ヴァージニア・リー・バートンのちいさいおうち展(前編)

大人になっても手離せない絵本のひとつがヴァージニア・リー・バートンさんの『ちいさいおうち』です。ときどき、HOUGHTON MIFFLIN COMPANY版を手にとって頁をパラパラするだけで懐かしい感覚に浸れるから不思議でなりません。

そんな大好きな絵本にまつわる展覧会が開催されていると知って、いてもたってもいられなくなりました。週末、お邪魔しようと思って関連サイトを調べてみれば、土日祝日は休館日とあります。地図で住所地を検索すると、会場のギャラリーエークウッドはどうやら竹中工務店東京本店のなかにあるようです。企業内ギャラリーであれば致し方ありません。平日夕方に訪れることにしました。東京メトロ東西線東陽町駅から徒歩数分でした。

竹中工務店の正面玄関右手が会場です。こじんまりとしたスペースでしたが、展示には様々な趣向が凝らされていました。会場の空間全体がインスタレーションといっていいでしょう。小さいお子さんが座って絵本を読めるコーナーもあって、子供の背丈サイズの本棚にはヴァージニア・リー・バートンさんの絵本がぎっしり収まっていました(週末開館しないで子供が来られるのかと突っ込みたくなりましたが・・・)。以下、彼女の友人が親しみを込めて呼んだように作者をジニーと呼ばせて頂きます。


展覧会の目玉は奥に再現された「ちいさいおうち」です。まるで絵本の表紙から飛び出してきたようです。左手前には、『ちいさなおうち』の原画が幾枚も展示されています。ジニーの息遣いが今にも伝わってきそうな緻密で色鮮やかな原画でした。オリジナル版の表紙の玄関先のアプローチに意匠に似せてHER STORYと書かれていることをご存知でしょうか。「ちいさいおうち」を女性に擬えて、のどかなひなぎく(Daisy)の咲く丘から物語は始まります。皆さんご存知のように、次第にのどかな田園風景は往来の激しい都市へと変貌していきます。やがて、高いビルに挟まれた窮屈な空間へと「ちいさいおうち」は押しやられていきます。幸せだったひとときが、いつの間にか、息苦しくて切なくて哀しい時の連鎖に押し潰されていくのです。誰にも見向きもされなくなった孤独でみすぼらしい<ちいさいおうち>に、ある日突然、福音が届いて彼女の人生に再び光が差し込みます。

多感な少女時代を経て結婚し二児の母となり、絵本作家として、デザイナーとして活躍した作者ジニーの生涯に重ね合わせてみると、「ちいさいおうち」は彼女自身なのだと気づかされます。丘に咲くひなぎく花言葉は希望と平和だそうです。「ちいさいおうち」に託されたのはジニーの希望だったのです。

1回でおしまいにするのはなんだか勿体ないので、本編は後編へと続きます。