覚え書:「社説余滴 核のごみ処分地の選び方 行方史郎」、『朝日新聞』2017年08月25日(金)付。


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社説余滴 核のごみ処分地の選び方 行方史郎
2017年8月25日

科学・医療社説担当、行方史郎

 原発の使用済み燃料から出る高レベル放射性廃棄物の最終処分地をめぐる「科学的特性マップ」が公表された。

 処分地選定までの調査の進め方について、国の資料にはこう書かれている。

 「地元自治体の意見を聴き、これを十分に尊重する(反対の場合には次の段階へ進まない)。」

 2000年にできた「最終処分法」によると、調査には「文献」「概要」「精密」の3段階があり、順を追って進められる。経済産業省資源エネルギー庁が地域支援作を紹介したサイトには「反対の場合には次に進めない」と、そこだけ赤字で書いてある。

 ただ、それは法律に明記されているわけではない。

 条文には「(経産相が)概要調査地を定めようとするときは、知事及び市町村長の意見を聴き、これを十分に尊重してしなければならない」とあるだけだ。

 「次に進めない」の根拠とされるのは、法成立時の国会答弁とその後の閣議決定だ。

 00年5月の国会議事録によると「十分に尊重」の解釈について、当時のエネ庁長官と通産相が「知事及び市町村長が反対の意見を示している状況においては、選定は行われないものと考えている」という答弁書閣議決定した。

 とはいえ、ここで言うのは概要調査についてだ。少なくとも法的には文献調査は知事と市町村長の同意なしでも実施できる。そして仮に地元住民が反対しても、首長らが反対しなければ、合法的に次の調査に進むことも可能だ。

 文献調査を受け容れた自治体には最大20億円、概要調査なら最大70億円の交付金が入る。調査の結果、自然条件面で「問題なし」とされれば、首長らが反対と言いにくくなる場合もありうるだろう。

 2年前に閣議決定された新たな基本方針では「国が全面に立って取り組み、調査への協力を自治体に申し入れる」とされた。だが、厳罰を推進する経産省のやり方で、地元住民の理解を得られるかは疑問だ。処分地の確保が原発推進の口実にされかねないからだ。

 地元の理解が十分に得られない時、国が全面に立てば、それは反対を押し切る危うさにつながりかねない。そのことは心にとめておきたい。(科学・医療社説担当)
    −−「社説余滴 核のごみ処分地の選び方 行方史郎」、『朝日新聞』2017年08月25日(金)付。

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(社説余滴)核のごみ処分地の選び方 行方史郎:朝日新聞デジタル

http://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/nuclear/rw/gaiyo/gaiyo03.html



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覚え書:「文庫この新刊! 辻山良雄が薦める文庫この新刊!」、『朝日新聞』2018年01月14日(日)付。


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文庫この新刊! 辻山良雄が薦める文庫この新刊!

文庫この新刊!
辻山良雄が薦める文庫この新刊!
2018年01月14日
 (1)『アンネの童話』 アンネ・フランク著 中川李枝子訳 酒井駒子絵 文春文庫 767円
 (2)『歴史の話 日本史を問いなおす』 網野善彦鶴見俊輔著 朝日文庫 670円
 (3)『増補 書店不屈宣言』 田口久美子著 ちくま文庫 842円
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 (1)その時の世界が閉じたものであったとしても、言葉はそれを超えることが出来る。アンネ・フランクは隠れ家生活のなかで、日記以外にも、童話やエッセイを書き記していた。残された言葉は、少女の持っていた意志の強さと、子どもらしい純真さが混じり合い、いま読んでも、小さな光を放っている。
 (2)既成概念を疑い、違う角度からものを眺めてみるだけで、単一の視点からは生まれない豊穣(ほうじょう)な世界が広がる。歴史家と哲学者が生涯にわたり示したのは、その見かたではなかったか。「日本人」「国家」とは何かという、硬直しがちな問題に対し、柔らかな姿勢をもって考える。その対話の言葉は、自分の人生から出た骨太なものだった。
 (3)著者は四十年以上、本が売れていく〈現場〉にいる。書店の仕事は、一見地味なことの繰り返しだが、細かな工夫が今でも現場を支える。ネット書店の出現により変わった出版の現状に関し、具体性を持ちながら踏み込んで書かれた、現在進行形の本。
 (書店「Title」店主)
    −−「文庫この新刊! 辻山良雄が薦める文庫この新刊!」、『朝日新聞』2018年01月14日(日)付。

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http://book.asahi.com/reviews/column/2018011400003.html



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アンネの童話 (文春文庫)
アンネ フランク
文藝春秋 (2017-12-05)
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増補 書店不屈宣言 (ちくま文庫)
田口 久美子
筑摩書房
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覚え書:「書評:絶望図書館 頭木弘樹 編」、『東京新聞』2017年12月17日(日)付。

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絶望図書館 頭木弘樹 編

2017年12月17日
 
◆孤独に寄り添う物語
[評者]丸山正樹=作家
 「絶望」をキーワードに、古今東西の名作、異色作を集めたアンソロジー。副題にある「立ち直れそうもないとき、心に寄り添ってくれる」物語とはどういうものかと思いながら読み進めた。なるほど、単に「絶望的な物語」だけでなく、クスっと笑ってしまうものもあれば、奇想の書もある。絶望から立ち直るための方法が人によって違う(時には立ち直る必要さえない場合もある)ように、様々な棚が用意され、多様な心の動きに応じた作品が並べられてある。これはまさしく「図書館」なのだと感じ入った。

 児童文学、SF、ミステリー、エッセイ、漫画と、どの棚から読み始めるのも自由だ。個人的には「虫の話」(李清俊(イチョンジュン))という作品に強い印象を受けたが、この物語をはじめ「大切な人が(物理的に、あるいは精神的に)いなくなる」という話が複数収録されているのが興味深い。人が絶望する時というのは、真の意味で「孤独」を感じた時なのだろう。

 巻頭の太宰治、巻末のカフカの言葉、そして各作品に対する編者のコメントも味わいがある。これだけの作品を編(あ)めたのも、若い時から難病に苦しんできたという編者自身が、日々小さな絶望と寄り添いながら暮らしているゆえではないだろうか。そういう人はもちろん、そうでない人も、ちょっと心が弱った時にはぜひ本書を手にとってもらいたい。

 (ちくま文庫・907円)

 <かしらぎ・ひろき> 文学紹介者。編訳書『絶望名人カフカの人生論』など。

◆もう1冊 
 若松英輔著『生きる哲学』(文春新書)。寄る辺なき時にも新たな思索を切り開いた十四人の「哲学」を読み解く。
    −−「書評:絶望図書館 頭木弘樹 編」、『東京新聞』2017年12月17日(日)付。

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東京新聞:絶望図書館 頭木弘樹 編:Chunichi/Tokyo Bookweb(TOKYO Web)








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覚え書:「書評:ハリウッド 「赤狩り」との闘い 吉村英夫 著」、『東京新聞』2017年12月17日(日)付。

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ハリウッド 「赤狩り」との闘い 吉村英夫 著

2017年12月17日
 
◆機知、機略の映画作り
[評者]小野民樹=書籍編集者
 ハリウッドに「赤狩り」の疑心暗鬼と恐怖心が蔓延(まんえん)している一九五二年猛暑の九月、「ライムライト」を終えたチャップリンは、四十三年間住んだアメリカを追われるように去り、ウィリアム・ワイラーは、ローマで一万人のヤジ馬をかきわけつつ、新人オードリー・ヘップバーン相手にリテイクを繰り返していた。

 二人はアメリカと民主主義を愛するリベラルだが、非米活動委員会への出頭強制が迫っていたのだ。アメリカに愛想を尽かしたチャップリンは以後二十年間帰国することはなく、「赤狩り」を皮肉った「ニューヨークの王様」をつくる。

 ワイラーは、共産主義者として追放されたダルトン・トランボの脚本をマクレラン・ハンター名で極秘に採用、アメリカの影響の及ばないイタリアで危険を冒して非転向のデモクラットとともに、珠玉のラブコメディ「ローマの休日」をつくりあげた。映画監督としてのワイラーが自らの思想的再生をかけた機知、機略の数々が本書の読みどころである。

 著者自認の「主観的叙述」は、随所に張り扇の音を響かせつつ、やや乱暴な引用や脱線逸脱もおそれず、内外の多くのエピソードを巧みにおりまぜ、アメリカ民主主義の汚辱の時代を描き、現代日本における「民主主義擁護、リベラルなデモクラットの復権」には人間信頼の不断の努力が必要であることを訴えている。

 (大月書店・1944円)

 <よしむら・ひでお> 映画評論家。著書『山田洋次と寅さんの世界』など。

◆もう1冊 
 J・ワーナー著『ダルトン・トランボ』(梓澤登訳・七つ森書館)。赤狩りで服役した脚本家の不屈の人生をたどる。
    −−「書評:ハリウッド 「赤狩り」との闘い 吉村英夫 著」、『東京新聞』2017年12月17日(日)付。

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東京新聞:ハリウッド 「赤狩り」との闘い 吉村英夫 著:Chunichi/Tokyo Bookweb(TOKYO Web)


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ハリウッド「赤狩り」との闘い:「ローマの休日」とチャップリン
吉村 英夫
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覚え書:「折々のことば:855 鷲田清一」、『朝日新聞』2017年08月26日(土)付。

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折々のことば:855 鷲田清一
2017年8月26日

 よろよろって、面白いですよ。あるべきところに辿(たど)り着くんですよ、たぶん。

 (黒田勇樹

     ◇

 事務所との契約が切れた俳優は、それを「落ちぶれ」とはつゆ思わずコールセンターなどで働くうち、個人ホームページに仕事が入り始め、舞台にも出るように。一度コケたら立ち上がれない社会の仕組みを飄々とかわして、受け身でよろよろ歩きつづける。その中でしたたかな批評性をも体得した。フリーライター・武田砂鉄の『コンプレックス文化論』でのインタビューから。
    −−「折々のことば:855 鷲田清一」、『朝日新聞』2017年08月26日(土)付。

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折々のことば:855 鷲田清一:朝日新聞デジタル





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