過密スケジュールの合間の素晴らしいひと時

こんな過密スケジュールは過去になかったというほどの東京での八泊九日を何とか乗り切り(本当にギリギリだった)、昨日帰国した。リアル世界での時間の流れでいえば、丸善での講演は過去にない経験だった。抄録やCNET記事もすごいスピードでウェブ上に上がり、時代の変化を自ら実感した。リアルで僕が忙しく働いている間も、ネットは眠らない。次々と本の感想が書かれる。ふらふらになってホテルに帰ってもネットに向かい、朝はリアル仕事の準備の前にネットに向かう。ほとんど眠ることすらできなかった。ちなみに、主だった感想はブックマークしてある。相変わらずすべての感想を読んでいる(ブックマークしていないもののほうが圧倒的に多いが、それはプライベート空間に記録済み)。出張中に溜めてしまったら、絶対に全部読むという一年半以上続けてきた営為が途切れてしまうと思ったからそうしたのだが、しかしこれは身体に悪かった(笑)。
そんな過密スケジュールの中、佐藤康光棋聖と二時間対談した時間は(これはお正月に産経新聞に掲載される、たぶん長文バージョンがMSN産経にアップされるのではないかと思う)、僕にとって、仕事や本のことを忘れて楽しむ素晴らしいひと時だった。羽生さんといい佐藤さんといい、人間としてきわめて良質な人たちが将棋界の「高く険しい道」のトップにいて、後輩たちに良い刺激を与え続けていることが、これからの将棋界を、過去とは一味違った、より魅力あるものにしていくことになるだろう。
「将棋は神さまが作ったものとしか思えない、そう思うことがよくある」
佐藤さんはそう言った。
「将棋のルールができて何百年もの間、まったく同じ問題をこれだけ多くの人が解き続けて、いまも百人以上のプロが必死で考え続けて、まだ誰も解けない。解ける気配もない。そんな問題を果たして人間が作れるものなのだろうか」
なるほど、人間の限界までいき、無限性と対峙する日常を続けると、そういうことを考えるようになるのかと、じつに感慨深かった。