ニーチェ現代語訳『アンチクリスト』

キリスト教は邪教です! 現代語訳『アンチクリスト』 (講談社+α新書)

キリスト教は邪教です! 現代語訳『アンチクリスト』 (講談社+α新書)

同時代で活躍している人を観察して、歴史上の誰が現代に生きているみたいなのかなぁ、と考えを巡らせるのが好きだ。現代のドストエフスキーって誰なの? 当時としては斬新なメディアだった新聞に小説を連載したバルザックが今生きていたら、果たしてインターネットを小説のためのメディアと考えたかなぁ? 印刷所の経営までやっていたくらいだからバルザックはネット事業をやっていたかもしれないなぁ、とか、そもそも当時の小説に相当することって現代では何なんだろう? とか、本を読みながらいつもそんなことを考える。
ただそこで問題なのは、現代では、はじめから彼等が偉人として恭しく取り扱われ、もう学問の対象にまでなってしまっているから、「当時の社会に生きていた気分になって同時代的視線で彼等を眺める」という思考実験が難しい、ということだ。
そういう意味で、この本はけっこう刺激的で面白かった。専門家からすればこの現代語訳にはいろいろと問題も多いのかもしれないけれど、翻訳は翻訳だ。訳者が改ざんした全く新しい物語ではない。だから、ニーチェが仮に現代に生きていたとしたら誰なの? みたいなことをあれこれと勝手に想像するにはとても刺激的な本だ。こういう本がたくさん出てほしいなと思った。
話は飛ぶが、ソフトウェアなんて19世紀にはなかったわけだから、たとえばリチャード・ストールマンって19世紀の誰に相当するんだろうなぁ? なんて問いは、19世紀の社会において新しさや社会へのインパクトという意味でソフトウェアに相当するものって何なんだろうな・・・からあれこれと考えなければならず、まぁ何の役にも立たないけれど、けっこう楽しい作業なのだ。