覚え書:「松尾貴史のちょっと違和感 「辞めろ」コールに敵意むき出し 街頭演説で市民煽る「裸の王様」」、『朝日新聞』2017年07月09日(日)付日曜くらぶ。

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松尾貴史のちょっと違和感
「辞めろ」コールに敵意むき出し 街頭演説で市民煽る「裸の王様」

2017年7月9日 日曜くらぶ
 
松尾貴史さん作
 
 今回の東京都議選で、投票用紙に「小池百合子」と書いて無効になった票が何枚あったのかが知りたいところだ。そして選挙が終わった途端に、その小池都知事は「都民ファーストの会」代表を辞して野田数氏と交代するという。政治経験のない初当選組に対する「育児放棄」と言った人がいたが、言い得て妙である。

 安倍晋三総理大臣が選挙の期間中で、たった一度だけ「ホーム」的な扱いの秋葉原で街頭演説を行った。瓦解(がかい)の始まりなのか、驕(おご)りによる緩みなのか、次から次へ泉のように湧いてくる、下劣な行為、不祥事、疑惑、不誠実な対応に、国民の鬱憤とわだかまりが充満している中で、裸の王様に国民の反発をお見せすることを忌避しようということか、それとも本人が逃げたのか、尾籠(びろう)な言い方だが最後っ屁のような形で選挙戦最終日に初めて街頭演説に立った。

 前回の都議選では、大歓迎のムードだった成功体験があっての場所選びだったのだろう。ところが、今回は思惑通りにはいかなかった。詰め掛けた群衆が、「安倍は辞めろ!」コール、「帰れ!帰れ!」コールが渦巻き、安倍氏の演説中一切やむことがなかった。猪瀬直樹・元都知事ツイッターで、この「安倍辞めろ」コールをした人々について、特定の党が動員したという見方を流していたが、そんな動員をする余力があるならば自党候補の最後の応援にいそしむのではないか。

 大きな横断幕に「安倍辞めろ」と大書されたメッセージは、すかさず「自民党」の青いのぼりで、さながら大相撲のお茶漬けのりの銘柄の懸賞がずらりと並ぶように、「安倍様」からは見えないように隠されていた。もちろん、そんな姑息(こそく)な行為は全て新聞やテレビで露呈してしまっているのだが。

 ここでも「安倍晋三節」が本領を発揮した。「演説を邪魔するような行為を自民党は決してしない」と主張したのだ。もちろん、この日安倍氏に異を唱える声を上げていたのは、安倍氏のやらかしている悪政に我慢ができず、矢も盾もたまらず集まった市民なのであって、自民党支持者も含まれていたかもしれない。ご本人は他人に「するな」と言っているのに、またもやその人たちを指さして「こんな人たちに負けるわけにはいかないんです!」と叫んだ。

 「謙虚」だ「反省」だと言葉は並ぶが、そんな誠意などみじんも感じさせない狼藉(ろうぜき)である。国民が声を上げる場所がないからこそ、声の届くところで異を唱えて心から叫んでいるのに、敵意と憎悪を煽(あお)るしかやることがないようだ。同じ演説で「憎悪や誹謗(ひぼう)中傷からは何も生まれない」とも言っていたが、その台詞(せりふ)は自らに向けるべきだろう。

 路上から声を上げている人々と、この国の最高権力を保持している者とは立場が違う。しかし、安倍氏の中には、「主権在民」という理念など目の上のたんこぶなのだろう。だからこそ、乱暴な手法であれ憲法を変えてしまいたいのだ。

 そんな安倍氏に対して、ようやく不支持の国民が多数派となった。自民党に逆風が吹いた、などという人がいるが、有権者の心が自民党から離れたのが自然現象であるかのように例えるのはおかしいと思う。受け皿と機会さえあれば、いつでもその意思表示はできるということがよくわかった選挙だったのではないか。

 国政では、野党第1党の重職にも、与党から転落させた張本人が(本稿の執筆時点で)居座り続けている。任命した党の代表にとっては恩人なのか盟友なのか世話になった人なのかは知らないが、そんな体制では安倍氏が組んでいるお友達体制のことを批判できるのか。政権を奪取したいと思っているであろうに、「適材適所」の人事ができないのであれば、政権担当能力を疑われるだろうし、同じようなものなら今のままでいいと思われてしまうのではないか。(放送タレント、イラストも)
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