クラメルの公式
連立一次方程式を解く際に便利な公式、クラメルの公式(cramer's fomula)。
しかし、普通に生活していて行列が必要になることなんてまずないので、
扱い慣れないために、この方法を使う人は多くはないだろうと思います。
ま、普通の生活に連立一次方程式が現れるとも思いませんが。
ということで、クラメルの公式の使い方を紹介しちゃおうと。
序でに、行列云々も軽く説明しちゃおうと。
では、参りましょう。
クラメルの公式(2×2の場合)
先ず結論から。
複雑にしたくないので、二次の正方行列(2×2)の場合について書きます。
クラメルの公式(2×2の場合)
が正則であるとき、
の解は、
となる。
行列を一切使わずに同じことを書くと、
のとき、
の解は、
となる。
使用例(2×2の場合)
簡単な例で確認してみましょう。
代入法を使うと、
一つ目の式を移項して
二つ目の式に代入して
計算すると、より
一つ目の式にを代入してより
よって、です。
クラメルの公式を使ってみましょう。
に対応しています。
だから、公式を使えます。
おっと、もう求まりました。
便利でしょ?
ま、これは単純な場合なので、どちらでもさほど変わりませんが。
さて、2×2の場合は行列の知識がなくとも簡単に出来るのですが、
3×3以上になってくると、そうも言っていられません。
ということで、「行列」の話に入りましょう。
行列の作り方
クラメルの公式に当てはめるには、
先ず連立方程式を行列での式表現に変える必要があります。
といっても、簡単なことです。
の場合、
の場合、
これは、行列の積の定義に拠ります。
行列の積の定義
行列の行列と行列の行列の積、行列の行列の成分は、
行列式
次は、「行列式」に入りましょう。
行列に対して
行列式はと書きます。
行列と行列式の大きな違いは、
「行列式」は値を持つ、ということです。
つまり、「行列式」は計算することが出来ます。
ただし、こんな単純に計算できるのは2×2の場合だけです。
3×3の場合は、次のようになります。
行列式を小さくする
3×3以上の行列式の計算は面倒です。
大きい行列式になると、そのまま計算するのはほぼ不可能です。
そこで、色々なテクニックが登場します。
その一つに、行列式を小分けする方法があります。
さっきの3×3の行列式を見てみます。
これを、で括ってみると、
ここで、括弧の中を2×2の行列式に直してみます。
この式、実は3×3の行列式ののそれぞれがある行と列を隠した時の
2×2の行列式になっているということが分かりますか?
ただし、に対応する行列式だけは逆になっています。
これで、3×3の行列式を2×2の行列式だけで表わすことが出来ました。
逆になっている部分を、マイナスを付けて反転しておくと、次のようになります。
また、やといった括り方も出来ます。
ここで注意するべきは、とにかく符号。
左上をプラスとして、
横か下に移動するたびにマイナス、プラスと反転する、と覚えるのが好いと思います。
今は3×3の行列式を2×2の行列式で表わしましたが、
3×3の場合に限らず、どんな大きな行列式も、一つ小さい行列式で表わせます。
つまりこれで、どんなに大きな行列式でも2×2の行列式で表わせるのです。
4×4の行列式を2×2の行列式で表わしてみます。
ちょっと長くなりますけどね。
「正則」とは
ここで言葉の説明を入れておきます。
「正則」というのは、逆行列が存在することです。
今回は逆行列には触れませんが、逆行列が存在するための必要十分条件が
行列式の値が0でないこと、になるのです。
正則でない場合、連立方程式の解はどうなるのでしょう。
例を挙げます。
この場合、より、正則ではありません。
連立方程式の二つ目の式を2で割ると、一つ目の式に一致します。
これはつまり、を満たすなら、どんなでも良いということです。
それは例えば、1と3だったり、2と1だったり、ということです。
もうひとつ、例を挙げます。
行列式はさっきと同じのため、正則ではありません。
二つ目の式を2で割ると、になります。
この連立方程式を満たすは存在しません。
グラフを書くと分かるのですが、この2式は平行な直線だから、
が交わる点が存在しないのです。
よって、解なし。
つまり、行列が正則でないときには、
その連立方程式は解を持たないか、無数の解を持つことになります。
クラメルの公式
では、今度は一般化したクラメルの公式を見てみましょう。
クラメルの公式
が正則であるとき、
の解は、
…
となる。
……はっはっは。
いや、なんでもありません。
使用例(3×3の場合)
ということで、例を示します。
行列で表現すると、
先ず、正則であることを確認します。
正則が示されたので、解を求めましょう。
分母は行列式の値だから-29ですね。
両辺に-29をかけておきます。
よって、です。
同様に、
これよりと求まりました。
検算しておきましょう。
を代入します。
合ってますね。
無事、解を求めることが出来ました。
行列式のテクニックを駆使すれば、もう少し簡単に解けますが、
今使った2×2の行列式の計算と行列式の小分けさえ知っていれば、
もうどんな連立一次方程式でも解けるはずです。
あ、因みに連立一次方程式のことを線型方程式系と言ったりもします。
クラメルの公式の証明
クラメルの公式を使うと、解が手早く簡単に
求まることが分かって貰えましたか?
では、何故解が求まるのか、証明してみましょう。
ここで、普通なら逆行列を登場させるところなのですが、
そうなると余因子の説明が必要となって面倒なんですね。
ここはひとつ力技でやっちゃいましょうか。
3×3の場合を証明します。
他の場合は、各々で逆行列を駆使してやってみてください。
proof
先ずは線型方程式系を用意。
の係数を取ってしまいましょう。
一つ目の式−二つ目の式、二つ目の式−三つ目の式を連立させます。
分母を払って整理します。
に互いの係数を掛けて、二式の差を取ります。
[tex:*1x]
[tex:=*2]
展開・整理すると、
は共通因子だから取ってしまって、括弧の中に注目します。
見覚えありませんか?
3×3の行列式ですよ。
最後に両辺をで割れば、についてのクラメルの公式です。
についても同様。
Q.E.D.
0割りを考慮していませんが、成分が0なら変数が少なくなりますから、
より少ない手順になるはずです。
力技の証明、完結です。
やはり、逆行列を使う方がスパッと行きますね、うん。
挑戦
それでは、一通りの解説も終わったことだし、実践して貰いましょう。
次の線型方程式系を解くべし。
解をの順に並べれば、馴染みのある語呂になるはずです。
くれぐれも、代入法で解いてしまわないように!
さてさて、ちょっと変わったアプローチで行列に関することを書いてきたのですが、
いかがでしたでしょうか。
これで興味を持って貰って、さらに深いところへ進んで頂けると、
ぼくは、甲斐あったと泣いて喜ぶ次第でございます。
暗記事項を極力減らす書き方をしたので、
かゆい所に手が届いていない部分もあるかもしれませんが、
どうかご容赦くださいまし。
ともかくも、お疲れ様でした。