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桑田碧海録

2016-12-31

ドント・ブリーズ

フェデ・アルバレス監督の『ドント・ブリーズDON'T BREATHE を、現代デトロイトを舞台にした怖い映画くらいの認識で観に行ったら、スーパーナチュラルの要素のあるホラーではなく、スリラーだった。

先年の同じ時期に観た『イット・フォローズ』(デヴィッド・ロバート・ミッチェル監督、デトロイト郊外を舞台にしたホラー。イット=それに感染して魅入られると、歩くスピードでそれに追いかけられるようになる。追い付かれると殺されるので逃げ続けるしかなくなり、力尽きると残忍に殺される)の印象に引っ張られたせいだろう。

デトロイトで貧しい若者たちが家屋不法侵入と窃盗を繰り返していた。ある晩、盲目の退役軍人が一人で暮らす家への侵入に成功するが、この男は腕力と聴力が並外れており、不用意な物音や呼吸音をたてることは即ち死を意味することを彼らは侵入してすぐに知ることになる。男の家から無事逃げ出すことが出来るか、というのが『ドント・ブリーズ』のあらすじ。

この窃盗グループにロッキー(ジェーン・レヴィ)という若い女がいる。貧困家庭の子女で、母親は頼りにならず、幼い妹を連れてデトロイトを出たいと願っており、最後の大仕事を成功させようと侵入した家で怖ろしい目に遭う。そこには最初から犯罪に手を染めなければいいのにと安易に片付けられない切実さがある。ちょうど、宇佐美まことの新刊『愚者の毒』(祥伝社文庫)を読んでいたところだったのだが、作中にロッキーのような境遇の人物が登場した。悲惨さ、守るべき弟妹の数でロッキーを上回るが、なんとしても生き延びたいという必死さは同質である。少しまえの日本では公的福祉制度が整っておらず、貧しさから抜け出そうにも地縁や血縁が軛(くびき)になって、憲法で保障された就労も修学も結婚もまったく個人自由にならなかったことを、貧困の呪いというべきものを宇佐美まことは生々しく描く。その筆致は端整で、美しい景色も汚物も、そこのあるかのようだ。

(三部構成の本書の第一部で二回くらい驚かされた。構成も巧みなミステリ

(カバーに描かれた二人を星野源満島ひかりで演じてもらって映画化希望)

愚者の毒 (祥伝社文庫)

愚者の毒 (祥伝社文庫)

愚者の毒 (祥伝社文庫)/宇佐美 まこと 祥伝社文庫 - 紙の本:honto本の通販ストア

2016-12-11

ミステリーズ! vol.80

ミステリーズ!』vol.80(東京創元社)をご恵送いただいた。ありがとうございます。

表紙では、東京創元社のエントランスに立つスーツを着た女性の手に提げた紙袋からくらり(東京創元社のマスコット)のぬいぐるみが顔を覗かせている。

「レイコの部屋」は今号もお休み。

ミステリーズ! vol.80

ミステリーズ! vol.80

ミステリーズ! vol.80(2016DEC)/米澤穂信ほか - 小説:honto本の通販ストア

2016-11-23

ナイトランド・クォータリー vol.07

雑誌『ナイトランド・クォータリー』(アトリエサード)vol.07 の見本が出ました。拙稿「ぜんまい迷」が掲載されております。中国の清の時代を舞台に、科挙受験生が魔に魅入られる話です。

本誌の発売は十一月二十八日頃です。

ナイトランド・クォータリーvol.07  魔術師たちの饗宴

ナイトランド・クォータリーvol.07 魔術師たちの饗宴

ナイトランド・クォータリー vol.07 特集・魔術師たちの饗宴/アトリエサード - 小説:honto本の通販ストア

2016-11-21

第二回大阪てのひら怪談募集中

(承前)大府市図書館での要件が無事に済んだ。同行の荒蝦夷の土方氏は同所で引き続き東日本大震災被災地の現在の様子などをレクチャーする予定があり、先に帰ってもいいと言うので、お言葉に甘えて一足先に離脱することにした。会場のグループ室にはお茶の仕度も調い、参加者も集まり始めていた。その中に、まえに会ったことがあるような気がする人がいて、向こうもわたしを知っているような顔をしていて、話してみたら久し振りに会うてのひら怪談作家の一人だった。わたしは、「大阪てのひら怪談、いま応募受付中、十一月三十日締め切りだよ」と言って別れた。「わたしはもう応募した」

というわけで、第二回大阪てのひら怪談は、ただいま応募受付中です。

何らかの形で「大阪」が関わる、八百字以内の怪談・物語・お話が待たれています。応募作には山下昇平氏が可能な限りイラストを描き、優秀作には賞品もあります。ただし、一人で応募出来るのは三篇以内です。みっつまでです。

電子メールにテキストファイルを添付する応募形式で、締め切りは十一月三十日二十三時五十九分です。

【応募規定】

※実話・創作を問わず広義の怪談(怖い話、不思議な話、奇妙な話など)に属するオリジナルの物語を募集します。

※なんらかの形で「大阪」と関わりのある物語であること。

※応募資格は不問。

※応募作は商業出版社の本や雑誌やサイトで未発表のものに限ります。

※本文(タイトルや筆者名は含まず)字数の上限は800字。1行20字×40行のフォーマットに合わせて書いてください。

行末のブラ下げ(句読点が21字目にはみだすこと)やルビは字数にカウントされませんが、改行などの余白は字数としてカウントされるので(1行アキ=20字分)御注意ください。

※制限字数をオーバーすると審査対象外になりますのでお 気をつけください。

※応募原稿は上記のメールアドレス宛てに送信してください。また、文字化け時の対応のために、メール本文にも必ず原稿をコピー&ペーストしてお送りください。

詳しくは公式サイトをご覧ください。

osakakwaidanのブログ

2016-11-18

真葛菊(まくずぎく)

愛知県大府市に行った。おおぶ文化交流の杜図書館で、地元にお住まいで『江戸女流文学の発見 光ある身こそくるしき思ひなれ』『江馬細香 化政期の女流詩人』『わが真葛物語 江戸女流思索者探訪』など、江戸の女性作家についての著作がある作家の門玲子氏の拝眉の機を得るためであった。

江馬細香―化政期の女流詩人

江馬細香―化政期の女流詩人

わが真葛物語―江戸の女流思索者探訪

わが真葛物語―江戸の女流思索者探訪

江戸女流文学の発見 光ある身こそくるしき思ひなれ 新版/門 玲子 - 小説:honto本の通販ストア

江馬細香 化政期の女流詩人/門 玲子 - 小説:honto本の通販ストア

わが真葛物語 江戸の女流思索者探訪/門 玲子 - 小説:honto本の通販ストア

来春荒蝦夷から上梓される只野真葛の「奥州ばなし」現代語訳本の巻末に、只野真葛についても詳しい門さんとわたしの対談を収録するための面会である。

今回の段取りを付けた荒蝦夷の土方代表は門さんと面識があるが、わたしは門さんの著作に触れてはいるもののまるきりの初対面。前日午前中は大変緊張した。緊張も長くは続かず、午後になると名古屋きしめんを食べることを思いついて楽しくなってきたが。

それはともかく、門さんはこの図書館の常連で、読書会などもしばしばなさっているそうで、文学仲間の女性四人といらっしゃった。その中のお一人が、庭から小さな野菊を摘んできてつくえに飾って下さった。今年の最後の一輪というその薄紫の花は真葛菊。

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以前、真葛の足跡を辿って仙台を訪れたときに、仙台市荒浜で繁茂していた真葛菊を持ち帰って自宅の庭に移植したものの末裔だという。津波被害で、家も木も草も波に根こそぎさらわれてしまった荒浜の一部が愛知県で生きていたことにちょっと驚く。(仙台時代の真葛には、早起きして弁当を作り、荒浜に遊んだという紀行文がある)

土方さんによると、この真葛菊を分けてもらって、荒浜に戻す計画があるそうだ。

対談は、汗をかきつつ、土方さんに交通整理をしてもらいながら終了した。途中、話しながら、(これ、門さんの本に書いてあった……)と自分の知識の出所を前にして恥ずかしくなったりした。

門さんは打てば響くような才人であった。

愛知県に向かう車中で、門さんの最新刊幕末の女医、松岡小鶴 1806−73 柳田国男の祖母の生涯とその作品 西尾市岩瀬文庫蔵『小鶴女史詩稿』全訳』を読んでいた。冒頭は柳田国男の祖母で、漢詩を物する医師であった松岡小鶴(まつおかこつる)の評伝で、たいへん面白かった。柳田国男が生まれたときにはすでに故人ではあったが、幼い柳田を物心両面で支えた長兄の松岡鼎には優しい祖母だったらしい。

幕末の女医、松岡小鶴 1806−73 柳田国男の祖母の生涯とその作品 西尾市岩瀬文庫蔵『小鶴女史詩稿』全訳/松岡 小鶴/門 玲子 - 紙の本:honto本の通販ストア