増殖する非正規労働者

最近、メットライフ生命から送られてきた「私たちの日本とお金のはなし」という小冊子を読んで、働く人の約37.5%が「非正規労働者」だという現実を知りました。80年代後半には10人に1人程度でしたから、雇用形態はこの20年あまりで激しく変化したことになります。ざっくり3人に1人が「非正規労働者」だと聞けば、「正社員」は誰しも自身が相対的に恵まれていることを再認識することでしょう。出所データを厚労省HPで確認すると、驚くべきことに、45歳から54歳世代の「非正規労働者」が400万人(全労働人口の7.4%)もいることが分かります。ライフステージにおいて教育や住宅購入等で最も出費が多いと思われる世代が、厳しい就労環境に身をおいているわけです。55歳から65歳の世代でも415万人の「非正規労働者」がいますが、彼らはリタイア目前の世代ですから、「契約社員」や「嘱託社員」に降格させられても仕方がないように思えます。

子育て中の母親のように自ら「非正規労働」を選択している場合も多々ありますから、本来「正規労働者」として働きたいのにその機会に恵まれず、やむなく「非正規労働者」の地位に甘んじている「不本意非正規」層の分布に注意を払う必要があります。25〜34歳世代の4人に1人が「不本意非正規」ですから、若年層の雇用環境は過酷です。年金受給問題においてしばしば世代間格差が指摘されますが、むしろ深刻なのは社会のとば口に立った時点における雇用格差です。学校を出て就活・就職に失敗すると、新卒印を喪って再起の道が絶たれてしまう社会はいかにも可笑しい。


かくいう非正規雇用労働者には、「パート」、「アルバイト」、「労働者派遣事業所の派遣社員」、「契約社員」「嘱託」などが含まれます。呼称の如何にかかわらず、「正社員」に比べて待遇に歴然とした格差があることは言を俟ちません。サラリーマン・OL人生をすごろくに譬えれば、「非正規労働者」は昇給・昇格をめざして駒を進めることはおろか、盤上でゲームに参加することさえ叶いません。各種保険制度の恩恵に浴することも困難を伴い、退職金支給の対象ともされません。企業にしてみれば、「非正規雇用労働者」は安価な雇用調整弁という位置づけに過ぎません。

良き時代の企業には、良き先輩上司が必ず存在して、彼らの背中を見ていれば若い世代の社員も穏やかに人生行路を歩むことができました。こうしたロールモデルの存在は、若い世代にとって励みであると共にかけがえのない羅針盤でした。企業を取り巻く人間関係から人生の伴侶を見出すこともできました。いい意味での企業というコミュニティが喪われ、若者は仮に正社員であったとしても企業では孤独な存在です。両親や学校がそうであったように、帰属する企業や地域社会が生涯学習の場としての役割を果たさないと、国力は衰えるばかりです。

終身雇用制度が崩壊し、企業の上級管理職世代の価値観が通用しない今こそ、若者の経済的社会的自立自走を支える制度基盤の整備が待たれます。通年採用など企業側にも工夫が求められます。そして、就職前の学生にあっては、企業側の採用ルールに縛られないで起業や留学など多様な選択肢を検討して欲しいものです。