食人賞:世界グルメ奇行

彼はある国、ある年、ちょっとした富豪のもとに、虚弱児として産まれついた。
産婆はその子の小ささに驚き、この子は長くは生きられないだろうと思った。
その子は体が弱く、なかなか食べ物を受け付けなかった。
ミルクなどまったく飲まず、母乳でさえなかなか飲まなかった。
親は健康な身体の乳母を求め、その子のためにできるだけ最高の環境を用意した。


親の尽力のお陰で彼はすくすくと成長した。
ただ、彼は食物について異常なほどのアレルギーをもっていたのだ。
いや、それはアレルギーではなく生存本能によって先鋭化された味覚とよぶべきものかもしれない。
大抵の食べ物を彼は食べることができなかった。
少しの毒物にも彼の純粋な身体は拒絶反応を起こしたのだ。
家畜の肉、農薬を使用した野菜穀物、添加物の配合された食品、すべて食べることができなかった。
完全な無農薬、有機栽培の野菜穀物、または最大まで手をかけられた食肉、それらを純粋な調味料で調理した料理のみを、選んである程度だけ、食べた。
いうなれば彼はうまれついての美食家、グルメだった。


彼は成長し、食物、栄養について専門的に調べ始めた。
この世には完全食品とよばれるものがあるという事。
それだけを食べれば生きていける、必要な栄養素を全て含んだ食品。
例えば、卵はひよこになるための全てが詰まっている。
子牛は牛乳だけを飲んで大きくなる。
また、東洋には生命素という考え方が存在する。
ほうっておけば芽が出る食物やそれ自体丸ごと食べれる食物には生命素が存在するという。


彼は最高の食べ物を見つけたと思った。


彼は病院、産婦人科の職員となった。
人に必要な完全な栄養素、それはヒト自身だと彼は考えたのだ。
そして、ヒトの元となるモノ、ソレには生命の素がたっぷりと詰まっていることだろう。
彼は堕児の遺体をどうにかすり替え、手に入れるようになった。



彼は云う。
「この私の身体には沢山の生命の素が詰まっている。摂れば摂るほど若返るようだ。私はますます健康になっているよ」


実際彼は歳を取らないかのごとく元気だ。
怪しまれないようずっと世界を転々としているという。
一体何年、何十年、経っているのか彼にも分からないという。


人は彼をフーマンチュー博士と呼ぶ。


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