杉作J太郎「ボンクラ映画魂」

斎藤陽子が青春であった。「トゥナイト2」と「スーパー競馬」の斎藤陽子である。前者は夜の学校であり、後者は週末の放送大学であった。おまけに「SASORI IN U.S.A」である。だから斎藤陽子が「スーパー競馬」を辞めた昭和74年3月に私の青春は終わるのである。

「トゥナイト2」といえば杉作J太郎である。杉作J太郎の書いたものでは別冊宝島143「競馬名馬読本」の「ボンクラ族最後の砦 キョウエイプロミス」と並んで、「ボンクラ映画魂」(洋泉社)の内田良平の項が好きである。

84年六月、大阪(舞台出演中)で死去。一人暮らしだった東京の自宅を知人が尋ねてみると、部屋で、金魚鉢の金魚だけが泳いでいた……という記事を当時読んだような記憶があるが、それは内田良平のイメージに合わせて俺が勝手に作りだした記憶かもしれん。

読んだ当時はまだ三流私大の学生で、電気グルーヴを聴きながら延々と「信長の野望」をやっているような無能者だった。その「信長の野望」 1万円くらいして、どうしても欲しかったのでキャッシングをして資金調達をし、購入したのだが、生まれて初めて金融機関に借金をし、越えてはいけない一線を越えた気がして、変な汗をかきながら機械から一万円を抜き取った。そんな夏に「ボンクラ映画魂」を手にする。

本書は「三角マークの東映映画で活躍した800人の主役・脇役・斬られ役グラフィティ」であり、もちろん藤沢徹夫も登場する。

ヤクザ幹部が談笑している。そこでドアが開くとかなりの高確立で藤沢徹夫の顔が登場する。「車が来ました」「おじき、電話です」「××の兄貴が会いたいって来てますが……」まるでそういう役があったらそれは藤沢徹夫だヨと決まっているかのようである……って決まってるんでしょうな、たぶん。 (195頁)


この書物の北大路欣也の項は秀逸で、刑事ドラマ「新宿警察」の最終話「長くて暑い日曜日」の記述は淀んだ空気感を伝える。それは長いので引用しないが、以下、本書よりお気に入り箇所を引用という名の抜粋。


梅宮辰夫。

数年前、東映大泉撮影所でインタビューした際、梅宮辰夫は述懐した。「『ひも』『ダニ』『いろ』『かも』『夜遊びの帝王』『女たらしの帝王』確かに衝撃的なタイトルの映画だが、自分自身、それを恥ずかしいとか思ったことはただの一度もない。映画館に足を運んでくれるお客が喜んでくれるならば、なんだってやる……」(41頁)

その「ダニ」は意外なところも登場する。大地康夫が川俣軍司を演じたTVドラマ「深川通り魔殺人事件」である。

『深川通り魔〜』で最初に狂ったのは築地の映画館の前で漏れて来る音声を聞きながらポスターを眺めながらである。萬屋錦之助の『宮本武蔵一乗寺の決闘』と、梅宮辰夫の『ダニ』であった。(131頁)


あるいは名和宏

そういえば、かつて『タイムショック』というクイズ番組に名和宏が出演した際、胸には「男」という文字のペンダントが輝いていた。どこからどう見ても男だが、敢えて「男」というペンダントをつけるそのくどさ。そこに俺はたまらなくひかれるのである。 (173)


あるいは小倉一郎

95年暮れの川谷拓三の葬儀では受付を務めた。 (56頁)

あるいは成田三樹夫

90年没。その日の『スーパータイム』ではタイトルバックに登場した。 (169-170頁)

あるいは佐分利信の「日本の黒幕」での名セリフ。

「わしは間違っとらん!一億人が間違っているのだッ!」(103頁)


なお、本書は愛川欽也にはじまり、渡哲也で終わる。


ボンクラ映画魂―三角マークの男優たち (映画秘宝COLLECTION)

ボンクラ映画魂―三角マークの男優たち (映画秘宝COLLECTION)