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2019-01-11

覚え書:「共感呼んだ、希代の科学者 ホーキング博士、死去」、『朝日新聞』2018年03月22日(木)付。


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共感呼んだ、希代の科学者 ホーキング博士、死去

2018年3月22日

写真・図版

ホーキング博士=2015年、英ケンブリッジ大(Andre Pattenden氏)提供

 宇宙絵巻を数理の力で描きだした英国物理学者スティーブン・ホーキング博士が逝った。76歳。元本紙記者の科学ジャーナリストが、京都東京ロンドンで接したその魅力あふれる人間像を点描する。

ホーキング博士ニュートンダーウィンらと並び埋葬へ

 あのころの博士は、不自由ながら声が出た。その言葉を付き添いの青年が聞きとり、聴衆に伝え直した。1985年、京都大学で開かれた講演会。題名は「時間の矢」。今ほど著名でなかった博士が来日したときのことである。

 カップが割れる映像を逆回しで見せ、膨張中の宇宙がいずれ収縮に転じれば「熱力学的な時間の向きは逆転する」と語った。

 私はこれを小さな記事にした。それは後に、山田太一さんの小説『飛ぶ夢をしばらく見ない』で紹介される。

 主人公の男性が電車の網棚にある新聞を開いて、この記事を目にするという趣向。時間反転は、老いた女性が若返るという作品の筋書きに重なった。博士の学説が作家の想像力を刺激した。

 この話にはオチがある。90年、東京。博士は本紙のインタビューで時間反転にまったくふれなかった。いつのまにか自説を翻していたのだ。

 著書『ホーキング、宇宙を語る』(林一訳)には、研究仲間の指摘や学生の研究によって「まちがいをしでかしたことに気づいた」とある。それに続けて、学界に自分の誤りを認めたがらない傾向があることを批判した。失敗を逆手にとるちゃっかりぶりに愛すべき人柄が見てとれる。

 このインタビューで博士は「宇宙がどのようにして始まったかを、神に関係なく計算する可能性を理論で示した」と強調した。その宇宙観は私たちの常識を超えている。

 まず宇宙の始まりは、通常の法則が通用しない「特異点」にあるという見方をロジャー・ペンローズ博士とともに発表した。このときに用いたのは一般相対論だ。

 次いで量子論をとり込み、「虚時間」という奇妙な時間を想定すれば、最初の一瞬の特異点を消し去れると主張した。これは、宇宙は無のゆらぎでぽろりと現れたという学説に結びついた。

 相対論と量子論という20世紀物理学の二本柱を駆使して、出発点に「神の一撃」を求めない宇宙史を提示した。ただ、それは極限世界の出来事なので、学説を実験で立証できず、異論も出てくる。当代屈指の物理学者ノーベル賞と無縁だった最大の理由はそこにある。

 博士は社会派でもあった。私は94年、駐在先のロンドン脊髄せきずい)損傷の人を支援する集会を取材した。体の自由をとり戻す技術の開発を後押しする運動だ。会場には博士がいて「孤独の中に、障害者を閉じ込めるべきではない」と訴え、満場の拍手を浴びていた。

 賞よりも同時代人の共感によってたたえられる科学者だった。(元科学医療部長・尾関章

 ■世界に衝撃、二つの業績

 ホーキング博士の代表的な業績は二つある。

 一つは「特異点定理」だ。1970年ごろまでに、ブラックホールの「芯」や宇宙の始まりに、大きさがゼロで密度が無限大の点が存在すると、数学的に示した。そこでは、一般相対論と量子論を統合する必要が出てきて、世界の物理学者に衝撃を与えた。

 その後、博士は宇宙の始まりを「丸く」する仮説を提唱した。自らが導入した特異点を現実の宇宙で回避するために、二つの理論を組み合わせたのだった。

 もう一つは70年代半ばに「ホーキング放射」と呼ばれる理論で示した、ブラックホール蒸発だ。暗くて質量が大きいブラックホールは周囲の光や物質を吸い込んで巨大化する。ホーキングブラックホールが光などを放出して、周囲に吸い込むものがなくなると蒸発すると予言した。

 計算によると、宇宙の温度が十分に冷えると、銀河の中心にあるブラックホールも10の100乗年後には完全に蒸発するという。(田中誠士)

    −−「共感呼んだ、希代の科学者 ホーキング博士、死去」、『朝日新聞2018年03月22日(木)付。

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共感呼んだ、希代の科学者 ホーキング博士、死去:朝日新聞デジタル





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