古典の新訳

プルースト失われた時を求めて」を読み始めた。

抄訳版 失われた時を求めて 1 (集英社文庫)

抄訳版 失われた時を求めて 1 (集英社文庫)

鈴木道彦の新訳版のそれも抄訳からというまさに初心者コースなのであるが、いやいや本当に面白い。旅行中は暇があれば読んでいたがぜんぜん進まない。
そんな話を東京で友人にしていたら、
「最近は古典の新訳がいろいろ出てどれもいい」(友人)
「そうですね。カフカ池内紀訳の全集は買いました」(僕)
城 (カフカ小説全集)

城 (カフカ小説全集)

ドン・キホーテ西遊記の新訳が岩波文庫から出て、それぞれ六巻と十巻だけれど、これは面白い。梅田さんのシリコンバレーの蔵書に加えたほうがいいよ」(友人)
なんてけしかけられて16冊注文。何だか最近、本を買うことに明らかな中毒症状が出ているなと自分でも思うが、確かにパラパラと読んでみると、読みやすくて楽しそう。
ドン・キホーテ〈前篇1〉 (岩波文庫)

ドン・キホーテ〈前篇1〉 (岩波文庫)

西遊記〈1〉 (岩波文庫)

西遊記〈1〉 (岩波文庫)

一生かけても読めそうもない量の本に囲まれつつある。困ったものである。

A Conversation with World Chess Champion, Garry Kasparov

Harvard Business Review誌4月号「Strategic Intensity: A Conversation with World Chess Champion Garry Kasparov」
http://harvardbusinessonline.hbsp.harvard.edu/b02/en/common/item_detail.jhtml?id=R0504B
の翻訳をDIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー誌7月号で読んだ。面白い。
まずカスパロフは、人間の直感力の重要性を強調する。

いくら論理的思考や知的能力を使うといっても、最終的に指し手を決めるのは想像力や感覚なのです。つまり我々は直感で指しているのです。(略)
私は現在、

Garry Kasparov on My Great Predecessors Part 1

Garry Kasparov on My Great Predecessors Part 1

という全五巻の本を執筆中で、このなかで過去二百年間の偉大なチェス・プレイヤーの対局をたどり、詳しく分析を試みています。
その過程で私は、彼らの対局内容をコンピュータで分析し、その結果、おもしろいことを発見しました。彼らの独創的な妙手の多くは、追いつめられて直感を頼りに指したものだったのです。

ところで、カスパロフが執筆中のこの本を、若島正氏は激賞している。
http://www.wombat.zaq.ne.jp/propara/diary/200412.html

カスパロフに、そしてチェスというものに、激しく嫉妬する書物である。すべての将棋関係者は、この書物に匹敵するようなものを将棋がこれまでに生み出したかどうか、真剣に考える必要があるだろう。将棋は日本文化ですとお題目のように唱えるだけでは、文化でもなんでもない。これだけの書物を残せるかどうか、それが文化というものではないか。目下のところ、彼我の差はあまりにも大きい。

チェスを知らないからこの本の凄さがわからず残念だ。
さて、もう一つ面白かったのは、22歳で世界チャンピオンになったとき、カスパロフは祝賀会で先輩チェス・チャンピオンの夫人から「かわいそうなガルリ」と呼びかけられる。早くに人生のピークに立った「チャンピオンのジレンマ」を指摘されたわけだ。そのときには何のことかわからなかったカスパロフも、後にこの女性の一言の意味を理解する。

それまで追い求めてきた夢をすべてかなえ、そのうえ夢にも思わなかったことまでも成し遂げた場合、人はどこに向かって進めばよいのでしょうか。(略)
しかし、この問題を解決する唯一の方法は、結局のところたった一つしかないでしょう。つまり、ライバルに恵まれること、これに尽きます。

カスパロフは、自分がCEOの誰に似ているかと問われればスティーブ・ジョブズだと答えている。「空想家」であるところが自分と似ていると感じるのだそうである。カスパロフの今については、

2005年、「チェスの世界で現実的な目標が見えなくなった」として引退。今後は公式試合には出場せず、非公式な対局や執筆活動に専念する。

とある。