Web 2.0、概念、経営的感覚

よしだ日記「Web2.0を必要とする人」
http://d.hatena.ne.jp/yoshida65536/20051028#p2
は、昨日の「激しく動く米ネット世界、でも日本は・・・・」の中で何の気なしに書いた「「Web 2.0」つまりネットの次世代ビジョン仮説に関する理論武装」という言葉への反応で面白かった。

以前ヨタった時に、つらつらと文章を書きながらも「Web2.0を誰が必要とするのか?」と思っていたのだ。
具体的な技術ではない、概念的な存在であるWeb2.0という呼び名は、サービスを利用する立場のユーザーには必要ないだろうし、実際に個々のサービスを実装する立場にある技術者にもそれほど必要ないのではないか。この考え自体は今でもそれほど変わらない。もちろん知っているにこしたことはないだろう。けれどもユーザーが選択を行う際に重要なのは、そのサービスが自分にとって必要なのか、便利なのかということであって、Web2.0かどうかではない。技術者が実装をする際においても、そのサービスがWeb2.0かどうかで実装方法が変わるということもないだろう。
けれども(引用部分略)ここを読んでみて自分に欠けていた視点に気がつかされた。この概念を必要とするのはユーザーでも技術者でもない。Web2.0が本当に必要なのは起業家であり、経営者だったのだ。さらに言えば彼らがベンチャーキャピタル(VC)等から資金調達をする際に必要な説得を行うためにWeb2.0という概念が必要となるのだ。

日本企業を顧客に経営コンサルティングの仕事を始めてもうそろそろ18年になる。
それで思うのは、日本企業には、あるいは日本の技術の現場には、「概念」に全く価値を感ぜず「現場」にこそすべての価値があると考える人が圧倒的に多いということだ。そういうがちがちの現場主義の人が、歳をとって経営者になるケースもこれまではかなり多かった。「概念」に価値を見出さない人からは、「口先だけの話はいい、とにかく手を動かせ」的な言葉が出ることが多い。そういう経営者は、自分の勝ちパターンで勝ち続けられる時代にはいいが、大きな変化にとても弱い。
ではもともとの問いに戻り、「Web 2.0」のような「概念」は誰にとって必要なのか。

この概念を必要とするのはユーザーでも技術者でもない。Web2.0が本当に必要なのは起業家であり、経営者だったのだ。さらに言えば彼らがベンチャーキャピタル(VC)等から資金調達をする際に必要な説得を行うためにWeb2.0という概念が必要となるのだ。

はかなり正しいのだが、ちょっと「概念」の意味を矮小化しているかなと思う。
僕は、「概念」がいちばん重要になるのは、異質なバックグラウンドを持った複数の人たちが一緒に仕事をするときだと考えている。経営とはその際たるものだ。また技術ベンチャーに投資する局面もまさにそうだ。だから「Web2.0が本当に必要なのは起業家であり、経営者」というのは、かなり正しい。でもそれだけではない。
本当に技術者に「概念」はいらないか。確かにいらないと思う技術者はたくさんいるだろう。技術者全員が「概念」を必要だなどとは思わない。しかし技術自身の開発・実装だけでは満足できない技術者、「自分が関わった技術が最終的に誰かに使われること」に価値を感ずる技術者は、いずれ他者との接点が必要となる。自分がやっていることを誰かにきちんと説明できることの重要性に気づく。そのとき「概念」の重要性に気づくはずだ。そのことに気づくことが経営的感覚の芽生えの第一歩だ。
経営的感覚とは、マネジメントのセンスとは、組織を巡るありとあらゆる側面を某か「自分の物差し」を持って掌握するセンスのことだ。物事のすべてを細部まで掌握することはできない。全く自分が得意としない分野も組織の中には多い。しかしそのすべてに対して、「どこかまではあるきちんとした把握の仕方をして、その先の詳細は誰かに任せるが、適切な指示ができ、適切な問いを発することができて、結果として正しい判断ができる」ようになることが、経営的感覚を持つことである。そのための「自分の物差し」を磨く上で、さまざまな「概念」がとても重要になる。