覚え書:「ザ・コラム 「圧政撲滅」の闘い 権力に声を上げるとき 駒野剛」、『朝日新聞』2017年07月27日(木)付。

Resize9086

        • -

ザ・コラム 「圧政撲滅」の闘い 権力に声を上げるとき 駒野剛
2017年7月27日

 7月初旬。ソバ畑はかれんな白い花が咲き競っていた。会津盆地北西に位置する福島県喜多方市を訪ねた。江戸期から明治初頭にかけて、侍の町、会津若松に対し、周辺の農産物の流通や隣国・越後(新潟県)との交易を担う商都として発展。いまも市街地を水田や畑が取り囲む商と農の地だ。

 そんな穏やかな風景の所々に「自由万才 圧政撲滅」の幟(のぼり)があがり、闘いの嵐が吹き荒れた時がある。明治15(1882)年、旧薩摩藩士、三島通庸(みちつね)が現在の知事に当たる福島県令に赴任してからである。

 「土木県令」の異名を持ち、道路や大型施設の建設を熱心に進めた。特に道路は経済発展の起爆剤だけでなく時代の変化を住民に示す役割を期待した。会津若松を中心に日光(栃木県)、新潟、米沢(山形県)3方面に延びる「三方道路」を打ち出す。

 費用の集め方が乱暴で強権的だった。会津地方6郡の住民の15歳以上60歳以下の男女に、毎月1日間、2年にわたり道路建設に就くことを求め、できないなら男は1日15銭、女も10銭の「代夫銭」を納めよ、と定めた。そればかりか工事開始前にも3カ月分の「代夫銭」の負担を命じた。米1升で5銭前後の当時、夫婦で75銭は重い。路線から遠い住民から反対の声が上がった。

 赴任の翌月、三島は「集会届出」を厳達。政治談義でない集まりも禁じた。政府も「集会条例」を改定、政党員の名簿提出を義務づけ、地方支部の設置を禁止した。福島の自由民権運動の拠点、自由党福島部は解消を余儀なくされる。聞く耳持たずの弾圧に、民衆は反発の火種を炎上させる。

 市北部の久山寺にゆく。史跡案内は「会津各村の総代七十四名が日没ころから会合して、自分達の権利を恢復(かいふく)し、幸福を保全することを盟約」「同盟に加わった四千八十三名には、一人十銭ずつの拠出を決め」「民意を無視して強行されつつある三方道路の開削を訴訟でくつがえそうとはかった」と記す。集会届出をかいくぐって集まった人たちの怒りと熱気が、今も伝わる。

 元県立喜多方高校教諭で自由民権運動の研究家、山崎四朗さん(76)は「寺は住民が集まって話し合う場でした。会津盆地の東西南北から代表が来ました」と話す。

 三島は反対派住民を拘束させ、代夫銭を拒む家の財産を差し押さえ競売にかけた。農民らは警察に財産保護願を出して抵抗したが、逆に誣告(ぶこく)罪で告発される始末。

 11月28日、捕らえられた農民を心配した人々が、逮捕の理由を問いただそうと、喜多方の南、弾正ケ原に集結。警察に向かうが、何者かの投石をきっかけに抜刀した警官が農民を襲い、暴力沙汰になる。事件を聞いた三島は「奸民(かんみん)乱暴セシニツイテハ好機会故(ゆえ)、関係ノモノ総(すべ)テ捕縛セヨ」と指令。和解や説得の余地は全くなかった。

     ◇

 三島と農民との対立の構図はその後も続く。三浦文次、横山信六、原利八の喜多方農民を含む急進的な活動家たちは、三島ら政府要人の暗殺を計画して途中で露見。明治17年9月、茨城県加波山武装蜂起するが逮捕される。三浦、横山は死刑、原も北海道空知の囚人収容施設で獄死する。

 喜多方市熱塩加納町曹洞宗示現寺の境内には「事件の意義と自由の魁(さきがけ)となった志士たちの遺徳や業績を偲(しの)び、今後の国づくりや地域づくりへの情熱が呼び起こされることを祈念」して、地元の有志が建てた彼ら3人の顕彰墓が残されている。

 彼らの遺族の一人にお会いした。仏間に志士の写真が掲げられていた。「権力者は自分たちの都合のいいように歴史を書いていく。それを私らがあきらめるか、反抗するか。自分にできるかどうかわからないが、いいところもあった彼らの思いや行いを、語り継いでいかねばならないと思います」と、静かだが確かな口調で話された。

     ◇

 私たちは、先人が理不尽な権力、強圧的な政治でも、ずっと従順に服してきたと思いがちだ。しかし最初から敵視し、人として尊重しない相手には、屈せず、抗(あらが)い闘った民衆がいたことを忘れてはならない。

 まっとうな批判もきちんと受け止めず、逆に「印象操作」と言いつのる権力者と三島がダブって見える。私たち、とりわけ新聞人はいまこそ、勇気を奮って、「ならぬものはならぬ」と声を上げる時である。

 (編集委員

 ◆ザ・コラムは毎週木曜日に掲載します。
    −−「ザ・コラム 「圧政撲滅」の闘い 権力に声を上げるとき 駒野剛」、『朝日新聞』2017年07月27日(木)付。

        • -



http://www.asahi.com/articles/DA3S13057562.html


Resize9073


Resize8057

覚え書:「一句頂一万句 [著]劉震雲 / パリに終わりはこない [著]エンリーケ・ビラ=マタス [評者]円城塔  (作家)」、『朝日新聞』2017年10月29日(日)付。

Resize9087


        • -

一句頂一万句 [著]劉震雲 / パリに終わりはこない [著]エンリーケ・ビラ=マタス
[評者]円城塔  (作家)
[掲載]2017年10月29日

■朴訥と技巧、対照的な笑い

 笑いのない人生はつらいが、自分の人生が面白いものかどうかは、当人には意外にわからない。ひどくまじめでいることがこっけいにみえ、ただぼんやりとしていることがかしこい選択であったりする。笑いにはどこかななめのところがある。
 泣ける話はだれでもできるが、笑える話はむずかしい。笑いはやはり繊細で、語り方とも密接に結びついている。
 劉震雲の『一句頂一万句』は、一万言を語った末の一言というくらいの意味らしい。しゃべれどもしゃべれども一向に意の通じない生活を淡々と描く。
 途中で70年をはさむ2部構成だが、それだけの時が流れてなお、人々は似たようなことで悩み続けて、似たような話を続けている。分厚い本をなすほど話し続けても全然何もかわらないのは悲劇であるが、人の生が悲劇であるという事実は即座に喜劇に転じうる。簡潔にすぎる文章を小石のように積み上げていく劉震雲の文章がそこに笑いを生み出していく。
 誰々はなになにである。なになにといっても、なにそれもする。どれそれはしない、といった風な、肯定と否定が朴訥(ぼくとつ)にひたすら並んでいく。そこで語られるできごとと同様、文章もまた、意味を通じきれずに困惑しているといった感じがおかしい。
 エンリーケ・ビラ=マタスの『パリに終わりはこない』は対照的に、技巧の限りを尽くした一冊である。まずこの小説はアイロニーについての講演の原稿でもあるということでありややこしい。そこで語られているのは自分のパリでの作家修業時代。その頃のパリには有名な作家がうようよしており、日常を記していくだけで、ひとつの文学史ができあがる。さらにこの修業時代に彼は、自分の第一作となるはずの「教養ある女暗殺者」なる小説を書こうとしており、それは、その本を読んだ者が死んでしまうことを目指した話であったりする。全体が引用でいろどられ、現実とほらが混じりあった構成はどう読んだって疲れてくるが、ひどくおかしい。だいたい、「教養ある女暗殺者」ってなんだ。
 作者は冒頭部でも「作家アーネスト・ヘミングウェイそっくりさんコンテスト」に参加して失格になった話をはじめたり、まあ、やりたい放題である。周囲の皆に似ていないといわれても、ヘミングウェイと同程度の文学的才能を自負するなら、そっくりさんコンテストにだって入賞できるはずだ、といったあたりか。
 自らを笑うことは難しい。その姿に嫌みが残ることもあり、しかしその嫌みがひどくおかしくみえたりもする。まっすぐに笑うことは大難事である。
    ◇
 リュウ・シンウン 58年、中国生まれ。作家。『盗みは人のためならず』『温故一九四二』など▽Enrique Vila−Matas 48年、スペイン生まれ。作家。『バートルビーと仲間たち』『ポータブル文学小史』
    −−「一句頂一万句 [著]劉震雲 / パリに終わりはこない [著]エンリーケ・ビラ=マタス [評者]円城塔  (作家)」、『朝日新聞』2017年10月29日(日)付。

        • -




http://book.asahi.com/reviews/reviewer/2017102900004.html



Resize8058


一句頂一万句
一句頂一万句
posted with amazlet at 17.12.16
劉 震雲
彩流社
売り上げランキング: 789,827


パリに終わりはこない
エンリーケ ビラ=マタス
河出書房新社
売り上げランキング: 413,279

覚え書:「ゴースト [著]中島京子 [評者]横尾忠則(美術家)」、『朝日新聞』2017年10月29日(日)付。

Resize9088

        • -

ゴースト [著]中島京子
[評者]横尾忠則(美術家)
[掲載]2017年10月29日


■今もひっそり、「そこ」にいる

 文豪の怪談小説は別として現代小説のこの手の本は初めてです。怪談の醍醐味(だいごみ)はジトッと濡(ぬ)れてジワーッと足音もなくひたひたと近づくあの見えない恐怖です。死者が生きていることの恐怖です。息も絶え、血も凍り、筋肉も硬直した死者が精神活動をしながら生きているその存在が幽霊なんでしょ? 本書では「ゴースト」です。
 『ゴースト』は死者が成仏できないまま生前の姿になって、この世に迷い出て、生者に怨念を晴らすというような、前近代的な因果応報のヒュードロドロ物語ではありません。恐ろしくも怖くもない現代のゴースト物語集です。都市から幽霊が消滅したのではなく今もひっそり「そこ」にいるのです。でもわれわれの心が巧妙に擬態しているために「それ」が見えないのです。ではなぜ「それ」が「そこ」にいるのかというと彼等(かれら)は話を聞いてもらいたいのです。本書ではそんな「それ」が頁(ページ)の隅々から語りかけてきます。「それ」が幽霊だと主張してもなかなか認められない。だからソーッとドアを開けて「不安定な足元をよろつかせながら」最後は消えていくのです。彼らにとってはこちらもあちらもないあの泉鏡花の中間世界〈たそがれ〉の中に消えるしかないのです。
 第一話の男Wは幽霊と会っていても、自分が認識できない。一軒の家を訪ねる度に三人の女に会うが、それは一人の幽霊で、少女期や初老期など異なる年齢の姿で現れるのです。最後に訪ねた時、その家は跡形もなかった。「おっ!」怪談の伝統が生きてるじゃん。あの上田秋成の「浅茅(あさじ)が宿」です。と同時に佐藤春夫の「文学の極意は怪談である」云々(うんぬん)が想起されます。
 『ゴースト』は、日常をビジュアルに細部まで描きながら、カラリと乾いたサラリとした空気感のある文体で「ゴースト」をやや寂しい姿に描いてますが、本書の読者には見えざる彼等の存在がきっと脳内視できるんじゃないでしょうか。
    ◇
 なかじま・きょうこ 64年生まれ。作家。10年に『小さいおうち』で直木賞。『かたづの!』『長いお別れ』など。
    −−「ゴースト [著]中島京子 [評者]横尾忠則(美術家)」、『朝日新聞』2017年10月29日(日)付。

        • -





http://book.asahi.com/reviews/reviewer/2017102900005.html








Resize8059



ゴースト
ゴースト
posted with amazlet at 17.12.16
中島京子
朝日新聞出版 (2017-08-07)
売り上げランキング: 108,067

覚え書:「中原中也—沈黙の音楽 [著]佐々木幹郎 [評者]蜂飼耳(詩人・作家)」、『朝日新聞』2017年10月29日(日)付。

Resize9089

        • -

中原中也—沈黙の音楽 [著]佐々木幹郎
[評者]蜂飼耳(詩人・作家)
[掲載]2017年10月29日


■日本語の「歌」、実作者の目から

 中原中也における「歌」の問題を、本書は詩と詩集(『山羊の歌』『在りし日の歌』)の生成過程を独自の見方で追うことにより、従来にないレベルで解き明かす。中也や詩になじみのない読者にも、詩の好きな読者にも、それぞれに反応できる位相で記述が展開されている点が魅力だ。
 中也の生涯と時代背景にも触れることができる入門的な面を充分に具(そな)えている一方で、精緻(せいち)で専門的な分析が最新の中也研究の視点をひろく伝える。本書の論には、現代の日本語で詩を読み書きすることの根底にあるさまざまな問題、つまりリズムや音律的な特徴を捉え、これからの詩を考える上で大事な論点がいくつも含まれている。その意味で、詩のみならず、日本語による表現全般に及ぶ論の糸口が示されている。
 とりわけ重要で興味深い箇所は、冒頭にも書いた「歌」をめぐる分析だ。といっても、短歌や歌唱のことでなく、〈文字の上で成立する「歌」と「声」〉を指す。著者は、同時代の詩人・批評家の岩野泡鳴による評論や発想に、まるで共鳴するように、中也の詩がかたちを成していったと論じる。新しい指摘であり、説得力がある。
 たとえば詩「曇天」の分かち書き(字間をあける書き方)の方法に、泡鳴の影響を見る。中也は〈日本の詩語のなかに、文字化されることによって削り取られてしまった身体的なリズムを回復しようとしていた〉という。歌唱や朗読とは別問題。あくまでも、書かれた詩が含み持つ「歌」であり、リフレイン(繰り返し)やリズムが生み出す力に中也が鋭く反応したことを、著者は詩の実作者としての目線で把握する。
 著者が編集委員であった『新編中原中也全集』刊行以降に発見された新資料などからも考察は柔軟にひろげられ、いまもなお新たにされつつある中原中也像がいきいきと示される。詩人・佐々木幹郎だからこそ可能となった本書の姿だ。
    ◇
 ささき・みきろう 47年生まれ。詩集『明日』で萩原朔太郎賞、評論『中原中也』でサントリー学芸賞
    −−「中原中也—沈黙の音楽 [著]佐々木幹郎 [評者]蜂飼耳(詩人・作家)」、『朝日新聞』2017年10月29日(日)付。

        • -





http://book.asahi.com/reviews/reviewer/2017102900006.html


Resize8060




中原中也——沈黙の音楽 (岩波新書)
佐々木 幹郎
岩波書店
売り上げランキング: 9,549

覚え書:「折々のことば:822 鷲田清一」、『朝日新聞』2017年07月24日(月)付。

Resize9090

        • -

折々のことば:822 鷲田清一
2017年7月24日

 怪しんで殺(あや)める前に、誤りを避けることこそ、大事ではないか。

 (中西進

     ◇

 「怪しむ」「殺める」、そして「誤」と「謝」、二つの「あやまる」。ものの模様や筋目を意味する「あや」がいずれの語にも含まれている。これらは、ものの筋目が歪(ゆが)むという危うい事態、もしくはその解消を意を意味する語群なのかも。誤れば謝る、誤っていなければ謝らない。詭弁や言い逃れ、糾弾より先にこの節目を守るべきと国文学者は言う。随想「誤ると謝る」(「潮」8月号)から。
    −−「折々のことば:822 鷲田清一」、『朝日新聞』2017年07月24日(月)付。

        • -


http://www.asahi.com/articles/DA3S13052617.html





Resize9074

Resize8061

日記:生活保護費を抑制してまでも軍拡に邁進する公営党。平和・福祉・教育などもはやどこ吹く風。










        • -

河北新報 電子版
2017年12月19日火曜日

<北ミサイル>地上イージス配備反対請願 秋田市議会不採択へ
 北朝鮮からの弾道ミサイル防衛(BMD)に当たる地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の配備候補地に秋田市陸上自衛隊新屋演習場が含まれていることに関し、同市議会総務委員会は18日、市民団体から出された同市への配備反対を求める請願を賛成少数で不採択とした。22日の本会議で正式に不採択となる見通し。
 請願は「おかしいことをおかしいと言う会」(佐藤尚武代表世話人)が提出。総務委の委員長を除く委員8人のうち、与党最大会派の秋水会や公明党などの5人が「配備は国が決めること」などと採択に反対。賛成した3人は「市民の不安やリスクに応えきれない」などと主張した。
 秋水会の鎌田修悦会長は取材に「迎撃装置があれば市民の安心材料になる。(秋田市への配備は)喜ぶべきことだ」と話した。
 総務委は、「イージス・アショア配備問題の真相解明を求める新屋住民の会」(佐藤信哉代表)が提出した配備に関する情報開示を求める陳情も審議。賛成4、反対4と同数になり、委員長裁決で不採択となった。

        • -

<北ミサイル>地上イージス配備反対請願 秋田市議会不採択へ | 河北新報オンラインニュース

        • -

責任ある安全保障
公明新聞:2017年10月3日(火)付

Q&A 国民守る自公政権

衆院選公示(10日)まで1週間。与野党政策論争に国民の注目が集まっています。特に安全保障に関しては、北朝鮮の核とミサイルが現実の脅威となっている現在、責任ある政策が求められています。自公政権が進めた平和安全法制の整備がどう役立っているか、また、7月に国連で採択された核兵器禁止条約の評価についてQ&Aで解説します。

Q 平和安全法制で安心か?
A 日米協力が進み、北朝鮮のミサイル対処にも役立つ
Q 自公政権が整備を進めた平和安全法制(2015年成立、16年施行)は北朝鮮弾道ミサイル対処に役立っているのか?

A もちろん、役立っています。核開発をやめず弾道ミサイルの発射を繰り返す北朝鮮は、日本にとって現実の脅威です。弾道ミサイル対処に必要な任務は、発射を即座に探知して軌道計算をし、着弾地点を判断する警戒監視です。これは日米協力が前提で、特に日本海では、両国のイージス艦が平時から警戒監視を続けています。

Q 平時であっても、仮に、警戒監視中の米艦が攻撃された場合、自衛隊はどうするのか?

A 平和安全法制が整備される前は、平時に自衛隊が米艦を守ることは許されませんでした。

しかし、平和安全法制によって、平時でも自衛隊と連携して日本防衛のために現に従事している米軍の武器であれば、自衛隊が防護できるようになりました。

Q それ以外の協力は?

A 弾道ミサイル監視中の自衛艦と共に、同じ活動をしている米軍に給油が可能になりました。公明党山口那津男代表は「日米がしっかり連携できているからこそ、北朝鮮にしっかり向かっていける」(党ホームページ動画から)と述べています。

Q 海外で戦争をするのか?
A できません。憲法専守防衛で国民の安全を守る
Q 一部野党は今も平和安全法制を憲法違反の戦争法と批判しているが。

A 国民を守る平和安全法制を戦争法というのは誤りです。憲法9条は日本防衛に限って、例外的に「自衛の措置」である武力行使自衛隊に認めています。これが政府の憲法解釈であり、専守防衛と呼ばれる政策です。平和安全法制も専守防衛の範囲内であり、他国のために武力行使をする海外派兵はできません。

Q 平和安全法制の整備によって、日米同盟はどうなったか?

A 日米同盟の信頼性は向上しました。先に紹介した米艦防護や給油など、平時から有事まで隙間なく日米協力ができる体制がつくられました。国際医療福祉大学の川上和久教授は「今日の状況を見ると、平和安全法制は正しい政策だったということが今、証明されている」(党ホームページ動画から)と述べています。

また、米国、韓国など日本と密接な関係にある他国への武力攻撃が発生し、日本も対処しなければ日本が攻撃を受けたと同様の被害が及ぶことが明らかな場合も想定できます。その場合、日本への武力攻撃の発生を待たずに「自衛の措置」をとれるようにしました。

ただし、「わが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合」に限られます。あくまで専守防衛の範囲内です。

Q 核禁止条約の評価は?
A 「核は違法」の規範確立。廃絶には核軍縮が不可欠
Q 国連で7月に採択された核兵器禁止条約(核禁条約)の評価は?

A 「非人道的兵器の禁止」という国際的潮流の中で特別扱いされてきた核兵器に対し、「違法」との規範が確立されました。核廃絶への大きな一歩になると公明党は評価しています。

Q 核廃絶は実現するか?

A 核保有国と、その「核の傘」に安全保障を依存している日本や韓国、オーストラリア、そして北大西洋条約機構NATO)の国々は核禁条約に加盟しない方針です。このままでは核廃絶の見通しは立ちません。

Q 加盟反対の理由は?

A 核保有国は、核開発を続ける北朝鮮の存在など安全保障環境が厳しいため、核保有によって相手の核攻撃を阻止する核抑止は必要との考えです。そして、核不拡散と核軍縮を着実に進め国際情勢を改善しながら一歩一歩、核廃絶に向かうべきと訴えています。

Q 核廃絶への課題は?

A 核禁条約を後押しした反核NGOも条約が到達点ではないとの立場です。核廃絶の実現には核保有国と非保有国の対話が不可欠です。

日本はその橋渡し役として、双方の有識者による賢人会議の開催を決め、具体的な核軍縮のあり方について議論を進めます。公明党反核NGOと連携して核廃絶の実現に努力します。

責任ある安全保障 | ニュース | 公明党




Resize8673

覚え書:「大人のための社会科—未来を語るために [著]井手英策・宇野重規・坂井豊貴・松沢裕作 [評者]野矢茂樹(東大教授)」、『朝日新聞』2017年10月29日(日)付。

Resize9092


        • -

大人のための社会科—未来を語るために [著]井手英策・宇野重規・坂井豊貴・松沢裕作
[評者]野矢茂樹(東大教授)
[掲載]2017年10月29日

[ジャンル]政治 社会

■「どこかおかしい」を解き明かす

 「現代社会の基礎知識を教えてくれる本かな」
 「そう思っちゃうよね。表紙しか見てないだろ」
 「いや、目次もちょっとは見たさ。第1章は『GDP』。ちゃんとは分かってないから、教えてもらえるとありがたい」
 「だから、そういう早分かりの本じゃないんだよ」
 「違うの?」
 「いまの社会って、どこかおかしくなってるだろ?ぼくらが感じているその漠然とした違和感の正体を、この本は解き明かそうとしているんだ」
 「目次を見ると、最後の章が『希望』とあるね」
 「そう。それがこの本のポイントだな」
 「未来は明るいぞって教えてくれるの?」
 「いや、そうじゃない。社会科学って、未来を予測してくれるようなイメージがあるけど、この本がめざしているのは将来の日本を予測することじゃない。未来はどうなるか分からない。だけど、私たちはきっとそれをいい方向に変えていける。つらい道かもしれないけれど、変えることができるという信念。これが『希望』だ。
 いまの日本の何が問題なのか、どうしてそういう問題が生じたのかをはっきりさせる。そうして希望をもつための足場を作ろうとしているんだ」
 「なるほど、『GDP』の章も、GDPとは何かを説明するというより、GDPを指標にして社会を評価することの問題点が論じられるわけだ」
 「そう。四人の専門家たちがそれぞれの視点から現代社会の問題を取り上げている。しかもね、読んでいるとひんぱんに他の章が引き合いに出される」
 「どういうこと?」
 「たんに原稿を寄せ集めたんじゃないってことさ。四人が議論を重ねて、お互いの考えを熟知した上で、書かれている」
 「そうか。表紙とタイトルを見ただけじゃ分からないな。読んでみるよ。希望をもつためにも、ね」
    ◇
 いで・えいさく 慶大教授/うの・しげき 東大教授/さかい・とよたか 慶大教授/まつざわ・ゆうさく 慶大准教授
    −−「大人のための社会科—未来を語るために [著]井手英策・宇野重規・坂井豊貴・松沢裕作 [評者]野矢茂樹(東大教授)」、『朝日新聞』2017年10月29日(日)付。

        • -




http://book.asahi.com/reviews/reviewer/2017102900007.html



Resize8674


大人のための社会科 -- 未来を語るために
井手 英策 宇野 重規 坂井 豊貴 松沢 裕作
有斐閣
売り上げランキング: 2,883

覚え書:「吹奏楽の神様 屋比久勲を見つめて—叱らぬ先生の出会いと軌跡 [著]山崎正彦 [評者]斎藤美奈子(文芸評論家)」、『朝日新聞』2017年10月29日(日)付。

Resize9092_2

        • -

吹奏楽の神様 屋比久勲を見つめて—叱らぬ先生の出会いと軌跡 [著]山崎正
[評者]斎藤美奈子(文芸評論家)
[掲載]2017年10月29日

 高名なジャズトランペッターが舞台上で中学生のドラマーを往復ビンタした、と報じられたのは2カ月ほど前。スポーツや音楽の場においてスパルタ教育が必要だという意見は今も根強い。が、その対極にある指導法があるとしたら?
 本書は沖縄の中学や鹿児島の高校の吹奏楽部を何度も全国大会金賞に導いた屋比久勲の5年間を追ったノンフィクションだ。
 屋比久の指導方針は叱らないこと。「その高音はまだ綺麗(きれい)じゃないね。先生も明日までに別の練習方法を考えてくるから、あなたも考えて」などの言葉で生徒たちに語りかける。
 沖縄で教師をしながら神戸に通って朝比奈隆に指揮を習った屋比久は、師の教え通りわかりやすい指導に徹し、叱るかわりに生徒たちに考えさせる。そこから生まれた奇跡の音色!
 3人でスタートした九州情報大学吹奏楽部は49名に増え、2年で全国大会銀賞に輝いた。部活のひとつの理想型を見た気がする。
    −−「吹奏楽の神様 屋比久勲を見つめて—叱らぬ先生の出会いと軌跡 [著]山崎正彦 [評者]斎藤美奈子(文芸評論家)」、『朝日新聞』2017年10月29日(日)付。

        • -





http://book.asahi.com/reviews/reviewer/2017102900008.html








Resize8675


吹奏楽の神様 屋比久勲を見つめて −叱らぬ先生の出会いと軌跡
山 正彦
スタイルノート (2017-09-21)
売り上げランキング: 48,449

覚え書:「ギガマネー 巨大資金の闇—富の支配者たちを狙え [著]太田康夫 [評者]市田隆(本社編集委員)」、『朝日新聞』2017年10月29日(日)付。

Resize9093

        • -

ギガマネー 巨大資金の闇—富の支配者たちを狙え [著]太田康夫
[評者]市田隆(本社編集委員)
[掲載]2017年10月29日

 プライベートバンキングと呼ばれる富裕層向け金融業務の実態に迫った本書で、富の集中のすさまじさを知った。世界の全資産の半分近くを資産1億円以上の富裕層が占め、米国などで1千億円以上の大金持ちが増加。世界の金融機関が富裕層の資産管理、運用で競争を繰り広げる様を長年の取材蓄積を生かして活写しており、引き込まれた。
 「お金を隠したい」要望が強い富裕層のためにタックスヘイブンを利用する脱税を手助けした金融機関の暗部や、その問題を重視した国際社会の規制強化についても内容が濃く、わかりやすい。著者はモラルなき利益追求をしてきた業界体質を批判。「犯罪幇助(ほうじょ)による、規模拡大はもはや認められない」とし、「より規律を効かした業務運営への転換」を金融ジャーナリストとして提言している。
 この金融業務では「周回遅れ」だった日本の状況にも触れており、富裕層マネーをめぐる全体像を知りたい読者に適した一冊だ。
    −−「ギガマネー 巨大資金の闇—富の支配者たちを狙え [著]太田康夫 [評者]市田隆(本社編集委員)」、『朝日新聞』2017年10月29日(日)付。

        • -





http://book.asahi.com/reviews/reviewer/2017102900009.html


Resize8676




覚え書:「論壇時評 人間と機械 AIが絶対できないこと 歴史社会学者・小熊英二」、『朝日新聞』2017年07月27日(木)付。

Resize9094

        • -

論壇時評 人間と機械 AIが絶対できないこと 歴史社会学者・小熊英二
2017年7月27日

小熊英二さん=竹花徹朗撮影

 将棋の藤井聡太四段は、AI(人工知能)に勝てるだろうか。そもそもAIは何ができて、何ができないのか。

論壇委員が選ぶ今月の3点(2017年7月・詳報)
 将棋AI「ポナンザ」の開発に携わった井口圭一は、「機械学習と人間の差はまだ大きい」という〈1〉。いま存在しているAIは「特化型」と呼ばれ、用途が限定的だ。将棋AIにベンチャー投資はできないし、新しいゲームを開発することもできない。幅広い分野で自律的に課題を発見・解決できる「汎用(はんよう)型」AIは、実現の見通しが立っていない。

 それでは、現状レベルのAIでも、導入すれば経済が成長するだろうか。東大合格をめざすAI開発で知られる新井紀子は「AIで生産性を上げれば経済が成長する、というのは誤解です」という〈2〉。AIで労働コストを削減し、それで生産性を上げることはできる。だが「それそのものは新しい価値や需要を生み出しません」というのだ。

 それはなぜか。理由の一つは、今のAIが、一定の枠内で収集された過去のデータを学習するだけのものだからだ。

 一例をあげよう。来店客の購買データをAIで解析し、品ぞろえの効率化をしたとする。だが過去の来店客のデータを解析しても、「店に来たことのない客」や「未来の新製品への反応」はわからない。そうである以上、「固定客にもっと買わせる品ぞろえ」はできるだろうが、顧客の新規開拓や、新製品の開発には直結しない。結果的に、需要や価値を新しく生むことにはつながりにくいのだ。

 いわば現行のAIは、保守的な性格を持つともいえる。「イノベーション」を説明する例え話として、「馬車をいくらつないでも鉄道にはならない」というものがある。それと同様に、馬車のビッグデータをAIに学習させても、鉄道の発明には直結しない。むしろそれは、馬車の改良を促してしまうだろう。

 もちろん人間は、歴史を学ぶことで、未来を革新できる。だがそのためには、過去のデータから、統計的に例外でも重要な事例に着目し、価値を与えることが必要だ。そういうことは、AIにはできない。AIにできるのは、過去の延長で未来を予測することだけだ。

 雇用問題専門誌「POSSE」は、AIによる労務管理が普及すれば、かえって古い「日本型雇用」が強化されると指摘する〈3〉。過去のデータから人事評価基準を作れば、従来型の働き方をしている社員の方が、高く評価される人事システムができるだろうからだ。

 AIに変革はできない。AIが得意なのは、従来の構造を維持したまま、コストを削ることだ。最悪の場合、AIで労働コストを削ることによって、古い産業や無能な経営者が延命するだろう。

 今野晴貴は、低賃金で維持されている小売りチェーンなどの低生産性部門が、現状のままAIを導入した姿をこう想定する〈4〉。数人の社員が、多数の無人店舗を管理するべく長時間働き、「労働は減るが、長時間労働は減らない」という状態になるだろうと。これでは、失業とデフレと過労死が併存するだけだ。

     *

 つまり問題はこうだ。AIそのものは新しい価値や成長を生み出すわけではない。イノベーションを起こすには、新しい価値や、社会制度の変革が必要だ。だがそれは、人間にしかできない。

 「人間はAIに勝てるか」という問いがある。だが実は、人間は昔から機械に負けている。自動車より早く走れる人はいない。しかしそのことで、「人間は自動車に負けた」と嘆く人はいない。それは、自動車を人間の補助として使いこなせるように、社会のあり方を革新(イノベーション)したからだ。人間が機械に勝てるとすれば、機械と競争することによってではなく、機械と共存できるように社会を革新することによってである。

 AIについても共存の方向で社会を変える試みがある。米マサチューセッツ工科大教授のダニエラ・ラスは、自動運転でトラック運転手の仕事をなくすより、運転手が疲労や睡魔に襲われた際の安全装備として自動運転を使う方が現実的だと唱えた〈5〉。ドイツの労組は、政府や経済界と共同して、AI導入に備えた職業訓練制度を提起している〈6〉。

     *

 この点で日本は対応が遅れぎみだ。前述の新井は、政府の態度をこう評した。「AIですごいイノベーションを起こせば逆転満塁ホームランが打てるという青写真を描こうとしている」〈2〉。新井によれば、事務職の仕事の2割がAIに代替可能と予測され、人々を新しい職に移行させる能力開発と、貧困に起因する教育劣化への対策が急務だ。それなのに政府は、地道な対策に取り組むよりも、「『ここは機械にホームランを打ってもらおう』と考える。これが今のAIブームを支えている」という。

 新技術の導入だけで経済が成長するなどという期待は、高度成長への誤解に基づくノスタルジーにすぎない。古い社会や古い政治を延命するためにAIを使えば、多くの人が犠牲になる。それこそ、「人間がAIに負ける」という事態にほからならない。そうではなく、AIと共存できる社会に変えていくために、人間にしかない英知を使うべきだ。

 なお冒頭の「藤井四段はAIに勝てるか」の答えはこうだ。彼はAIに勝とうとしていない。AIを相手に練習し、AIを自分を磨く道具にした。まるで、自動車と競争するのでなく、自動車を使いこなすべく社会を変えた人々のように。

     *

 〈1〉記事「期待、失望、そして……AIの未来」(週刊東洋経済7月8日号)

 〈2〉新井紀子 インタビュー「すべてが劣化する日本で『AIで一発逆転』は幻想」(同)

 〈3〉覆面座談会「AIで、日本の労働、社会はどう変わるのか」(POSSE・第33号、2016年12月)

 〈4〉今野晴貴「AIと労働についての検討」(同)

 〈5〉ダニエラ・ラスほか 討議「人工知能と雇用の未来」(フォーリン・アフェアーズ・リポート1月号)

 〈6〉熊谷徹「ドイツ労組 『製造のデジタル化』に積極関与 職業訓練と研修で主導権」(週刊エコノミスト6月27日号)

     ◇

 おぐま・えいじ 1962年生まれ。慶応大学教授。『生きて帰ってきた男』で小林秀雄賞、『社会を変えるには』で新書大賞、『〈民主〉と〈愛国〉』で大佛次郎論壇賞など、受賞多数。
    −−「論壇時評 人間と機械 AIが絶対できないこと 歴史社会学者・小熊英二」、『朝日新聞』2017年07月27日(木)付。

        • -


http://www.asahi.com/articles/DA3S13057550.html





Resize9075

Resize8677