〜〜的

 「個人的、社会的、合理的、経済的、文化的、普遍的、積極的、現代的など」、会話でも文章でも都合良く使う言葉である。ところで、こうした言い方が出現したのは、明治以後という。この”的”の由来などが、日本語を興味深く解説した本(「あいまい語辞典」東京堂出版)に載っていたのだが実に面白い。

 明治初期、西欧からそれまでの日本にはなかったいろいろな概念がどっと入って来た。それを必死に日本の言葉・漢字に置き換え、すなわち翻訳・導入しようとしていた。「社会、個人、意識、文化、経済、教育、恋愛」等々。膨大な西欧の言葉が漢字になった。

 名詞は漢字になんとか当てはめたが、それらの名詞の形容詞をどうするかが大問題だったという。古くから「美しい、古い、高い、大きい」などのやまとことばのほかに、「豪華な、健康な、元気な、勤勉な」のように漢語に「な」つけたカタチがある。明治の翻訳家の中で駄洒落センスのある人が、中国語で「〜の」にあたる助詞「的」を、英語の”−tic"という形容詞接尾辞に見立てたのだという。”romantic"、”fanatic"、fantastic"、はそれぞれ、「浪漫的、熱狂的、魅惑的」となるわけである。これが支持され広く一般化した。

 これまで「〜〜的」という言葉を使いたがるのは知「的」階層の人が多かったが、最近は若者言葉で、既成の結合とは一風変わった形で「〜〜的」が用いられている。例えば、「雰囲気的にはよくわかるんだけどね」「人数的には揃ったようだ」「中島みゆき的暗さ」といった具合である。こうした「〜〜的」は、「〜とか」や「〜ぽい」と同様、表現の輪郭をボカすことによって、語感をやわらかくする働きをしているとか。