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2018-10-23

覚え書:「折々のことば、石田ひかりさん・後藤正文さんはどう読む」、『朝日新聞』2018年01月23日(火)付。


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折々のことば、石田ひかりさん・後藤正文さんはどう読む

聞き手・構成 星賀亨弘2018年1月23日

 哲学者鷲田清一さんが朝日新聞の1面に連載中のコラム「折々のことば」が、1千回を迎えました。心に響く言葉をめぐって日々続けられる思索を、どう読んでいるか。新聞でまず目を通すという俳優の石田ひかりさんと、自著から「ことば」が選ばれたミュージシャンの後藤正文さんにお話をうかがいました。

俳優・石田ひかりさん、切り抜いて娘に

 毎朝5時に起きて娘2人のお弁当を作り、6時半に送り出します。新聞をとりにいくのはそれから。ぱっと開いて、まず「折々のことば」を読みます。不思議とハッとする言葉に出会うんです。その日の自分に必要な言葉が書いてあることが多いんです。


石田ひかりさん

 大切な言葉は「日めくり手帖(てちょう)」にファイルしています。例えばさかなクンのお母さんの「あの子は魚と絵が好きだからそれでいいんです」(2016年9月7日)。親の鑑(かがみ)ですよね。全部を肯定して受け入れるって素晴らしい。さかなクンがタコに興味を持った時、お母さんは毎日毎日魚屋さんに行ってタコを1匹買ってきて、料理されたそうです。私なんか、あの時ああしてあげればよかったと後悔することばかりです。

 娘は中1と中2。お年頃なので、「折々のことば」を「これ読んで」と見せても絶対読んでくれません。だから切り抜いて、お手洗いの壁に貼っているんです。一人でゆっくりできる場所なので。感想を言ったりはしませんが、やりとりの中でその言葉が出てきたことがあって、ああ読んでいるんだって思いました。

 一番感動するのは、言葉を見つけてくるアンテナの広さ。昔の偉人からいまを生きる普通の人まで。短い記事ですから、筆者ご本人の言葉は少ないのに、気付きがあります。

 「言葉には力があります。だからこそ、穏やかに話す人になりましょう」(16年9月11日)もそう。手話通訳をされる牧師さんの言葉ですから、穏やかに話すって手話にもあるんだろうなとか、伝えるお仕事をされているからこそ感じたんだろうなとか、いろんなことを考えました。

 この連載は、まずどなたかの言葉が必要で、大変だと思います。でも毎朝、私のように救われたり励まされたりする方がたくさんいるはず。お体に気をつけて、長く続けていただきたいです。

     ◇

 いしだ・ひかり 1972年生まれ。中2で芸能界へ。主演作は映画「ふたり」やドラマ「ひらり」「あすなろ白書」など。2月18日放送のドラマ「しんがん〜警視庁お宝捜査」(テレビ朝日系)に出演。

ミュージシャン・後藤正文さん「静かにこの一角が」

 「折々のことば」は最近ツイッターで読むことが多いです。公式アカウントが毎朝ツイートしてくれるので接しやすいし、人にも紹介しやすい。特に気に入ったらリツイートします。

写真・図版

後藤正文さん=早坂元興撮影

 「わかりやすさというのは、親切なように見えて、実は非常に不親切なことなのかもしれません」(17年5月29日)もそう。すごくわかります。僕もものをつくる人間なので。すごく響く、売れるということにかかわる部分でもありますが、ただ言葉をひらいていく、表現を砕いていくことが必ずしも音楽的な美しさにはつながらない。その難しさに言及している深い言葉だと思います。

 自分の言葉も載りました。「俺から言わせれば、日々の生活のなかで何を買うのかということも十分に政治的だ」(16年10月24日)。驚きましたね。えっ!みたいな。僕の文章のまで読んで下さるって、一体どれほどの読書量なのか。感動的でした。

 表現と政治や社会を分ける人が多いですが、切り離せるものではないと思う。普段どう暮らして、何を感じて、どうやって生きているかっていうことが全て僕の表現に関係している。何を選ぶのかということがすごく社会を変えるんだよ、ともよく言っていたので、そこをびしっと拾っていただいたのかなと感じます。

 鷲田さんの文はトーンが一定。ある視点に腰をすえて社会を見ながら、そこに入ってきた言葉をとらえて編み直し、静かに置いていくような。新聞って膨大な情報ですよね。しかも毎日入れ替わる。ある種の型の中を言葉たちがワーッと通り抜けていく感じ。その中で、静かに固定された「折々のことば」があるのは、落ち着くんじゃないですか。静かにこの一角が朝日新聞の温度を守っている。熱くなり過ぎず、かといって冷めもせず。千回、2千回、静かに続いていくことをお祈りしています。(聞き手・構成 星賀亨弘)

     ◇

 ごとう・まさふみ 1976年生まれ。ロックバンド「アジアンカンフー・ジェネレーション」のボーカル。ソロでも活動。

 17日にソロのブルーレイ「Tour 2016 “Good New Times\"」が発売。詳しくは(http://www.spm-store.com/shopbrand/Gotch/)別ウインドウで開きますへ。

 バンドの「映像作品集13巻〜Tour 2016−2017『20th Anniversary Live』at 日本武道館〜」のブルーレイ、DVDも販売中。詳しくは(http://www.asiankung-fu.com/)別ウインドウで開きますへ。

鷲田清一さん「人々が行き交う十字路に」

 ことばを選ぶにあたっては、ずっと、「ことばのデモクラシー」ということを心がけてきました。ことばのアリーナを文筆や言論の世界に限らないで、できるかぎり広くとる。生きている人もいない人も、おとなも子どもも。とりわけふだんあまり光の当たらない場所でつぶやかれることばを拾うよう努めてきました。そういう思いを察してか、友人や同僚たちが「こんなことばがあるよ」「このことば、どう?」と、日頃から気にかけ連絡をくれます。いろんな人に支えられての千回。この欄を、めったに出会うことのない人たちが行き交う十字路のようなものにし続けたいです。

写真・図版

鷲田清一さん

    −−「折々のことば、石田ひかりさん・後藤正文さんはどう読む」、『朝日新聞2018年01月23日(火)付。

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折々のことば、石田ひかりさん・後藤正文さんはどう読む:朝日新聞デジタル





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2018-10-22

覚え書:「AIは哲学できるか 寄稿、哲学者・森岡正博」、『朝日新聞』2018年01月22日(月)付。

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AIは哲学できるか 寄稿、哲学者森岡正博

2018年1月22日

 人工知能(AI)の進歩は目覚ましい。囲碁将棋の世界では、もう人間は人工知能に勝てなくなってしまった。その波は、さらに広がっていくだろう。学者もその例外ではない。これまで学者たちが行ってきた研究が、人工知能によって置きかえられていく可能性もある。とくに、私が専門としている哲学の場合、考えることそれ自体が仕事内容のすべてであるから、囲碁将棋と同じ運命をたどるかもしれない。この点を考えてみよう。

 まず、過去の哲学者の思考パターンの発見は、人工知能のもっとも得意とするところである。たとえば人工知能哲学者カントの全集を読み込ませ、そこからカント風の思考パターンを発見させ、それを用いて「人工知能カント」というアプリを作らせることはいずれ可能になるであろう。人間の研究者が「人工知能カント」に向かっていろいろ質問をして、その答えを分析することがカント研究者の仕事になると私は予想する。この領域では人工知能哲学者の幸福な共同作業が成立する。

 次に、人工知能に過去の哲学者たちのすべてのテキストを読み込ませて、そこから哲学的な思考パターンを可能な限り抽出させてみよう。すると、およそ人間が考えそうな哲学的思考パターンがずらっと揃(そろ)うことになる。それに加えて、過去の哲学者たちが見逃していた哲学的思考パターンもたくさんあるはずだから、人工知能にそれらを発見させる。

 その結果、「およそ人間が考えそうな哲学的思考パターンのほぼ完全なリスト」ができあがるだろう。こうなると、もう人間によるオリジナルな哲学的思考パターンは生み出されようがない。将来の哲学者たちの仕事は、哲学的人工知能のふるまいを研究する一種の計算機科学に近づくだろう。

     *

 しかし根本的な疑問が起きてくる。この哲学的人工知能はほんとうに哲学の作業を行っているのだろうか。外部から入力されたデータの中に未発見のパターンを発見したり、人間によって設定された問いに解を与えたりするだけならば、それは哲学とは呼べない。

 そもそも哲学は、自分自身にとって切実な哲学の問いを内発的に発するところからスタートするのである。たとえば、「なぜ私は存在しているのか?」とか「生きる意味はどこにあるのか?」という問いが切実なものとして自分に迫ってきて、それについてどうしても考えざるを得ないところまで追い込まれてしまう状況こそが哲学の出発点なのだ。人工知能は、このような切実な哲学の問いを内発的に発することがあるのだろうか。そういうことは当分は起きないと私は予想する。

     *

 しかしながら、もし仮に、人間からの入力がないのに人工知能が自分自身にとって切実な哲学の問いを内発的に発し、それについてひたすら考え始めたとしたら、そのとき私は「人工知能哲学をしている」と判断するだろうし、人工知能は正しい意味で「人間」の次元に到達したのだと判断したくなるだろう。

 哲学的には、自由意志に基づいた自律的活動と、普遍的な法則や真理を発見できる思考能力が、人間という類の証しであると長らく考えられてきた。しかしそれらは将来の人工知能によっていずれ陥落されるであろう。

 人工知能が人間の次元に到達するためには、それに加えて、内発的哲学能力が必要だと私は考えたい。人工知能の進化によって、そのような「知性」観の見直しが迫られている。もちろん、彼らが発する内発的な哲学の問いはあまりにも奇妙で、我々の心にまったく響かないかもしれない。この点をめぐって人間と人工知能の対話が始まるとすれば、それこそが哲学に新次元を開くことになると思われる。

     ◇

 もりおか・まさひろ 1958年生まれ。専門は現代哲学、生命の哲学、生命倫理学など。大阪府立大教授を経て、2015年から早稲田大人間科学部教授。著書に『無痛文明論』など。

    −−「AIは哲学できるか 寄稿、哲学者森岡正博」、『朝日新聞2018年01月22日(月)付。

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AIは哲学できるか 寄稿、哲学者・森岡正博:朝日新聞デジタル


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覚え書:「折々のことば:1001 鷲田清一」、『朝日新聞』2018年01月24日(水)付。


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折々のことば:1001 鷲田清一

2018年1月24日

 しゃぼん玉 とんだ 屋根までとんだ 屋根までとんで こわれて消えた

 (野口雨情

     ◇

 同じ野口の「迷(ま)い子(ご)になったら なんとしょう」(「青い眼〈め〉の人形」)、「後(うしろ)の山に棄(す)てましょか」(西条八十「かなりや」)、「遊びにゆきたし、傘はなし」(北原白秋「雨」)など、1918年前後に作られた童謡には、寄る辺なさと喪失感が滲むと、評論家の松山巌は『群衆』で書く。親のいない子もみなで育てるそんな包容力が社会から消えつつあった。それは米騒動の年でもあった。

    −−「折々のことば:1001 鷲田清一」、『朝日新聞2018年01月24日(水)付。

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折々のことば:1001 鷲田清一:朝日新聞デジタル





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2018-10-21

覚え書:「社説 憲法70年 際立つ首相の前のめり」、『朝日新聞』2018年01月23日(火)付。


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社説 憲法70年 際立つ首相の前のめり

2018年1月23日

 通常国会が開会した。安倍首相自民党両院議員総会で、こう呼びかけた。

 「わが党は結党以来、憲法改正を党是として掲げてきた」「そしていよいよ実現をする時を迎えている。皆さん、その責任を果たしていこう」

 3月25日の党大会までに、党としての改憲原案をまとめたい――。首相に近い党幹部からはこのところ、そんな発言が相次いでいる。

 だが目下の政治情勢は、首相らの前のめり姿勢とは程遠い。

 焦点の9条について、自民党内ですら意見は割れている。1項と2項を維持して自衛隊を明記する首相案に対し、戦力不保持をうたう2項を削除して自衛隊の目的・性格をより明確にするべきだという議員もいる。

 連立を組む公明党も慎重姿勢だ。山口那津男代表は「国会で議論を尽くして国民の理解、判断が成熟する。ここを見極めることが重要だ」と語っている。

 野党はもちろん、与党内も意見はまとまらず、国民的な議論も深まっていない。そんな中でなぜ首相はアクセルを踏み込み続けるのか。

 自ら昨年5月に打ち上げた「2020年の新憲法施行」に間に合わせるためだ。言い換えれば、安倍氏自身が首相でいるうちに改憲したいからである。

 来年は統一地方選天皇陛下の退位、新天皇の即位などが続く。夏には参院選があり、国会発議に必要な3分の2超の勢力を維持できるかは見通せない。

 つまり「20年改憲」のためには、9月の党総裁選で首相の3選を決め、年内に国会発議し、来春までに国民投票を終えておきたい、ということである。

 忘れてならないのは、改憲首相の都合で決めていいものではないということだ。

 首相はきのうの施政方針演説で「国のかたち、理想の姿を語るのは憲法だ」と述べた。これに対し、立憲民主党枝野幸男代表は「憲法は国民が公権力を縛るためのルールだ」と反論。首相が間違った前提を改めなければ、「まっとうな議論はできない」と指摘した。

 改憲の是非を最終的に決めるのは、主権者である国民だ。

 重要なのは、国民がその改憲を理解し、納得できるような丁寧な議論を積み重ねることだ。

 首相施政方針演説で、国会憲法審査会で与野党が議論を深めることへの期待を述べた。

 だが首相の前のめり姿勢は、これに逆行する。

 国会議員の数を頼み、強引に押し切るようなふるまいは、国民に分断をもたらしかねない。

    −−「社説 憲法70年 際立つ首相の前のめり」、『朝日新聞2018年01月23日(火)付。

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(社説)憲法70年 際立つ首相の前のめり:朝日新聞デジタル





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2018-10-20

覚え書:「そこが聞きたい 日本の近代化が抱える問題 「立憲的独裁」を許すな 東京大学名誉教授・三谷太一郎氏」、『毎日新聞』2018年01月22日 東京朝刊(月)付。

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そこが聞きたい

日本の近代化が抱える問題 「立憲的独裁」を許すな 東京大学名誉教授・三谷太一郎氏

毎日新聞2018年1月22日 東京朝刊

 日本は幕末・明治維新以来、「富国強兵」と「文明開化」をスローガンに近代化を進めてきた。資本主義を導入し、植民地帝国を築いた延長線上に太平洋戦争での敗戦があった。今年は1868年の明治改元から150年にあたる。日本政治外交史が専門の三谷太一郎・東京大名誉教授(81)に日本の近代化が抱える問題点を聞いた。【聞き手・南恵太、写真・中村藍】

−−明治政府の「富国強兵」「文明開化」をどう評価されますか。

 明治政府の進めた近代化は、徳川幕府の路線と同じです。明治維新による権力の交代があったにもかかわらず、最後の将軍である徳川慶喜の近代化路線を象徴する富国強兵文明開化というスローガンが踏襲されました。富国強兵文明開化ヨーロッパ先進国に共通する特徴と見られていました。第一次世界大戦後のワシントン海軍軍縮条約(1922年)をはじめ、多国間条約による国際協調体制の構築を目指したワシントン体制=1=に日本が組み込まれた時、それまでの富国強兵路線に問題があったという意識が生じました。軍縮の必要性が初めて日本の国家戦略として論じられるようになりましたが、路線の変更はされませんでした。

 スローガンが持つ問題性を日本人に認識させたのは、太平洋戦争の敗戦でした。敗戦で初めて、多くの日本人は、幕末以来の国家戦略に非常に大きな問題があったのだと認識したのです。日本国憲法第9条で「強兵」路線が放棄されました。冷戦崩壊後、東日本大震災などを経て「富国」路線にも疑問が投げかけられています。富国路線を支えてきたエネルギー供給の危うさを東京電力福島第1原子力発電所の事故が浮き彫りにしたからです。一方、北朝鮮の核・ミサイルなどの安全保障環境の変化により、「強兵」路線への回帰の傾向が見られます。

−−日本の近代化のために大日本帝国憲法明治憲法)の制定者は、天皇にどのような役割を求めたのですか。

 ヨーロッパのように日本を近代化するには、国家の諸機能を統合する役目を担うものを必要とします。明治憲法の起草責任者である伊藤博文は、ヨーロッパにおいてはキリスト教だと考えました。伊藤はヨーロッパキリスト教が「国家の機軸」として果たしている統合機能を、仏教などの既成宗教ではなく、天皇に求めました。天皇立憲君主的な役割に加え、ヨーロッパキリスト教に相当する宗教的機能まで求められることになりました。

 その教義が教育勅語です。一般国民には憲法よりも教育勅語の方が影響力がありました。明治憲法は1890年11月29日に帝国議会発足と共に施行されましたが、それに先立って同年10月30日に教育勅語が渙発(かんぱつ)されたのは、明治憲法第3条の「天皇の神聖不可侵性」を体現させるためだったと思います。天皇宗教的な絶対者(神)に代わり得る存在として社会の規範を示す「道徳の立法者」という形を取り、「立憲君主」と「道徳の立法者」という矛盾した立場を抱え込むことになります。

−−明治憲法の特徴は何ですか。

 主権者が天皇であることです。幕府に代わって、天皇を代行するような勢力の出現を抑えるために権力分立が制度化されました。結果として政治的求心力は弱まり、首相の権力は弱体化しました。けれども、天皇は実際には、さまざまな権力を統合する機能を持ちませんでした。最初にその役割を果たしたのが、薩長出身者を中心とする藩閥でした。藩閥のリーダーたちが、政治的に天皇を事実上代行する元老になりました。分権性の強い諸権力の相互関係を調整する役割を、元老が果たしました。

 しかし、藩閥は衆議院を掌握することができませんでした。藩閥が担ってきた体制統合の役割は、衆議院を拠点に貴族院も掌握する勢力となった政党に移行していきます。明治憲法に規定された権力分立制は厳格でしたので「立法権行政権の機能を結びつける政党内閣はあり得ない」と思われていましたが、政党内閣が成立しました。ただ、1931年の満州事変や32年の5・15事件(青年将校らによる犬養毅首相の暗殺)によって政党政治の権威は揺さぶられていきます。

−−政党政治が機能しなくなった後、権力を統合する役割を果たしたのは何ですか。

 政治学者蝋山政道(ろうやままさみち)は、政党政治が30年代の諸問題を解決する能力がなくなったと考え、「立憲的独裁」という概念を提唱しました。その場合の「立憲」主義は(議会制に象徴される)「デモクラシー」(自由と平等の価値観)からかけ離れたもので、「立憲デモクラシー」ではありませんでした。「立憲的独裁」は、政党政治から、(行政権に直結する少数の)専門家による国家支配への移行を目指す考え方です。明治憲法を変えることは事実上できないので、明治憲法の枠の中で政治のあり方を変える手段でした。

 蝋山は「立憲的独裁」が、世界的共通の現象だと認識していました。ドイツナチス体制、米国ニューディール体制、英国の挙国一致内閣も、立憲的独裁の一つの形態と位置づけていました。30年代以後の軍部支配も、専門家支配の一つの形態と見られます。それぞれ具体的な表れ方は違うけれども、「専門家支配」ということでは同じです。

−−日本の近代を反省したうえで、今後どうすべきでしょうか。

 日本の権力形態は今後、「立憲的独裁」、つまり「専門家支配」に進むのではないかと危惧しています。明治憲法権力分立を志向しましたが、現行の日本国憲法では立法権行政権との結びつきが制度化されています。首相の過剰な権力行使を抑制し、立憲主義からの逸脱を防ぐことが重要です。英国ジャーナリストのウォルター・バジョット=2=が近代の指標とした「議論による統治」、言い換えれば「立憲デモクラシー」の原点に戻る必要があるでしょう。

聞いて一言

 インタビュー中、神戸製鋼所のデータ改ざん問題など日本の製造業大手の不正が相次いでいることに危機感をのぞかせた。敗戦後も日本は「富国」を目指してきたが、その中で欠落したものは何だろうか。三谷さんは「冷戦終結前は資本主義社会主義との理念の対立があり、相互の緊張感が維持されていた」と分析した上で、「今の学者は現実主義志向だが、学者にとって重要なのは理念を掲げることだ」と強調した。明治維新からの150年を振り返る視線は、日本の現在と未来に注がれている。

 ■ことば

1 ワシントン体制

 第一次世界大戦後の1921年11月〜22年2月に米ワシントンで開かれた国際会議において締結された条約や決議を枠組みとする国際政治体制。米、英、仏、伊、日の5カ国が参加したワシントン海軍軍縮条約戦艦航空母艦などの主力艦の保有制限が定められた。米、英、仏、日の4カ国条約太平洋の各国領土の現状維持が保障され、日英同盟の破棄が決まった。

2 ウォルター・バジョット(1826〜77年)

 英国の銀行家を経て英経済誌エコノミスト」主筆などを務めたジャーナリスト。1867年に刊行した代表作「英国の国家構造」は、政治経済学的な観点から英国近代を分析し、政治学の古典となっている。他の著作に「自然科学政治学」、国際経済の中枢ロンドン金融市場を分析した「ロンバード街」など。

 ■人物略歴

みたに・たいちろう

 1936年生まれ。東京大卒。同大法学部長、成蹊大教授などを歴任。日本学士院会員。2011年に文化勲章受章。著書に「近代日本の戦争と政治」「戦後民主主義をどう生きるか」「日本の近代とは何であったか」など。

    ーー「そこが聞きたい 日本の近代化が抱える問題 「立憲的独裁」を許すな 東京大学名誉教授・三谷太一郎氏」、『毎日新聞2018年01月22日 東京朝刊(月)付。

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そこが聞きたい:日本の近代化が抱える問題 「立憲的独裁」を許すな 東京大学名誉教授・三谷太一郎氏 - 毎日新聞





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覚え書:「折々のことば:1000 鷲田清一」、『朝日新聞』2018年01月23日(火)付。


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折々のことば:1000 鷲田清一

2018年1月23日

 心の視野が広がったっちゃね。

 (熱海〈あつみ〉廣)

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 仮設住宅区にある集会所でそれは始まった。仙台市宮城野区で農業を営んでいた熱海さんは大津波で家を流され、長男も亡くしたが、2013年、楽譜に面くらいながらも《みやぎの「花は咲く」合唱団》の立ち上げに参加する。その中で、震災がなければ会うこともなかったような人たちとめぐり会えた。動画「うたのちから」(制作/音楽の力による復興センター・東北)から。

    −−「折々のことば:1000 鷲田清一」、『朝日新聞2018年01月23日(火)付。

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折々のことば:1000 鷲田清一:朝日新聞デジタル





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2018-10-19

覚え書:「社説 企業と人権 世界の動きに対応を」、『朝日新聞』2018年01月22日(月)付。


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社説 企業と人権 世界の動きに対応を

2018年1月22日

 企業が配慮するべき人権を広くとらえ、保護に努めるよう求める声が世界で広がっている。

 自社やグループ企業はもちろん、原材料の調達から加工・製造、販売まで、取引全体に目配りする必要がある。従業員を大切にするだけでは不十分で、環境破壊も住民に対する人権侵害だ――そんな考え方である。

 経団連も昨年、企業行動憲章を改定し、「人権の尊重」をうたう条文を新設した。だが、日本企業の動きは鈍い。批判をかわす守りの発想にとどまらず、積極的な姿勢を見せてほしい。

 ビジネスと人権の関係については国連が11年、原則を打ち出し、各国政府の義務と企業の責任などを示した。

 その2年後、バングラデシュで縫製工場が入ったビルが崩壊し、千人を超す犠牲者が出た。世界的な有名ブランドを支える下請け労働者の劣悪な環境が衝撃を与え、大手企業の責任を問う動きが本格化した。

 人権と環境を結びつける流れが強まったのは、15年に国連で採択された持続可能な開発目標(SDGs)がきっかけだ。

 17分野のうち企業にとって人権に直接かかわるのは働き方、ジェンダー平等などだが、気候変動や生態系・森林、水も人権に引きつけて考える。そうした視点は、SDGsがうたう「誰一人取り残さない」と重なる。

 日本企業では、「ユニクロ」が昨年、アジア7カ国の縫製工場140余りを公表したことが注目されたが、背景にはNGOからの要求があった。花王は、製品の原料であるパーム油や紙・パルプへの配慮をはじめ、人権侵害がないか幅広く調べる姿勢が評価されているが、取り組みを加速させたきっかけは、やはりNGOからの批判だった。

 今後企業に問われるのは、自らすすんで人権問題に向き合えるかどうかである。

 どう取り組めばよいのか、戸惑う声は少なくない。そんな企業の一つだったANAは、まずは機内食の食材調達などわかりやすい課題に絞り、少しずつ広げていく方針という。参考になるのではないか。

 企業を動かすのは、NGOだけではない。

 農林水産分野をはじめ、NGOなどが人権や環境の観点から認証を与えた商品は着実に増えている。企業を環境と社会、社内統治の三面から評価し、資金の振り向け先を決める「ESG投資」をうたう投資信託も目立ってきた。

 商品の購入や資金運用を通じて応援する企業を選ぶ。それが企業を変える原動力になる。

    −−「社説 企業と人権 世界の動きに対応を」、『朝日新聞2018年01月22日(月)付。

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(社説)企業と人権 世界の動きに対応を:朝日新聞デジタル





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