覚え書:「折々のことば:775 鷲田清一」、『朝日新聞』2017年06月05日(月)付。

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折々のことば:775 鷲田清一
2017年6月5日

 人生の主役が変わった気がする…

 (富士屋カツヒト)

     ◇

 漫画以外に取り柄(え)がないのに踏ん張りきれず、せっかく得た雑誌連載も打ち切りになる。妻の妊娠を機に働きに出るも、体が悲鳴を上げて再び無職に。生まれた子が腕の中で懸命にミルクを飲む姿を見つめ、漫画家はこう思う。育児でも介護でも、人は、こちらに迎える、あちらに送るという人生の務めをどう果たすかを問われる。漫画「打ち切り漫画家(28歳)、パパになる。」から。
    −−「折々のことば:775 鷲田清一」、『朝日新聞』2017年06月05日(月)付。

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http://www.asahi.com/articles/DA3S12972812.html


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覚え書:「フォマルハウトの三つの燭台〈倭篇〉 [著]神林長平 [評者]末國善己(文芸評論家)」、『朝日新聞』2017年08月20日(日)付。

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フォマルハウトの三つの燭台〈倭篇〉 [著]神林長平
[評者]末國善己(文芸評論家)
[掲載]2017年08月20日
[ジャンル]文芸


■奇妙な事件の先に哲学的な問い

 神林長平は、SF的な想像力を使い、“私(人間)とは何か”“リアルとは何か”を問い続けてきた。人工知能(AI)が将棋、囲碁のプロに勝利するほど人間の思考を再現し、仮想現実(VR)の技術が日常に入り込み、現実と虚構の境界を曖昧(あいまい)にしている今、ようやく時代が神林の問題提起に追いついたといえる。
 それだけに、家電にAIが搭載され、VRで裁判員裁判を行う遠くない未来を舞台に、科学技術の発達が人間の価値観と社会制度をどのように変えるのかに迫った本書の意義は大きい。
 物語は、三つの燭台(しょくだい)に火を灯(とも)すと世界が終わると伝えられる「フォマルハウトの三つの燭台」の周囲で起こる奇妙な事件に、本好きの中年ニートの太田林林蔵(おおたばやしりんぞう)が挑むことで進んでいく。
 作中の事件は、トースターに積まれたAIが自殺した、自分の意識をロボットにコピーして社会に出した後に殺したと主張する男など、不可解なものばかり。
 やがて事件には、謎めいた燭台が関係していることが判明。さらに燭台の眷属(けんぞく)として角の生えた兎(うさぎ)が登場し、事件を引っかき回し混乱に拍車をかけていく。これに燭台がどのように世界を終わらせるのかの興味も加わるので、着地点がまったく見えないスリリングな展開に圧倒されるはずだ。
 どこかユーモラスな事件ばかりが描かれるが、謎が解かれると浮かび上がる真実はシリアスだ。事件の先にあるのは、人間の脳とAIがリンクされるようになった時、人間とAIの思考は峻別(しゅんべつ)できるのか、あるいは人間の意識が機械に移植できるようになれば、何が自分と機械を分けるのか、肉体が消滅した後も自分と同じ思考を続ける機械が存在するなら生と死の差はどこにあるのかなどの哲学的な問い掛けなのである。
 本書のビジョンは現実になりつつあるので、読者は技術の恩寵(おんちょう)がもたらす天国でもあり地獄でもある未来と、どう向き合うべきかを考えることになるだろう。
    ◇
 かんばやし・ちょうへい 53年生まれ。95年『言壺』で日本SF大賞。『敵は海賊』『絞首台の黙示録』など。
    −−「フォマルハウトの三つの燭台〈倭篇〉 [著]神林長平 [評者]末國善己(文芸評論家)」、『朝日新聞』2017年08月20日(日)付。

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http://book.asahi.com/reviews/reviewer/2017082000010.html



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フォマルハウトの三つの燭台〈倭篇〉
講談社 (2017-06-02)
売り上げランキング: 10,918

覚え書:「文明に抗した弥生の人びと [著]寺前直人 [評者]宮田珠己(エッセイスト)」、『朝日新聞』2017年08月20日(日)付。

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文明に抗した弥生の人びと [著]寺前直人
[評者]宮田珠己(エッセイスト)
[掲載]2017年08月20日
[ジャンル]歴史
 
■富がもたらす負の面見抜いた

 弥生時代というと、どんなイメージだろうか。
 縄文の次。大陸から渡来した人々が高度な文明を持ち込み、日本列島に稲作が広まった。土偶や火焔(かえん)型土器がすたれ、銅鐸(どうたく)などの金属器が登場した。
 以上が、私の持つ弥生時代に関する知識のほぼすべてである。
 けれど同時に、実際はそんな単純な話ではなかっただろうことは想像もつく。だいいち日本列島全体が一様な社会だったはずがないし(たとえば北海道には弥生時代はない)、いつの時代であれ世の中一筋縄ではいかないのだから、当時もいろいろあったろう。
 本書は、明治期に弥生式土器が発見されてから、研究者たちが弥生時代をどうとらえてきたか、まずその変遷を追い、西から来た文明が縄文社会を先進的に塗り替えていく一面でしか語られていないことに異議を唱える。
「わあい、大陸から便利なものがきた。いいね、採用!」
って、弥生人もそんなバカじゃない。
 稲作の普及にともなって、人を殺すための道具や、ムラを守る施設が増えるが、近畿地方などではそれと並行して、縄文後期に東北地方から伝わった土偶や石棒を介した儀礼を通じ人間関係を緩和していた形跡があるそうだ。過剰な富がもたらす負の面を見抜いていたのである。
 儀礼だけではない。弥生中期に鉄や青銅が伝わったときは、武器にすれば殺傷能力が高く権威の象徴にもなるそれらを、あえて実用的でない形へと変容させ、武器としてはダサい石器を使い続けたりした。
 そして極めつきが銅鐸だ。あの不必要にデカい「鈴」。なぜわざわざあんなものを大量に作ったのか、本書はその成り立ちを丁寧に分析し、弥生人の知恵に迫っていく。
 出土品にある小さな痕跡から当時の人々の心の中まで読み解く手腕は、考古学の底力をみるようだ。
    ◇
 てらまえ・なおと 73年生まれ。駒沢大学准教授。単著『武器と弥生社会』、共著『Jr.日本の歴史1 国のなりたち』。
    −−「文明に抗した弥生の人びと [著]寺前直人 [評者]宮田珠己(エッセイスト)」、『朝日新聞』2017年08月20日(日)付。

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http://book.asahi.com/reviews/reviewer/2017082000011.html








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覚え書:「作家LIVE ファンタジーって自由だ 萩尾望都×森見登美彦対談」、『朝日新聞』2017年09月24日(日)付。

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作家LIVE ファンタジーって自由だ 萩尾望都×森見登美彦対談

作家LIVE
ファンタジーって自由だ 萩尾望都×森見登美彦対談
2017年09月24日

はぎお・もと 1949年福岡県大牟田市生まれ。69年に「ルルとミミ」でデビュー。2006年に『バルバラ異界』で日本SF大賞を受賞。ほか12年に紫綬褒章、17年に朝日賞を受けた。


 マンガ家・萩尾望都さんのSF作品に焦点を絞った「萩尾望都SF原画展」(朝日新聞社など主催)の開幕にあわせ、萩尾さんと作家・森見登美彦さんの対談イベントが9日、神戸市の神戸ゆかりの美術館であった。『11人いる!』や『スター・レッド』など数々の名作で知られる萩尾さんと、ユーモラスな空想に満ちた作品で人気の森見さんが、お互いの作品やSF観について語り合った。

■「良い子」の呪縛なく、何でも書ける
 対談は、萩尾さんが森見さんを対談相手に指名したことで実現した。森見さんの『ペンギン・ハイウェイ』が好きで、文庫解説も寄せた萩尾さんは「森見さんの小説を読んでいると、言葉のリズムに音楽的なものを感じて。落ちぶれた長屋で暮らす人の話を書いていても、近郊のどこにでもありそうな新興住宅を書いていても、なんとなく19世紀のウィーンとか、シュトラウスシューベルトとか、品の良いイメージの音楽を感じるんですよね」と語った。
 森見さんは「初めて言われた」と驚きつつ、「大正から昭和初期ぐらいの本を学生のときによく読んでまして、文章の書き方やリズムのつかまえ方はそういう、ちょっと前の時代の人たちに影響されてるのかなと思います」と返答。萩尾さんは「昭和モダンとか、そういうテイストも入ってるんですかね。おしゃれな感じがとても好きです」と話した。
 森見さんの萩尾作品との出会いは高校生のころ、入院中の母親におばが差し入れた『11人いる!』を借りたのがきっかけだった。その後、大学時代に『トーマの心臓』『ポーの一族』を読んで衝撃を受けたという。「きれいな作品で、美しいのに、ボロボロの4畳半で本棚にもたれながら読んでいるっていうのが僕の中では結びついてしまっていて。すごい懐かしいんです」と会場の笑いを誘った。
 ともに日本SF大賞を受賞した2人だが、対談ではSF観のギャップも話題に。萩尾さんは小学生の頃に学校の図書室で少年少女向けのSF小説を読み、「現実とファンタジーとのあいだを行ったり来たりする感覚にものすごく魅せられてしまって」と回想。「最近読んだSF」としてアン・レッキーの『叛逆(はんぎゃく)航路』など、お気に入りの十数作をあげた。
 一方の森見さんは「僕らが子どものときには、上の世代の方々が作ったSF的なイメージが、アニメやマンガなど身の回りのフィクションに普通に入っていた」と振り返った。自作『四畳半神話大系』は並行世界の物語だが、「そもそも面白いなと思ったのは『ドラえもん』とかで刷り込まれてるからだと思うんですよね」。
 その上で、「僕の場合はSFというより、ファンタジーって言った方が楽になる。そこに行けば自由に何でも書けると思ったから日本ファンタジーノベル大賞に応募したので。萩尾さんにとってのSFも、そういう感じのものだったのかなと思います」と語った。
 萩尾さんは「私たちが生きてるこの世界は、世間の基準に合うように、ちゃんと良い子に育ちなさいと学校からも大人からも教育される。それはそれで大切なことですけど、そこから逃れたい気持ちもすごくたくさんあって。本当にここだけなの?世界ってここしかないの?っていうときに、SFやファンタジーが自分にとってすごい救いになる」と話した。(山崎聡)
    ◇
 「萩尾望都SF原画展」は神戸市東灘区の神戸ゆかりの美術館(078・858・1520)で11月5日まで。静岡県三島市北九州市にも巡回する。
    −−「作家LIVE ファンタジーって自由だ 萩尾望都×森見登美彦対談」、『朝日新聞』2017年09月24日(日)付。

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ファンタジーって自由だ 萩尾望都×森見登美彦対談|好書好日


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11人いる! (小学館文庫)
萩尾 望都
小学館
売り上げランキング: 10,500

覚え書:「社説 ヘイト対策 根絶へさらに歩みを」、『朝日新聞』2017年06月05日(月)付。

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社説 ヘイト対策 根絶へさらに歩みを
2017年6月5日

 朝鮮半島など国外にルーツがある人々に向けて「帰れ」「死ね」といった罵声をあびせ、社会からの排斥をあおる。こうした言動の解消を目指した「ヘイトスピーチ対策法」が施行され、3日で1年が経った。

 東京・新大久保や大阪・鶴橋をはじめ、多くの在日コリアンが生活する地域でのデモや街宣行動は減少傾向にある。川崎市大阪市では、差別をあおるデモを繰り返した団体や個人に、裁判所が一定範囲での活動を禁じる仮処分決定を出した。

 「不当な差別的言動は許されない」と明記した国の対策法ができた成果だといえよう。

 一方、ネットやSNS上では、匿名を隠れみのにした排外的な表現が後を絶たない。

 大阪のNPO法人・コリアNGOセンターには、今も「絶対に在日朝鮮人を日本から追い出す」と脅すメールが届く。

 日韓の歴史認識をめぐる摩擦や北朝鮮の核・ミサイル実験が報じられるたび、緊張を強いられる人々がいる。「韓国にお帰りください」といったメッセージが今も届くというフリーライターの李信恵(リシネ)さん(45)は「社会の根っこの偏見や差別意識は変わっていないと感じる。対策法という骨組みはできたが、肉付けはこれからです」と話す。

 対策法に罰則はもうけられていない。一方で同法は自治体に対し、相談窓口を置くことや人権教育の充実、啓発活動などの施策を、地域の実情に応じて講じるよう求めている。

 しかし集会を事前規制するガイドラインや、条例づくりの動きがあるのは川崎市名古屋市、神戸市などひと握りだ。自治体を後押しするためにも、国は定期的に実態調査し、手立てを示してほしい。居住地によって泣き寝入りを余儀なくされる人をうんではならない。

 全国で初めてヘイトスピーチ抑止条例をつくった大阪市は今月、在日コリアンに「ゴキブリ」「殺せ、殺せ」などと発言するデモの動画を「ヘイト」と認定し、内容や日時などを公表した。条例では投稿者の実名を公表できるが、動画投稿サイトの運営会社の協力が得られず、ネット上の呼称を公表した。

 今後、市は投稿者の実名を把握するために条例の改正も検討するという。実効ある抑止に向けた先行自治体の模索を、他の自治体も参考にしてほしい。

 大切なのは一人ひとりが、同様の言動を受けたらどんな風に感じるか、想像することだ。家庭や学校、職場で、社会的少数者の尊厳を傷つける言動を許さないという意思を共有したい。
    −−「社説 ヘイト対策 根絶へさらに歩みを」、『朝日新聞』2017年06月05日(月)付。

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http://www.asahi.com/articles/DA3S12972725.html





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