Cheap Revolutionについて

「次の10年はどういう時代か?」
http://d.hatena.ne.jp/umedamochio/20050402/p1
で、「Cheap Revolution」という言葉を使ったが、これはForbes誌のコラムニスト、Rich Karlgaardが言い出した言葉だと思う。ということで今日は彼の最新コラム「Enjoy It Now, You 2000」
http://www.forbes.com/columnists/business/forbes/2005/0418/041.html
をめぐって。これから先を考えるために近過去を眺めようということで、この20年の変化を引き起こした要因について、まず彼はこう書いている。

Credit two factors: information technology and risk capital. In 1975 Sears thought IT was about payroll. Sam Walton held an expanded view: He saw that IT offered a smarter way to manage inventory and distribution. Thus did Wal-Mart leap ahead.
In 1978 the capital gains tax was 49%. What small morsels the government left on the table were eaten by inflation. Thus did risk capital attempt to hide in dead assets such as gold and collectibles for most of that rotten decade. But in 1979 the cap gains rate was cut to 28%. Then Paul Volcker killed inflation in 1982. Risk capital took notice and began a rush back into productive enterprises. The Dow went from 777 in August 1982 to 11,723 in January 2000. And a great storm of creative destruction was let loose.

ITのほうは皆そりゃあそうだなと思うだろうが、もう一つのリスクキャピタルというところは実にアメリカらしいところで、好き嫌いが分かれるだろう。バブルがあろうがスキャンダルがあろうが、株式市場を中心とした経済メカニズムの中であらゆるイノベーションを追求し続けるのが正しい(ITはそういう文脈でのとんでもなく素晴らしい素材)という信念は、アメリカという国のあり方そのものと言ってもよく、全く揺るがない。
このコラムはマッキンゼーの「Extreme Competition」というレポートに刺激されて書かれたものであるが、その中に「Cheap Revolution」についてこんな記述がある。

Cheap tech greatly expands the supply of talented workers around the world.

技術のコスト低下は世界中の才能あるワーカーの供給を大いに拡大する。だからこそ、マッキンゼーのレポートのタイトルが「Extreme Competition」(極端な競争)となっているわけだ。以前CNET Japan連載時に、現在の大きな流れは「消費者天国、供給者地獄」というようなキーワードで説明できるのではないかと書いたことがあるが、「次の10年はどういう時代か?」で挙げた3つのトレンド、(1)Cheap Revolution、(2)インターネット、(3)オープンソースが牽引する世界は、たとえば自動車とかコンピュータの登場といった「新しい巨大な市場が生まれて皆が幸せになる」的な世界とは明らかに異質である。
二週間くらい前に、New York Times誌で「MUSIC; Home Sweet Studio」という記事が書かれた。この記事はもう無料では読めないので、この記事について書いたBlog「Micromedia - Market Drivers」
http://www.bubblegeneration.com/2005/03/micromedia-market-drivers-nyt-has-nice.cfm
のほうを参照するが、

Digital audio is the case study on which Micromedia 2.0 will be built - if you don't understand just how radical a shift it is from paying $1000/hr to being able to record at 80% of the same quality by spending 5k on a laptop + software + soundcard, understand and take note.

1時間当たり1,000ドルも支払って貸しスタジオを借りなくとも、その80%のクオリティでいいなら、5,000ドルの出せば家にデジタル・オーディオの設備が持てるようになったわけで、これはCheap Techが世界中の才能を解放する好例だというわけである。Karlgaardのコラムに戻れば、

The back side of Moore's Law is more important today than the front side. The better-known front side says that chip performance doubles every 18 months. The back side says that prices drop 30% to 40% per year at a constant performance. The back side is the reason we have $290 handheld Treo 650 Web browsers and $249 Apple iPod minis with 6-gigabyte hard drives.

というわけで、この「5,000ドルも出せば」が来年には「3,000ドルも出せば」になり、再来年には「1,800ドルも出せば」になり、その次には「1,000ドルちょっとで」となっていくのは、素晴らしさであり恐ろしさでもある。

A price tag of $100 for a cell phone or $300 for a basic PC seems to be the tipping point of digital affordability in countries such as China and India.

100ドルの携帯、300ドルのPCというラインが、巨大な人口のインドと中国にもデジタル機器が普及していくためのティッピング・ポイントだともいう。「次の10年」の間には、ありとあらゆるもののコスト低下が、さまざまなティッピング・ポイントとなるのであろう。
「次の10年」の重要なトレンドとして、この「Cheap Revolution」をまず挙げたのは、このことのインパクトを、企業も個人も、自分の問題として考え抜かなければならないと思うからだ。
ある若い友人は、このことを考え抜いた挙げ句に、自らがかなりのギークでありながらも、ITとは関係のない、激しい変化の少ない手堅いリアル産業に職を得て安定した収入とゆっくりとしたキャリア形成の道を確保し、供給者として「Cheap Revolution」に巻き込まれていくのを避け、「Cheap Revolution」を消費者としてエンジョイすることにした(「Cheap Revolution」のいいとこ取りをすることにした)、と僕に言った。人それぞれ下す決断はまちまちだが、そう説明されると確かにグーの音も出ず、一つの見識だなぁと思ったのである。
そこにはもちろん大きなチャンスがある。でもそれが世界中に開かれるから競争が激しくなる。だから競争の土台を変えてしまうような「Cheap Revolution」戦略が必要になってくる。その戦略の優劣で、かなりの大差がつく世界となるだろう。