ある日の札びらものがたり


  郊外のとある市道をクルマで走っていた。前のクルマに続いて交差点に入ろうとした。何か、交差点の真ん中で木の葉ように舞っている。

 お札だ。1000円札のようだ。5,6枚、ダンスのように踊っている。一瞬、クルマを留めてそれらを拾いあげたい衝動にかられたが、バイクや自転車ならともかく、いかんせん流れに乗って走っているクルマではそれもできない。

 想像するに、そんな思いのクルマが次から次と東西南北走り抜けているので両方から煽られながらも中立を保ち、お札はいつまでもそこにヒラヒラ舞い続けるのであった。

 しかし、いつかはあのお札も誰かに拾われるだろう。そんなわけで、今日は一日あの交差点で舞い続けていた札ビラの行く末が気にかかった。

 これは数年前、私が体験した実話である。