開放する物語 『間取りと妄想』作家・大竹昭子さん(66)」、『東京新聞』2017年07月02日(日)付。

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【書く人】

内面を開放する物語 『間取りと妄想』作家・大竹昭子さん(66)

2017年7月2日
 
 住宅の部屋の配置を多様な視点から考える「間取り本」がブームの中、本書は「世界初の間取り小説集」との触れ込み。ミステリーの密室トリックのように間取りが小道具となる小説はあっても、間取りから立ち上る物語ばかり集めたのは珍しいというわけだ。
 しかも、最終話を除く十二編に間取り図が付く。間取り好きの「マドリスト」を自任する著者が描き出す空間は、舳先(へさき)のような三角形の部屋だったり、玄関を入ると正方形の三和土(たたき)にドアが二つあったりと、どこか逸脱している。著者の素案を、建築に詳しいイラストレーター、たけなみゆうこさん(38)が実際に建てられるよう清書した。
 そこを舞台に紡いだ物語では「人間の生命観を強調した」という。それは間取りを人間の体のメタファー(隠喩)と考えるからだ。例えば収録の一編「仕込み部屋」の主人公は、船室のように窓のない小部屋で身の毛もよだつ物語を書く行為を通じ、人前では見せない残酷な感情を発散する。
 「人は自分の心の中にいろんな間取りを持っている。皮膚でその間取りが覆われ、表情からは内側がうかがいしれない。現代の人は内側にエネルギーがこもり、それがうまく外に出ていない気がする。内側にある間取りが物語によって開放され、人間が本来持っている生命力が強まり、放たれていけばいい」。マドリストでありながら、意外にも、最後は外の世界へと向かうというのだ。
 根っからの東京人。社宅住まいだった小学生の頃から、方眼紙に間取り図を描いて遊んだ。折り込みチラシや不動産屋の張り紙の間取り図に見入った。
 「玄関はこんな感じかな、こう曲がるってことは体の向きはこうなる…カメラになったような気分で、その部屋に初めて入るときの感覚を自分の中でトレースするんですよね。映画を撮るみたいに想像するのが好きなの」
 散歩中には、通り掛かった家の間取りに思いをはせる。妄想が膨らむのは、街のディテールが消え無彩色になり始める薄暮だ。「街にも間取りがある気がする。行くと心地良いとか、場所によって違う感情を刺激される。あの町のあの部屋に行ってみよう、そんな感じです」。最終話「夢に見ました」には、そんな自伝的要素をちりばめている。
 亜紀書房・一五一二円。 (谷知佳)
    −−「【書く人】内面を開放する物語 『間取りと妄想』作家・大竹昭子さん(66)」、『東京新聞』2017年07月02日(日)付。

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覚え書:「【東京エンタメ堂書店】井上・社会部デスク 新聞ってどう読むの?」、『東京新聞』2017年07月10日(月)付。

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【東京エンタメ堂書店】

井上・社会部デスク 新聞ってどう読むの?

2017年7月10日


 「新聞ってどう読むのが正しいの?」。社内見学の生徒さんや出前授業で出会う聴講者の方からよく聞かれます。正解はありませんが、ヒントはあります。私たちが日々お届けする新聞を、より深く、より楽しく味わっていただくために。あなたの新聞ライフを豊かにしてくれる4冊を紹介します。 (社会部デスク・井上圭子)

◆各紙「芸風」比べて
 まずは、「難しい」「堅苦しい」といった新聞のイメージを取り払ってくれるこの本から。スポーツからカルチャー、政治までウオッチする「時事芸人」プチ鹿島さんの<1>『芸人式 新聞の読み方』(幻冬舎、一五一二円)です。新聞にはそれぞれ「キャラ」や「芸風」があり、それを知ったうえで読み比べると面白い、と説きます。
 例えば、(六月二十五日の朝刊最終面でもご紹介しましたが)朝日は「高級な背広を着たプライド高めのおじさん」。産経は「いつも小言を言ってる和服のおじさん」、毎日は「書生肌のおじさん」、日経は「現実主義のビジネス一筋おじさん」。読売は、ずばり「ナベツネ」。そして、わが東京新聞は−。ぜひ、お手にとってお確かめください。社員の私も思わず「うまい!」と膝を打ちました。
 ネット時代を「受け手が、自分にとって面白いニュースだけを選択する。本当かどうかより、自分の先入観に合うかどうか。それがヒートして感情と感情、極端と極端のにらみ合い」になっていると分析する著者。芸人らしくクスッと笑える各紙の記事を例に挙げ、「たくさんの視点を受け止め、楽しもうではないか」と呼びかけます。

◆「見出しと一面だけ」でも
 お次は<2>『僕らが毎日やっている最強の読み方 新聞・雑誌・ネット・書籍から「知識と教養」を身につける70の極意』(池上彰佐藤優共著、東洋経済新報社、一五一二円)です。職業柄、毎日大量の情報を仕入れるジャーナリストと作家の二人が、読み方の極意を伝授します。「凡人にはムリ…」とひるみそうになる読者を引き留めるかのように「普通の人でも実践できる!」と帯に書かれているのがちょっと笑えます。
 朝刊の情報量は新書二冊分にも匹敵するといわれます。それを十一紙も購読する池上さんは、朝の二十分で全紙の見出しに目を通し、興味を持った記事を夜寝る前に一時間かけて読みます。十二紙を購読する佐藤さんは、朝起きて猫のえさやり後の二時間が新聞タイム。やはり「見出しだけ」「前文まで」「本文まで」の三段階に分けて読むそうです。慣れるまでは「見出しと一面だけ」「継続を第一目標に」でもOK。おぼろげな記憶でもあるかないかで、情報のベースには大きな差が出るといいます。

◆「脳力」アップに
 元祖「知の巨人」が「開校」するのは、新聞をテキストに見立てた<3>『新聞大学』(外山滋比古著、扶桑社、一〇八〇円)。いわく、学費ゼロ、毎日届く、自宅でできる、最新の情報満載、おまけに頭がよくなる、と。「知力の弱化が老化を早める」として「脳力」アップに新聞を推す著者は、御年九十三歳。ちなみに百二歳になる私の祖母も新聞を毎日楽しみに読んでいる「現役学生」。効能は確かにあるようです。

◆皮膚呼吸のように
 最後は<4>『逆境からの仕事学』(姜尚中(カンサンジュン)著、NHK出版新書、七九九円)です。在日二世として逆境だらけの人生を歩んできた著者は「悩んだら本を読め。忙しくて本が読めなくても新聞は読んでおけ」と説きます。毎日新陳代謝する新聞は「皮膚呼吸」、新書はもう少し深い「肺呼吸」、古典は「深呼吸」。皮膚呼吸ができていないと体全体の感覚が鈍り、いざ深呼吸をしても酸素をしっかり吸収できない、と。
 新鮮な酸素をたっぷり含んだ新聞を、私たちはこれからもお届けしていきます。ぜひ、アンチエイジングにお役立てください。
    −−「【東京エンタメ堂書店】井上・社会部デスク 新聞ってどう読むの?」、『東京新聞』2017年07月10日(月)付。

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覚え書:「インタビュー 前例なき仏大統領選 パリ政治学院教授、パスカル・ペリノーさん」、『朝日新聞』2017年04月11日(火)付。

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インタビュー 前例なき仏大統領選 パリ政治学院教授、パスカル・ペリノーさん
2017年4月11日

パスカル・ペリノーさん=国末憲人撮影

 欧米で、既成政党が揺さぶられる現象が相次いでいる。米国では、異端とみられていたトランプ氏が共和党の予備選を勝ち抜き、大統領に就いた。そしていま、間近に迫る仏大統領選で、二大政党を押しのけて、アウトサイダー旋風が吹き荒れている。主要国の政治で何が起きているのか。フランスを代表する政治学者に聞く。

ログイン前の続き ――英国の欧州連合(EU)離脱や米トランプ政権誕生で世界が揺れる中で、仏大統領選の第1回投票が4月23日に迫っています。

 「今年の仏大統領選は、1958年からの仏第5共和制で前例のない選挙です。一つは、大規模テロの影響を受けて非常事態宣言下で実施されること。従来の関心事だった『失業』に代わって『テロ』が最重要テーマに浮上しました。もう一つは、有権者の投票で候補者を事前に決める『予備選』を右派も左派も導入したことです。政治家の意識や大統領候補のあり方が根本的に変わりました」

 「これまでの政治では、候補者は政党の中から生まれてきました。閣僚や首相を務め、経験を重ねたうえで、大統領を目指していたのです。そのような構造に対する革命を、予備選は起こしました。政党を破壊し、古い形の政治を葬り去りました」

 「前回2012年の大統領選で、すでに兆候は現れていました。主要政党では左派の社会党だけが予備選を実施しましたが、当時のオブリ党首を伏兵のオランド現大統領が打ち破る、という予想外の出来事が起きたのです」

 ――今回の大統領選でも、すでにハプニングが相次いでいます。

 「今回初めて予備選を導入した右派では、党の本流とは言えないフィヨン氏が、サルコジ前大統領や政治経験豊かなジュペ元首相を破って候補者となりました。左派の予備選でも、オランド大統領があまりの不人気から出馬断念に追い込まれ、後継者を目指したバルス前首相も伏兵のアモン氏に敗れました。フィヨン氏もアモン氏も、大統領候補になるなんて誰も予想しなかったアウトサイダーです。政界の大物は、予備選に抹殺されてしまったのです」

 「これは、政党が政治をコントロールできなくなっていることを意味しています。予備選は政党をむしばむのです」

 「同様の現象は、フランス以外にも見られます。イタリアでも、首相候補の予備選を導入したことが、政党の弱体化につながりました。米大統領選では、民主党共和党で候補者争いが激化しましたが、政党自体が制御する力を失っているからです」

 ――共和党でトランプ氏、民主党でサンダース氏という、ともにアウトサイダーが支持を集めた現象ですね。ただ、政党はなぜ、自らの影響力を弱めるにもかかわらず予備選を導入したのですか。

 「それは鶏と卵の関係です。最初に政党の力が衰退したから、予備選が導入されたのです。明確な指導者に欠ける社会党は『自分たちで大統領候補を選べないから、有権者に決めてもらおう』と考えた。右派も、党内でサルコジ派とジュペ派との対立が深まって収拾がつかなくなったために『支持者に決めてもらおう』と考えた」

 「つまり、予備選は当初、一つの問題を解決する手段だったのです。しかし、いったん導入してみると、解決手段ではなく問題そのものになってしまった」

 ――右翼「国民戦線」は予備選など導入しませんね。

 「その通り。この党はかつてのままの政党機能を維持しています。古い形の政党が一方で存続し、一方で死滅する。現代は、そのような変化の時代です」

     ■     ■

 ――その党首マリーヌ・ルペン氏が好調です。仏大統領選では、23日の第1回投票の上位2人が5月7日の決選に進みますが、その1人は彼女になりそうです。

 「その可能性は極めて高いでしょう。これまでになく多くの支持を集めています。国民戦線とルペン氏の伸長は今始まったわけでなく、2014年の欧州議会選から続く現象です」

 「今回は、右派と左派の2大政党がいずれも決選投票に残れない大統領選になりそうです。フランス第5共和制では初めて。その意味でも、政党の衰退は明らかです」

 ――もう1人の決選進出は、若手のエマニュエル・マクロン氏が有力ですね。

 「マクロン氏はまだ39歳で、若さ、政党からの脱却、左右対立軸からの解放、といった新たなイメージを打ち出し、政治不信を抱く人々の支持を集めています。オランド政権の元経済相ですが、左右どちらにも偏らない立場を取っています。彼を支える『前進』は、党費を求めないなど政党とは異なる新たな運動体です」

 「フランスでは既成の政治家に刷新を期待しても無駄です。だからマクロン氏のような若い世代の台頭を待たざるを得なかった。でも、状況は日本も同じかもしれませんね。30年前と同じ面々が政治の真ん中に居座っている点では」

 ――ルペン氏が大統領に当選する可能性をどうみますか。

 「ルペン氏が決選を制し、米トランプ氏に続いて大統領の座を射止める――。それは、可能性の高いシナリオではありません。右翼の国民戦線には、連携する相手がいないからです。その統治能力にも疑問が残る。彼女が大統領になるとして、首相は誰が務めるか。財務相は、内相は、教育相は。取り巻きはアマチュアばかりで、ほとんど人材がいない」

 「では、全くその可能性がないかというとそうとも言えません。経済、治安、テロ、移民問題有権者が抱える怒りや不安は大きい。これを選挙でどう示そうかと人々は考えています。誰かを支持する投票ではなく、何かに反対する投票を目指す人が、ルペン氏支持に回る可能性は少なくない。いわばちゃぶ台返し。その時彼女にチャンスが生まれます」

 「ルペン氏が敗れても、一件落着とはなりません。単一通貨ユーロからの離脱といった彼女の主張が世論に浸透し、実現を求める声が高まるかも知れません」

     ■     ■

 ――台頭するポピュリズムは、私たちをどこに連れていくのでしょうか。

 「ポピュリズムはポジティブとネガティブの両面を持っています。民衆の訴えを直接表現している点では、民主主義の新たな姿だと評価できます」

 「一方で、危険な面も否定できません。民主主義は、制度の均衡と権力への制限があってこそ成立します。権力には、それに対抗する力が必要です。しかし、一部のポピュリストはそれを拒む。『民衆から負託を受けたから、法からも議会からも制限されない』などと主張する。このような権威主義に陥る恐れは拭えません」

 ――有権者の支持を得たプロの政治家が、エリート官僚を使いこなして統治する民主主義の原則が崩れかけているように思えます。

 「今は、戦後に定着した政治的世界が解体され、新しい世界が生まれようとしている時期だと考えられます。ポピュリズムは、その新しい世界の一つの要素です」

 「フランスの社会学者ギ・エルメ氏は、民主主義に代わる新たな政治制度の中心として、ポピュリズムとガバナンス(統治)を挙げました。ポピュリズムが人々の声を吸い上げる一方で、実際の政治はエリート官僚中心のガバナンスが担う。そこにかかわるのは一部の意識の高い人だけで、一般市民は無縁です。民衆の代表が政府をつくる時代は終わるのです」

 ――少し不気味ですね。

 「その意味で、米国のトランプ政権に注目しています。今のところ、この政権にはポピュリズムの要素しかうかがえません。でも、その裏で、いくつかのテーマについてはエリートがすべてを牛耳るガバナンスの要素が生まれていないでしょうか。ポピュリズムとガバナンスを備えた政権に変容しないでしょうか」

 ――そうなると、選挙を通じて市民の声を吸い上げる従来の「政治」は意味を持たなくなります。

 「だから、現代は本当の政治危機の時代です。『政治』が今後どうなるか、見えないのです」

     *

 Pascal Perrineau 1950年生まれ。専門は選挙社会学、右翼分析。「国民戦線」研究の第一人者で、パリ政治学院政治研究所長を長年務めた。

 ■危機克服できない既成政治 東京外国語大学教授・渡邊啓貴さん

政党の弱体化は、フランスに限らず先進各国で近年指摘されています。その過程が始まったのは、実はずっと以前のことです。

 従来の政党はイデオロギーに基づいた総合的な存在でした。特に経済政策面で、右と左の大政党は異なる解決法を提示していた。

 ところが、経済政策を巡る論争はすでに1980年代に終わり、先進国が目指すのは穏やかな自由主義に集約されました。自由主義が生み出した豊かな社会を誰も否定できなくなり、財政赤字の慢性化で政策選択の幅もなくなりました。左右ともに似たような政策を打ち出すようになったのです。一方で、世の中の高度化、専門化が進み、従来の左右の分類だけでは対応できない問題が増えました。

 こうしたなかで、環境保護原発フェミニズムといったテーマに特化したシングルイシュー政党が伸長しました。フランスで、排外主義を掲げた国民戦線が台頭したのも、その特殊な一例です。

 つまり、そのころからすでに、二大政党の衰退は始まっていたのです。この傾向に拍車をかけたのが、ペリノー氏の指摘する「予備選」だったといえるでしょう。

 今回の大統領選は、そうした変化の一つの節目です。大政党は危機を克服できず、市民の政党離れは深刻です。既成政治への不信感が高まり、経験ある政治のプロが評価されなくなった。むしろ経験の浅い、政界のアマチュアが好まれます。ルペン氏やマクロン氏はそのような政治家像の象徴です。

 ただ、大統領に強大な権限を与える仏第5共和制の狙いは、政策論争を経て選ばれた人物に、公約を実現させるところにありました。深い政策論争なしに素人が大統領になれば、公約が実現できず、制度の趣旨が損なわれる懸念が高まります。

 政党は今後も残るものの、機能や役割は変わるに違いありません。もはや有権者の社会観全体を体現するものではなくなり、党内の意見の最大公約数をまとめる程度の存在となるでしょう。

 多党分立化に回帰するフランスの混乱は、懸念すべきです。ただ、民進党の失敗もあって1強が強まる日本に比べると、フランスの場合は、結果よりもプロセスを大切にする民主主義の原点を改めて認識させてくれるといえます。(聞き手はいずれもGLOBE編集長・国末憲人)

     *

 わたなべひろたか 54年生まれ。専門はフランス政治外交。著書に「現代フランス」(岩波書店)など。駐仏公使も務めた。
    −−「インタビュー 前例なき仏大統領選 パリ政治学院教授、パスカル・ペリノーさん」、『朝日新聞』2017年04月11日(火)付。

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http://www.asahi.com/articles/DA3S12885174.html





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