「赤ソバは幻想世界伊那路にて」

ここ数年来、テレビ新聞、週刊誌のグラビア、インターネットなどで度々取り上げられいるので、信州伊那谷赤蕎麦の花は全国的に知られるようになった。赤そばの里と呼ばれる伊那谷箕輪町上古田、標高950mの高原は、9月下旬から10月の中旬の花のシーズン、近隣や県内外から訪れた多くの人でにぎわう。

 蕎麦の花は白いというイメージである。ところで、蕎麦の原産地は中国の奥地雲南省からヒマラヤにかけてといわれいる。そこではピンクや赤色の蕎麦が普通にあるとか。1987年にヒマラヤの標高3800メートルの高所から、赤い花の咲く蕎麦を日本に持ち帰り、信州大学の氏原暉男教授(現 名誉教授)がタカノ株式会社(上伊那・宮田村)と共同で品種改良を進め、真紅の花の蕎麦を作り、「高嶺ルビー」と命名した。

 赤蕎麦信州大学の先生と共同開発した伊那谷・宮田村のタカノという会社、私も昔、宮田村の隣の駒ヶ根市に住んでいたことがあるので知っていたが、確かオフィス家具のイスなどのメーカーだった。ネットで見ると今は電子関連部品などにも業種を広げているようだが、その会社がなぜ蕎麦の種の品種改良をするようになったか興味が湧くところである。

 ヒマラヤ高地の赤蕎麦の種をそのまま低地に持って来て栽培しても、蕎麦の花は赤くならないという。そこは日本の風土に合うよう長年の研究・品種改良の成果なのである。だから赤蕎麦は実質、信州・伊那生まれの蕎麦であり、品種なのである。

 赤蕎麦の花は美しく見た目もいい、話題作りや観光にも役立つということで、私の知る限り、同じ伊那地区の中川村、木曽開田高原白馬村、小谷村など、県内外にだいぶ広がっているようである。しかし単位収穫量は、やはり白い蕎麦に比べればだいぶ落ちるらしい。味はいいとの評価のようだが、実際に食べた感じ、私にはよくわからなかった。

 県内に普及しつつある赤蕎麦だが、その鑑賞の第一番の名所は箕輪高原。同じ箕輪町内広域農道沿いにもあるが、見応えのあるのは山麓線から入った中央アルプス山麓の遊休地4.2haに栽培されている赤蕎麦畑。下の上古田の集落から見ると森の中がポッカリ空き、そこがピンク色に染まっているのが見える。ここでの赤蕎麦栽培は1996年(平成8年)から始まったとか。私も2002年から毎年取材で訪ねているが、例年のことでここの赤い花を見ないとどうも落ち着かない。

 赤蕎麦の花は実に鮮やかで印象的。一見の価値、大いにありである。あたり一面のそのただ中にいると何か不思議な感覚にもとらわれる。この赤い蕎麦の花、天候の加減などによって色合いが変化し、写真写りもさまざまに。年によっても赤みが薄い時もある。種を発売しているタカノの担当者の話では、栽培で採取した種をまた蒔くということを繰り返すと、花の色が段々薄くなるという。だから新しい種を買ってほしいということのようだった。