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stratoscope

2009-06-23

けいおん!はいかにしてストーリーを語り出したか

| 04:38 | けいおん!はいかにしてストーリーを語り出したかを含むブックマーク けいおん!はいかにしてストーリーを語り出したかのブックマークコメント


けいおん第12話を見てあまりにも「感動のフィナーレ」だったため違和感を覚えて一度通して見直してみることにしました。


そして結果理解したこととはアニメ版けいおん!という作品において一徹されている主題は「まったり部室もの」でも「成長サクセスストーリー」でもなく「軽音部の友人達と活動(演奏)することの楽しさ」に他ならないということでした。


今さら何を…と思われるかもしれませんが、全てのピースが埋まった今一度見返してみると至る所にギミックが張り巡らされていることに気づくことが出来るでしょう。


この方向性は明らかに「ほんわか日常系」「まったり部室もの」であった原作と違ったところを進んでいますね。


それではアニメ版が日常系作品であった原作と比較してどのようにして別の道を歩いていったのか、構成上重要な話を挙げながら軽く示していきたいと思います。



§ シリーズを通してどのような物語構成になっているのか


このアニメ版での既定路線を進むに当たって特に重要な役割を担っている話を、その話の特徴的な台詞と一緒に挙げてみましょう。

基本的に原作にはない、オリジナルのエピソードが多いですね。

▼第1話 「舞台装置の提示(軽音部の存在)」「紬:主題への憧れ」

紬『ご一緒にポテトもいかがですかって言われるの、憧れてたんです』


第1話ということで舞台装置としての軽音部がどのように用意されるのかが視聴者に提示されます。

同時に主人公(=唯)の克服すべき課題として「高校で何かをしなければ」という漠然とした不安も提示され、これからのストーリーテリングがどこに軸をおいて語られるのかを予感させる構成となっています。

また紬においては、すでにこの時点で主題への傾倒がしっかりと見て取れます


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▼第2話 「唯:主題への動機付け

唯『私、自分で買えるギターを買う。一日でも早く練習して、みんなといっしょに練習したいもん』


メンバー全員で唯の楽器のためにバイトをするというエピソードが挟まれます。

これによって唯は軽音部のメンバーが自身と気持ちを共有できる仲間であるということを実感し、主題への動機付けが行われます。(詳細は下記参照)


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▼第4話 「澪:主題への動機付け

澪『私たちより相当上手い…なんか聴いてたら負けたくないな、って』


この作品の行く方向を初めて、そして明確に示した話ではないでしょうか。

私は第3話までの脚本から、特に唯の課題を第1話において示したことでこの作品は「それぞれのキャラが課題を乗り越えて成長するという物語」を志向しているものであるとばかり考えていました。簡単に言えばバンドものになると思ってたわけですね。


しかし、そういった成長ストーリーとして必要な手順が、今回の合宿と言った最高の舞台において踏まれることはありませんでした。

正直に書きますが、この時点で私は物語構成として破綻の序章を踏み出したと考えていました

全てのピースが見える今においては、色々なところに見えるものがあるというのに情けないことです。



この話は澪が昔の軽音部のライブカセットを見つけるところから始まります。

そして今の自分たちとのあまりの差に愕然とし「負けたくない」と強く思うことから合宿を発案します。

しかし紬の「負けないと思う。私たちなら」という言葉や、花火の前で本当に楽しそうにギターではしゃぐ唯を見て本当に大切なこと・大事にしたいことがなんなのか澪は自覚することになります。


既にこれまでにおいて主題に傾倒している紬と唯が、ここで次のキャラクターの主題へのアクションのトリガーになっているという構図ですね。


最後の場面ではホワイトボード「by軽音部!」と付け足すことで、視聴者に対しても視覚的にこの作品の主題のなんたるかが提示されています。


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▼第9話 「梓:主題への動機付け

梓『4人揃って演奏すると、どうしてこんなに良い曲になるんだろう…。どうして…』


新メンバーとして入部した梓の苦悩が描かれます。個人的に一番好きな話ですね。


軽音部のゆるゆるした雰囲気になじめない梓に、同じような経験を持つ澪は色々なところでフォローを入れようとしますがうまくいきません。

梓は第4話での苦悩する澪の姿そのものと言っていいでしょう。澪は梓の姿に昔の自分を見ていたのかもしれません


そして軽音部にも、外のバンドにも自分の立ち位置を見つけられなくなりどうしていいのか分からなくなってしまった梓に対して、第4話で唯や紬が澪のトリガーになったように澪は梓の動機付けのトリガーとして重要な役を演じます。「私はこのメンバーと演奏したいんだと思う。それはみんなも同じで。だからいい演奏が出来るんだよ」と。


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▼第11話 「律:主題への動機付け」「最後の舞台へ向けて主題の確認」

紬『律ちゃんの代わりはいません!!……待っていよう。律ちゃんが来るの待っていようよ…』


原作通りの展開を見せると思いきやAパート後半から完全オリジナル展開となりました。

ただ今見ても多少展開に無理があるかなぁ…と思うところもあります。*1


この話は、ここまで明確な動機付けが無かった律と、動機付けはあったもののそれをはっきり表現させる機会の無かった紬のために用意された回であると考えています。


律は体調が悪かったとはいえ色々と迷惑をかけてしまった自分でも何も言わずに受け入れてくれる、自分の居場所として軽音部を再認識し、紬は「このメンバーに代わりはいない、このメンバーだからこそ自分は軽音部にいたいのだ」ということを明確に発露させます。


さあ、最終回に向けて全ての準備は揃いました。いざ最終回!


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▼第12話 「フィナーレ=主題が実現されていることを自覚する」

唯『そういえば、入学式の時もこの道を走った。何かしなきゃって思いながら。何をすればいいんだろうって思いながら。このまま大人になっちゃうのかなって思いながら。』


「このメンバー全員で学園祭のステージに立つ」全てのハードルをクリアしたと思われた矢先、唯が風邪を引いて倒れてしまします。

Aパートは基本的に原作に沿った流れですがここまでの土台作りの効果で、台詞の重みが違います

梓「ダメです!みんなで出来ないのならば辞退した方がマシです!!!」や澪「本番までゆっくり休んで風邪を完璧に治すこと!そしてみんなで本番を迎えること!」はその典型でしょう。


そしてBパートで始まる学園祭当日では、唯が家にギターを忘れ(原作では憂が持ってくる)家に取りに戻る描写を入れることでことで第1話の怠け者だった唯と今の唯との対比を視聴者に明示します

王道ですが、BGMと相まって非常に印象的なシーンとなっています。

個人的にこのシーンがドラマチックなのはモノローグ+第1話との対比構図とボーカル曲のクロスカットによるところが大きいと思いますね。


そして最後は、紬のリフから始まり全員が一人ずつ加わって「もう一回!」のふわふわ時間を演奏した後に終劇となります。

この「もう一回」には今まで何度も物語に登場してきた音楽準備室前の階段であるとか、部室の椅子や食器棚のイメージが重ねられます。

ここでは、第1話「廃部!」の冒頭のシーンと同じシチュエーションになっています。1話目の彼女はただがむしゃらに明確な目標もなく走っていたわけなんですが、今回の彼女は違います。


ステージ上で待っている軽音部のメンバーのため、自分にとって大切な場所のために走り抜くのです。あと、1話目と決定的に違うのはギターを背負っているということ。

このギターは自分のやりたい事と軽音部への想いが詰まったもので、それを背負って走るという事は、1話目とは背負っている重さが全く違うのです。


けいおん! 第12話「軽音!」が面白い - 海ノ藻屑

1話では遮断機が上がりきるまで待っていたけど,12話では待てずに潜ってたり

1話ではたくさん寄り道してたけど,12話では一心不乱に走っていたり……


こーやって1話と比較して,「如何に唯が真剣であるか」を執拗に描写している.

しかも,この1話からの「唯の成長」を表すカットが入るたびに,カメラが近づいたりしている.

(上で説明したカメラの動きに,1話と違うカットを並べるとこーなる↓)


俯瞰カメラ(客観)→尻餅を着かない・パンを咥えない→ロングショット→1話で寄り道をしていたときのカット→ウェストショット・カメラとの間に障害物が横切る→遮断機が待てない→ウェストショット→アップショット→主観ショット


けいおん!12話のライブシーンが何故感動的なのかを解説する -WebLab.ota

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それぞれの話の関係が分かるように簡単な図にしてみました。

これらの話が密接に関わり合ってフィナーレである12話に向かって突き進んでいる様子が分かっていただけるのではないでしょうか。


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§ キャラクターごとに見てみれば


キャラクターごとにその動機付けを見てみるとどうでしょうか?

上記の話ごとの切り口とはまた違った発見があると思います。

▼唯

第二話のギターを買うためにみんなでバイトをするというエピソードで,唯は,みんなと一緒にひとつの目標(音楽・バンド)に向かって努力するという楽しみを経験し,また,みんなが「惚れた楽器をどうしても手に入れたい」という唯の気持ちにも理解を示してくれる…同じ気持ちを共有できる仲間であることを実感する.


何故彼女たちはバイトをする必要があったのか? 〜けいおん!〜 -WebLab.ota

で書かれているように、この第2話のエピソードによって主題である「軽音部の友人達と演奏することの楽しさ」を見いだすことになります。


また第4話の合宿においては原作にある台詞「やっぱり音楽っていいね」の後に「今日、みんなで初めて合わせてみて楽しかったもん」という台詞が追加され、唯が軽音部への参加をする動機付けがより明確になっています


最終話では第1話との対比で12話通して唯がどのように成長してきたのかが表現されています。


▼澪

澪は上にも示したとおり、梓と密接な関連を持った上での動機付けがなされます。


はじめは律に半ば強制的に軽音部に連れてこられた澪でしたが、第4話において昔の軽音部のライブカセットを見つけたことでその心境に変化が訪れます。

「負けたくない・・・」との気持ちで合宿を宣言する澪でしたが、他の三人に振り回されながらもギターを持ってはしゃぐ唯を見て気づきます。「この友人達とステージで演奏したい」という気持ちに。


また(技術的な意味で)上手くなりたい・良いバンドにしたいという思いを持って入部してくる梓に対し、そこに過去の自分に重なるものを見いだす澪は梓に動機付けを与える重要な役柄を与えられていると言えます。


▼律

正直一番悩みました。というのも律には「澪と一緒でなければならない理由」はあれども「このメンバーでないといけない理由」を明確に見いだすことが難しかったからです。


単純に考えれば軽音部の発起人であり、ここまで軽音部を引っ張ってきた律には特別な理由は必要ないと言うことでしょうか。

第7話の初詣では「みんな〜軽音部のこと祈ろうぜ〜」としっかり軽音部のことは大事に思っていることが見て取れます。

ある意味最も自然体に「このメンバーで軽音部をやること」を受け入れているのが律と言えます。


また第11話では自分の体調不良においてメンバーに迷惑をかけてしまった時に、澪「みんな待ってるからさ」→律「…怒ってない?」→澪「ないよ」のやりとりなどを通して軽音部が自分の居場所だと改めて認識したのでしょう。


▼紬

紬は「めったに出会えない、とっても楽しくて愉快な人たちの仲間になりたかったの」の言葉からも分かるとおり、はじめからこのメンバーで活動することにこだわりが存在します。


第1話のファーストフードでの描写に代表されるように、今まであまり深い関わりを持ってきた友人を持たないと思われる(もしかしたら親友と呼べるレベルのものは初めてなのかも)紬にとって「この4人で」というこだわりは誰よりも強いものであるのかもしれません。


そういったこだわりは第4話「負けないと思う。私たちなら」や第11話「律ちゃんの代わりはいません!!」の台詞に強く表れています。

特に11話においてはさわ子先生の他のメンバーを探すという提案に対して、今までにない強い調子で他のメンバーより数段強い拒否反応を露わにします


▼梓

梓は当初「本物のジャズって言うのとは少し違ったかなぁ…」などの台詞から窺われるように、技術的・音楽的に高いレベルを志向する人物として描かれます。そして新歓での軽音部の演奏を聴いて感動したことで軽音部への入部を決めます。


しかし実際には軽音部の面々はあまり練習をしないわけで…もともとストイックな性格であった梓は自身への戒めとして自分の居場所を外へ求めますがそこに求めるものを見いだすことは出来ませんでした。


練習しない先輩達への苛立ちはもちろんですが、それ以上に新歓で何故軽音部の演奏にあれほどの感動を覚えたのか、より上手いバンドはいくらでもあるのにそれらに心躍らないのか、自身が今まで是としてきた音楽への態度に自信を持つことが出来なくなってしまったのでしょう。


しかし澪から何故自分が外でバンドを組まないのか、このメンバーで演奏したいのかを聞かされることで自分のこの気持ちがどこから生まれたものなのかを自覚することになります。



§ なかなかどうしてしっかりした土台の上に構築されていたけいおん!


それぞれの話ごとに見ると第2話のような「(ともすれば回収されなかったように思われる)ネタふり」や第9話や第11話のようなシリアス回もあり、かなりテンションに差があるためいまいち構造が見えにくくなってしまったような気がします。


「まったり部室もの」をやっていると思ったらよく分からないままにシリアス回があり、最終回では何故か課題を克服したが如き感動のフィナーレだった…ともすればそういう風に見えてしまうかもしれませんね。*2


ただもう一度見直してみると、第1話からフィナーレに向かってしっかり一歩ずつ進んでいる堅実な作品だと思います*3


来週の番外編(第13話)で放送は終了してしまいますが、一度最終回を迎えた作品でも見直してみることで新しい発見があるかもしれませんね。

*1:律の行動とか。いくら体調が悪かったとはいえ

*2:私はそうでした

*3:ただやはり第11話の律と澪のケンカの振りは唐突すぎるような気がしないでもないですが…

mattunemattune 2009/06/23 08:17 まさに段取りアニメ。
上記の図は「段取り計画チャート」と命名します。
勝手にw

unspheredunsphered 2009/06/23 14:58 ギャルゲのフラグ立てですよねまさにw
この段取りをしっかりと踏んでフィナーレに持ち込む構造はクラナドそのものだと思いますね

個人的にこれはこれで嫌いではないのですが、最近この手の作品ばかり見ているためかリンゴがウサギになっちゃうような演出に憧憬してしまいます
どうも潤いが足りておりません

unspheredunsphered 2009/06/26 03:41 いくつか意味が不明瞭な部分に修正と補足入れました

w 2009/06/29 17:08 いちいち理由付けして見ないと楽しめない口ですか?

>最終回では何故か課題を克服したが如き感動のフィナーレだった…
そしてピントがずれてるモンだから、救いようがないという・・・

grohlgrohl 2009/07/18 22:54 「気付けば感動」と「一歩ずつ」、的を射てる。

1話は紬は最初から仲間 意識が在るのが面白い。
2話は芽生え。
4話は互いの役割。
その画像 紬と澪 距離 有るねー、ギリだね。

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