京洛の春を愛でる和歌〜素性法師の名歌と思わぬ所で出会う〜

呉を後にして一路、京都へ(それにしても広島県の東西に長いこと)。

去年は、桜前線の北上のタイミングとばっちりスケジュールが合って、秀吉ゆかりの醍醐寺の満開の桜を見ることができましたが・・・・今年は数日ほど京都入りが早かったせいで、楽しみにしていた哲学の道の桜は概ね三分咲きといったところ。

それでも、少し早いお花見を楽しもうと疎水縁を歩く人の多いこと、外国人の姿も目立ちました。一部の早咲き桜は満開で、その周辺には代わる代わる写真撮影をする人が蝟集しているような有様でした。夕刻、木屋町通へ移動すると桜は満開、ライトに照らされた夜桜の妖艶な佇まいは見事というほかありませんでした。


前振りが長くなりましたが、哲学の道の散策を済ませて真如堂へ向かう道すがら、吉田山荘(2012年に国の登録有形文化財に指定されています)のCafe真古館でコーヒーブレイクすることにしました。吉田山荘というのは、昭和天皇の義理の弟君東伏見宮家の別邸として昭和7年に建てられ、現在は旅館に転用されています。最近、帰化された京都名誉観光大使でもあるドナルド・キーン氏は、吉田山荘をことのほか気に入っておられるようです。

今回は、本館入口の先にある離れのカフェで一休み。2階に上がり、東山が望める席でコーヒーとチョコレートケーキを注文しました。山小屋を思わせる内装で木の温もりも感じさせます。後で男衆さんに尋ねると、元々あったガレージをカフェに改装したのだそうです。


木のお盆に載ったコーヒーと共に供されたのは大ぶりの和紙、そこには流麗な墨跡で次のような歌が認められていました。

見わたせば柳桜をこき混ぜて都ぞ春の錦なりける

三十六歌仙に名を連ねる素性法師の名歌でした。季節に応じて女将さんが和歌を認めるのだとか、なんと意気なサービスでしょうか。翌朝、川端通を車で走ると、土手には交互に柳と桜が現れ、鮮やかな緑とピンクのコントラストのそれはそれは美しいこと。錦織に見立てて素性が詠んだ京洛の春の光景が、そのまま眼前に広がっているのでした。