養老孟司「虫と長生き」

中央公論 1/05 鎌倉傘張り日記

ただ一つ残念なことは、もう私の寿命があまり残っていないことである。二十年若かったら、かなりのことができたと思う。現代社会はその意味ではむずかしい社会なのであろう。世の中で一人前と見なされるようになるまでに、人生のおおかたの時間を費やしてしまう。それ以前に「役に立たない」仕事をしようとしてみても、社会に受け入れられにくい。そう思えば、せいぜい頑張って長生きするしか手はないらしい。(p251)