漫画”ワンピース”の批評を考えてみる「なぜ根性で敵に勝つ」のか。脱皮と「イヤ!ボーン」の法則は同じです。・・・ほんと長くてゴメン。

ワンピースの「面白さ」を構造的に
考えてみようと思ったのは、

http://d.hatena.ne.jp/kamiyakenkyujo/20100628/1277732436
↑2010-06-28 なぜ『ONE PIECE』はつまらないのか?

↑のエントリを読んでいて
共感する部分がありまして。

読むの面倒だーという方のための要約

○敵との対決、勝負を分けるのは「叫び」
 ルフィが「精神論で勝つ」のは 納得できない。

○「モンキーターン」のキャラの「必然」性のある「叫び」なら分かる

○面白いと思う人、理由を教えて。

前エントリの内容をまとめるとこんな感じですが・・・

ワタクシのスタンスは

○話は「謎」めいていて次回にひっぱる「作品的強さ」を感じるが、
主人公ルフィに感情移入できない為、
正直楽しめているのか自分でも疑問。

*1

○その他キャラクターはそれなりに魅力的だと思うけれど
(”人間的弱さ”のあるウソップは好感がもてますが)


○とはいえ・・・さすがに読むのは”60巻越えはツライ”収納にも困る


○「世界観を楽しんでいる印象」を自分が持っている、

そんな自己分析です。

・・・この話、結構長いので気長にお付き合い下さいな。

*2
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まず、通して読んでみてエントリに対する回答としては
「根性で敵に勝つ論理性のないバトルには共感できない」
という論旨には逆の意味で

「なぜ”根性”で敵に勝たなければならないのか?」
に問題を置き換え考察してみます


○ジャンプバトル漫画の「インフレ」問題
*3

前エントリに対するいくつかある回答の一つには
”バトル漫画における「敵インフレ」問題”回避があります。

バトル漫画における「前の敵の方が強かったよな?」が
「敵インフレ問題」の本質
ですが。

名著「サルでも描ける漫画教室」(以下略称:サルまん)では

サルまん
「バトル漫画の敵は串団子状態にある」との名言を残していますが


漫画「ドラゴンボール」における敵「フリーザ」後の「セル」の位置づけが
「あぁ、いかにも後付けキャラ」
的感覚になることを便宜的に「敵のインフレ」と呼ぶならば、

毎回登場する強力な敵とのバトルで主人公が”強化”されないと>負ける(=死もしくは物語の中断)を迎えます。

(昔の漫画ならばここで「ヨーダ的賢者」の所に出向き修行モードに入る所ですが)

この”強化”には”必殺技”を覚えるか、自分の”気づき”が必要になります。

”必殺技”も”気づき”もバトルの最中のちょっとした「ひらめき」から毎回
得られると良いのでしょうが、良いのでしょうがこれもインフレします。

ミスター味っ子(6) (講談社漫画文庫)

ミスター味っ子(6) (講談社漫画文庫)

ミスター味っ子
(料理マンガ「ミスター味っ子」は漫画の特性上”修行出来ない為に
三者のなにげない一言からヒントを得て料理を仕上げてライバルとのバトルに勝利しますが)


(まさにTV落語からヒントを得た、”気づき”の瞬間・・・!)


「必殺技」もゲーム「ストリートファイター2」以降の「波動拳」のダメージを
想像してみればシリーズを追うごとに低下してます。

皆が出せるようになった事で必殺技が「必殺」として機能不全に陥ったように、
次回に出てくる敵キャラは「必殺技返し」を履修済みで出てきて読者の興味をあおり
かつての必殺技は意味が無くなるのです。

*4

その内”ひらめきマダー?”とか
”225倍界王拳だせば?”などと
飽きられて袋小路に入ることは確実です

ひらめき禁止、必殺技禁止・・・しかしバトル(物語)は続けなければいけない・・・
そんな中著者は一つの仕掛けを入れました。

「バトルのインフレ自体を抑制する」事です

「バトルのインフレ」をコントロールするとはどういう事なのか・・・?


尾田(敬称略)の戦略は「主人公を強くしない」事でした。


(もしくは敵を必要以上に強くみせない&成長が遅い
と言い換えても良いかもしれません)


ルフィ一行は敵を倒したあと別の島(もしくは街)に移動するため、
倒した旧敵を新しい敵が倒して強さを表現する事は控えめです。

(例外としてはドフラミンゴがモリアを殺害したケースがありますが)
移動することで敵の強さをある程度「リセット」する効果があると思われます



敵の必要以上の強化はルフィ一行の更なる強化に他なりません、
成長を緩やかにする事で修行シーンの削除に成功できました。
戦いの中で成長する、って奴ですね。



ふと考えると「ドラクエ」も戦闘でのみ強くなりますね・・・
ワンピースはそういう意味で
”漫画でRPG”(ロールプレイングゲーム)をしてる稀有な本
言えるのかもしれません。


○ワンピースのバトルは何故「論理的」でないのか?の考察

ジャンプバトル漫画に革命をもたらした「JoJoの奇妙な冒険(第三部)」を読むと
ジャンケンのような三すくみを持ち込みキャラクター化と論理性をバトルに導入、
異能者達の闘いを描いた傑作ですが

”論理的に強い”相手とのバトルを展開していくと、
さらに”論理的に強い敵が現れる”=”時間を操る敵”など、これも
ある意味で敵を強化していかざるを得なくなりこの手法も急速にインフレしていく
ことになります。

「主人公を強くし過ぎない」戦略は”論理バトル”や”必殺技&ひらめき”には
向いていないだけでなく一歩誤ると「面白くない展開の漫画だ」という評価が
付きかねません。



○故にワンピースの「根性バトル」は必然である!(卵が先か問題)

主人公の強化はしない=敵の強化はある(論理的バトルの封印&必殺技の封印)

・・・では、どうやって敵に勝つのか?

ここで出てくるキーワードが”気合い”こと”根性”の表現としての”叫び”です。
 敵は主人公達より(基本)攻撃力が強いキャラクター。
単純な戦闘能力の比較ならば上記の”串団子の罠”に自らハマル事になります。

故に”叫び”で自己の殻を破り、感情の発露で戦闘中に成長という・・・
あれは「脱皮」の痛みなのです。

と、ここで再びサルまんに戻りますが。
別な章で「エスパー漫画」に触れている所があり、興味深い記述が。


イヤボーン」の法則・・・

水戸黄門の印籠は権力(という暴力装置)を背後にした”威光”で悪代官を
こらしめる事で視聴者にスッキリ感をもたらすものですが、
ルフィの「叫び=イヤボーン」がなぜ強力なのか?それは
ルフィが「ガープ(中将):祖父 ドラゴン(革命家?テロリスト?):父」に持つ
勇者(世界を変える力の持ち主)系の家系に生まれているので・・・

ある意味
勇者だから仕方ない、のです。

そういう所も”RPG的”と言えるでしょう


*5


ワンピースという漫画は、本当に敵キャラのインフレをなるべく避けつつ
主人公はあまり強くしすぎない、事に細心の注意を払っている印象を受けます。


主人公の実力だけ段違いに強くなりすぎると
「別にルフィがなんとかするでしょ?」と飽きられるでしょうし、
実際問題いわゆる「修行期間」は読者アンケートの結果は悪い傾向が出やすいようで、
ワンピースでは「修行しない」選択をあえてした結果として、

修行しない>主人公達は強くならない>
敵とのバトル>気合いで勝つ・・・しか無いですよね?

論理的な(ある種詰め将棋的でもある)バトルは敵を強化していく道に
突き進みかねない事を避けようと思えば・・・
必然的に「イヤボーン」しか無くなる訳なのです。


 主人公ルフィは強くなる、という意志を比較的持たない
ドラゴンボールの吾空ほど自覚的に意識はしていない、という意味で)
キャラクターとして作者がデザインしている、と考える方が自然です。



なるほど、ルフィの掛け声の「海賊王に、俺はなる!」は
「強くなる事=海賊王」ではない点が
物語最後のオチにも繋がりそうな気が・・・とはいえ
ルフィ強いですけどね。


*6

以上の考察をもって「何故ワンピースのバトルはいわゆる”根性バトル”になるのか」を終えますが、
正直、「白ひげの死」以降「修行」してたりとエントリ掲載の2010年6月から状況が変化している、
という点は了承下さい

戦闘要員が増えたことによりバトルシーンが大幅増で
テンポが悪く感じた魚人島編が終わり、
ビックマムとの直接対決が迫る中
パワーアップしたルフィ一行の戦闘の展開がどのようになるのかが
個人的には見ものではあります。

ビックマムって・・・大きいドーラ婆さんか?
(”天空の城ラピュタ”の空賊のボス)



その他===========================================================

売れてる故の当然批判もあり、

http://alfalfalfa.com/archives/4960161.html
↑笑えないほどワンピースつまらないんだが、
こんなのをぶっちぎりで日本一売れる漫画に仕立てたの誰だよ

こんな批判も。


おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ

おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ

↑ここまで言い切れるぐらい「ふてぶてしく」なりたいものですが。
”ドフラミンゴ”みたいな人物だなぁ・・・。

売れるが勝ち(価値)の価値観も一面の真実だけど、
それ以外の美学とか共感を「真田幸村」に感じる日本人的感性が
だから「勝ちさえすれば何をやってもいい&負けた奴は黙ってろ」
という考え方には同意できませんが・・・。

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あと、この記事は何日か前から書き溜めていて、訂正&修正を繰り返し、結局こんな日に・・・
長文を正月から読んでいただき、ありがとうございます。
今年もよろしく。

*1::個人的には「インペリアルタウンで全員集合」の時はテンションあがりましたが、
冷静に考えると、監獄襲撃で世間的には凶悪犯・大量脱獄を
手引きした極悪人
ですよね・・・ルフィって。
冷静に考えると少し引いた。

*2:参考文献として「サルでも描ける漫画教室」はオススメです。

*3:用語解説:インフレ 供給が需要を大幅に下回ることによって発生する現象=WIKI調べ (この場合の言葉の意味としては陳腐化としても良いかもしれません)

*4: 脚注:ここでいう”必殺技”とは攻撃に名称がついた
”ゴムゴムのガトリング”などは必殺技には取り入れてません。
むしろ車田正美作品などが必殺技のイメージに近いと解釈しています

*5:ここできっと「いや、戦闘中にルフィひらめいたり、クロコダイル戦では
敗北してるしちゃんと読み込んでいないテメーにアレコレ大好きなワンピ
汚してほしくねーんだよ、SINEやカス」とか
「これだけ売れてる漫画は他にねーだろ?楽しめないのはお前の文盲のせい」
といった批判はあるとは思いますけど・・・

*6:脚注:ワタクシは「叫び」はルフィと”読者の感情”シンクロ率を上げるツールとして機能している、と解釈しています。