「ハーモニー」伊藤計劃。

ハーモニー (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)

ハーモニー (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)

虐殺器官」から後の世界。
虐殺器官」ではアメリカが恐怖のどん底に突き落とされるところで終わっていた。世界はあの後、核ミサイルがドカドカ落とされ民族虐殺が横行した<大災禍>と呼ばれる悲劇を経験したらしい。
そこからようやく復興した世界は、誰もが平和で健康で慈愛に満ちた生活を送るユートピアを作り上げた。科学の力で持って。


面白かった!早いけど「虐殺器官」と合わせて今年NO.1に決定!この発想は素晴らしいです。作者が既に亡くなられてしまって、この続きがあったのかなかったのかわからずじまいなのがとても残念。
前半はなんともいえない閉塞感で満ち満ちて、私でさえも死にたくなった。平和で健康で慈愛溢れる人たち、とこうやって言葉にするととても素敵に思われるのに、誰もがそうならざるをえなかったこの作品の中の世界は、驚くほど気味が悪いものになってしまっている。
そしてラストは、強烈な絶望感。完璧なユートピアを手にした人類が失ったものは……ネタバレで書けない。カナタ的には「虐殺〜」よりも数倍ショックでした。
「よりよく」を目指すのは当然としても、完璧なものなんて決して手に入らないのかもしれない、夢は叶えられないからこその夢。人間はほどほどの幸福と、ほどほどの不幸を背負って、泣いたり笑ったりしながら生きればいい。と思いました。